本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「ウエストウイング」津村記久子
ウエストウイング
ウエストウイング
  • 発売元: 朝日新聞出版
  • 価格: ¥ 1,890
  • 発売日: 2012/11/07
  • 発売日: 2012/11/07
  • 売上ランキング: 87799


椿ビルディングというビルがあって、いくつかの会社や塾が入っていて、
それは大きなターミナル駅から地下道を延々1キロくらい歩いた先にあって、
けっこうさびれていて、取り壊しとかいう噂もある。
会社が去った先が空き部屋になっていて、格好のさぼり場所になってるんだけど
そこでさぼっていたネゴロは、他に誰かがこの場所に来ているのを知る。
手紙のやりとりで物々交換をしたりしているうち、他にももう2人、誰かが来てるとわかる。

OL、サラリーマン、小学生。この3人の日常と、さぼり部屋を経由したやりとりが
淡々と、時にドラマチックに描かれていく長編。

OL、サラリーマン、小学生と言えば、同じく津村さんの小説「とにかく家に帰ります」で
豪雨に立ち向かった三人もそうでした。そしてこの「ウエストウイング」でも豪雨の日のことも出てきて、
普通だったら「手抜きちゃうか」ってくらいの設定まるかぶりなんですが、雨の中家に帰るのと
雨の中ビルで非常態勢になるっていう状況がまるで違ったし、この3人の関係も微妙に違ったので
デジャブもそんなに感じることなく読めました。これだけ似たシチュエーションで違う小説って
ある意味面白い試みだと思います。それを飽きさせず読ませる津村さんもすごい。

3人とも仕事や塾で、何となくのストレスを感じている。OLのネゴロは後輩とか上司とかと
なんとなくうまくいってないし、サラリーマンのフカボリは仕事がなさすぎて将来に不安を感じてる。
いずれの不安もイライラも働く者にとってはおなじみで、この小さなストレスわかるわかる、
さぼり場所があれば私もこうやって時間つぶしちゃうよなーって思ったりする。
ネゴロの生活にはたまに劇的な変化もあるけれど(りさちゃんの件はかなり驚いた)
だいたいが些細なことで、だからこそ共感なんだよね。

一番切実なのは塾にきているヒロシ。絵を描きたい、物語を書きたい、とずっと思ってるのに
母が勉強しろという意向には逆らえない子ども。
ここまで子どもってしっかりしてたっけとは思うけど、私もちょうど小学校の時は
夢見がちな子どもだったから(授業中小説書いてたし・・)気持ちわかるわーと思った。
この本のいいところは、そんなヒロシが、椿ビルディングというさびれたビルで
細々と商売している人たちと交流できていることかなと思う。
大人からは「ここのビルで働くような人間にはなるな」なんて言われているけど、
このビルの大人たちも楽しかったり悔しかったりしながら活き活きと生きているのが、
ヒロシにも見えている。さぼり場所で手紙で交流している人たちもそうだし、
大雨の日に出会った人たちとかともヒロシは自然体で接していて、
きっとこの子は「ここのビルで働くような人たち」を蔑んだりしないだろうし、
その後のヒロシの成長を見ていると、親が示す将来だけではなくて、
いろんな将来があっていいんだ、って思えたんじゃないかな、とも思うのだ。

大人が子どもに示す「子どもになって欲しい大人」って、なんかすごく偉い人を示しているというか
理想を見てることが多いんちゃうかなと思うんだよね。だからその成功してる大人になるために
たくさんの関門があって(中学入試とか大学入試とか)、それにちょっと失敗すると
もうダメ、って言われちゃう、みたいな風潮がある気がする。
でもさ、大多数の「普通の」人たちがいる世の中で、そういうのって変だよね。
普通には普通の良さがある。
椿ビルディングでなにが悪いんだ、と思うわけよ。椿ビルディング的な普通の大人である
私としては、ここはちょっとむきになりたいところなのですよ。

そういう普通の人たちが、例えば大雨で帰れなくなったビル内で助け合って靴下乾かしたりして
非常時にみんなで対応しているのとか、読んでいてとても面白かった。
喫茶店でみんなでてるてる坊主作って釣ったりね。
そんな中でネゴロもフカボリもヒロシも、いつもだったらすれ違うだけの文具屋の人や
喫茶店のマスターや、いろんな人と話をしたりする。(フカボリなんか大活躍をする)
みんな普通だけど生きてるんだなあって感じが溢れてて、いいなあこんなビル、ととても思う。

大阪でこういうビルってすごくありそうなんだよね。トンネル渡らないと行けないとかも
ありそうだし、ターミナル近いくせにさびれた感じの古いビルってけっこうあるから、
すごくリアルだったし、そこでいる人たちもリアル。
リアルな人たちに降り注ぐ非日常も読み応えがあっていい感じ。楽しい本です。
フカボリが遭遇する幽霊騒ぎもなんだか切ない感じでとてもいいし、また最後にフカボリが
遭遇するずぶ濡れ騒動がビル全体を動かしていくという展開はほんまわくわくしました。
サボリがばれるやん!と思ったり、でもこれで3人出会えるわーと思ったりね。
津村さんの作品にしては事件も多かったし、はらはらわくわくと読み終えました。好きだなー

3人の話でもあり、そこらへんにいる私たち普通の人たちの話でもあり、
椿ビルディングというビルの物語でもあるんだよね。いい本です。
| comments(0) | trackbacks(0) | 14:24 | category: 作家別・た行(津村記久子) |
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