本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
<< April 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 「わたしの物語」セサル・アイラ/柳原孝敦訳 | main | 2013年02月に読んだ本 >>
# 「ことり」小川洋子
ことり
ことり
  • 発売元: 朝日新聞出版
  • 価格: ¥ 1,575
  • 発売日: 2012/11/07
  • 発売日: 2012/11/07
  • 売上ランキング: 3717


小川洋子さんらしい静かな物語で、前半は退屈すら感じ、でも淡々と普通に読み終わりました。
読み終わって寝ようとして布団に入ってしばらくしてこの物語の余韻を味わっていたら
いつしか涙が止まらなくなりました。
あとからじわじわとこみ上げてくる小説です。

ことりの小父さんと呼ばれている老人が孤独死するシーンから始まります。誰も親しい人がいない
ことりの小父さんですが、保育園の鳥小屋を長年掃除していたのでそう呼ばれていました。
ことりの小父さんの亡骸は、鳥かごを抱いていて、その中にいたメジロが鳴いていました・・・

そこからことりの小父さんの生涯が語られます。ことりの小父さんにはお兄さんがいるんだけど
お兄さんは鳥がとても好きで、あるときから自分にしかわからない言語で話し始めます。
母親には通じないその言葉は弟の小父さんにだけ理解できます。
鳥の鳴き声のようなその言葉はポーポー語と名付けられます。

お兄さんは毎週水曜日に決まって飴を買いに行ったり、近くの保育園の鳥を見に行ったり、
と決まった行動を繰り返し、弟と、鳥としか会話しません。
でもお兄さんの耳は鳥の声をちゃんと聞き取り、鳥はお兄さんの前だとがんばって歌うのです。

そんなお兄さんと2人きりで静かに人生を過ごす小父さんは、お兄さんがいなくなったあとも
1人で過ごしています。保育園の園長さん、図書館の司書さん、虫の声を聞く老人、
お兄さんがずっと飴を買っていたお店の店主など、ほんの少しの人と触れあうものの、
やっぱりひとり。周りには鳥がいるだけ・・・
司書のひととのほんの少しの思い出を大事にするためにチョコレートを食べなくなったり、
小父さんは少しずつ何かを失っていくし、まわりの普通の人は、小父さんを理解できず、
悪い噂を流したりして、小父さんのほんの小さな生活が、どんどん狭くなっていく。
そして、鳥との触れあいまで奪われていく・・・

小父さんの生涯は客観的に読むとすごく寂しい。読みおわって泣いてしまうくらいに寂しい。
でも、きっと小父さんの生涯は満たされていたんだろう、お兄さんと、お兄さんの思い出と、
ほんの少しの他の人とのいい思い出、そして、ことり。それらほんの少しのものが
小父さんを幸せにしていたんだろう。そういう風に実感として感じられるから、
読み終わったあと泣いて、小父さんが寂しいから泣いているのか、小父さんが幸せだから
泣いているのか、わからなくなった。

幸せってなんなんだろう。小父さんの人生は誰もが思う幸せな人生ではないけれど、
人の幸せって誰かが「あの人は幸せだ」って決めるものではない、自分で決めるものだ。
私たちは、世間に「幸せ」と思われたくて、全てを手に入れようと思いすぎなんじゃないだろうか。
仕事、お金、結婚、出産、家、友達、などなど、まわりを固めることで幸せだと思いこんでいる
だけなんじゃないんだろうか。

小父さんにはたくさんの幸せは必要なくて、ほんの少しの幸せがあれば、満たされていた。
本当にささやかな何かで、幸せを感じていられた。
誰がなんといおうと、小父さんの心は幸せだったのだと思う。
それがわかったのが温かくて、それでもなんだか寂しくて、私はおいおい泣いたのだった。
それでも、もう少し、誰かと一緒にいられたら良かったね。メジロとも、もっと長く、
過ごせたら良かったのにね。
最後の小父さんは、とてもステキだった。

大人のおとぎ話みたいだけれど、温かい筆致ではなくて、小川さんらしい、
むしろひんやりするような残酷なような描写で淡々と書かれるこの物語に、
私はとても温かいものを感じました。言葉にできないくらい、とても好きです。
ポーポー語を話すお兄さん、とか、とても小川さんらしいです。ステキです。

私も鳥の声に耳を澄ませてみようかな、と思います。お兄さんみたいにいい耳ではないけど。
| comments(1) | trackbacks(2) | 01:07 | category: 作家別・あ行(小川洋子) |
コメント
はじめまして。
TBさせてください。
まだ、ブログを始めて間もないので、あまりよくわからないのですが…。

ことりの小父さんのように、大切なことにだけ耳を傾けて静かに生きてゆけたら素敵だと思うのですけど、それって、孤独なことで、誰かとつながろうとすれば、雑音も増える…。
生きることのせつなさがギュッと詰まった小説でした。
| aisym | 2013/04/05 2:09 PM |

コメントする









この記事のトラックバックURL
http://blog.zare.boo.jp/trackback/951053
トラックバック
小川洋子・著『ことり』
冒頭、小鳥の小父さんと呼ばれた1人の老人の遺体が発見されます。 遺体は鳥籠を抱えており、鳥籠には一羽の小鳥が。 そして、小鳥の小父さんの子供の頃にさかのぼって物語が始まります。 小鳥の小父さんには7つ年上のお兄さんがいます。子供の頃、幼稚園の鳥小屋を教え
| ほぼまっすぐ読み 感想文綴り | 2013/04/05 2:10 PM |
「ことり」小川洋子
小川洋子が孤独を表現したらこうなる。 独自の世界を描かせる事に関して、小川は優れた作家だ。   「小鳥の小父さん」が亡くなった。 20年近く幼稚園で小鳥の世話をしていた彼。 彼には独自の言葉を話す兄がいた。 その言葉は、小父さんだけが理解できた。 毎週
| りゅうちゃん別館 | 2014/07/26 4:46 PM |
NOW READING
ざれこの今読んでる本
Selected Entry
Categories
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Profile
Search this site
Sponsored Links