本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「屍者の帝国」伊藤計劃×円城塔
屍者の帝国
屍者の帝国
  • 発売元: 河出書房新社
  • 価格: ¥ 1,890
  • 発売日: 2012/08/24
  • 売上ランキング: 2313


私が「NOVA1」を読んだあとにちょうど円城さんが受賞した芥川賞の記者会見があり、
そこで円城氏が、伊藤計劃さんが未完で遺した遺作「屍者の帝国」を完成させるという話をしていて
おおう、と興奮したというのは「NOVA1」の感想で書いたとおり。
そしてやっとその本が出たのでとても楽しみに読みました。
表紙、「Project Itoh×Enjoe Toh」って英語表記がかっこいいと思いました。

伊藤さんの書いたのはたった30ページ程度の序章。あとは円城さんに引き継がれています。
円城さんが書き継ぐときいて、伊藤さんとの関係とかデビューのきっかけが一緒とか、
いろいろ思うと円城さんしかいないだろうとは思いながらも、どうなるんだろうなあと思っていました。
円城さんの書く小説って、円城さんだけが作れる世界観があって、私のイメージでは
物語を動かすような作風じゃない。そこにある世界を説明しているだけ、みたいな作品が
多いような気がするのです。起承転結があるようなものでもない。だけど、言葉の使い方とか
文章の面白さで読ませるタイプの作家さん。私とは思考回路が違う、それが面白い、って印象。
伊藤さんは円城さんに比べたら普通の文体で、「屍者の帝国」の冒頭部分もそうだけど、
どの作品もエンターテインメントとして物語性に溢れています。それもスケールのでかい物語。
これだけ作風が違うのにどうなるんだろうか。そこが心配、というより興味を持っている部分でした。

冒頭の伊藤さんの部分から本編に入っても、違和感は感じませんでした。
円城さんが普通に読める文章で小説を書いている、これだけですごいことで、いきなり感動しました。
いえ、バカにしてるんでは全然なくて、作家が自分の文体を殺してまで誰か風に書こうというのは
大変な作業だと思うのです。感服です。
とはいえ、やっぱり円城さんっぽいところはあって、変な喩えですが「遠回しな皮肉」みたいな文章で、
読み直してみるとおお、そういう意地悪な意味か、と思ったこともあったし、
噛めば噛むほど味が出るような文章で書かれていて、クールな伊藤さんのそれとは違い、
円城さんの色が出てきてたと思います。合作ならではの小説だなーと思いました。
まあ、多少まどろっしい部分や、意味がすぱっとわかりづらい部分もありましたが。

さて、どうしてもこの本は制作過程が既に物語なので前書きが長くなりましたが。
物語は、フランケンシュタインが出てきてから、死者に知能などをインストールして
労働力とすることが可能となったパラレルワールドを舞台に始まっていきます。
ロンドン大学で講義を受けているワトソンは、教授に呼び出され、密命を受けて旅に出る。
バーナビーという、戦争屋みたいな豪快な男と、筆記を担当する屍者のフライデーとともに、
世界を股にかけ旅をする。見つけるのは「屍者の帝国」を作ろうとしている男。
しかし、物語はどんどんふくらみ、広がっていく・・・

ワトソンが主人公でも気にせず読んでたのだけど、ある時「あのワトソンか!」と気づきます。(遅い)
更に、読み進めると、アレクセイ・カラマーゾフがいきなり登場し、驚きでしばし止まりました。
先日、江戸川乱歩賞を受賞した高野史緒氏の「カラマーゾフの妹」を読んだばかりでした。
あれは、「カラマーゾフの兄弟」の13年後を描いたフィクションで、そこでも同時代の
フィクションの登場人物(ホームズとか)もちらっと出てきていたのでした。
同時期に全く別の経緯で出された本の発想がここまで被るってすごいな、とちょっと興奮しました。
「カラマーゾフの妹」のパラレルワールドと思って読むとまた面白い。
(それにしても最近「カラマーゾフ」はきてるんですかね、日本で連ドラになるようですし)

しかしこの作品はカラマーゾフの続編という位置づけには留まりません。
こんなでかいネタが過程の一つに過ぎないあたり、凄いです。
巡り巡って日本にもやってくるワトソンご一行と、謎の美女と連れの男。日本からアメリカへ。
屍者の帝国を作ろうとしているザ・ワンを追って・・・

世界規模の冒険譚、銃撃戦とかもあって十分エンタメしていて十分はらはらしました。
ここも「円城さんではないなー」という印象。伊藤さんが乗り移ったかのようでした。
働く現場がほとんど屍体にすげかわっている世界観とか、本当によく練られていて、
恐ろしさも切なさも感じました。すごい世界だ。

ザ・ワンの目的がわかってくると、恋愛小説のような不思議な感動を覚えました。
屍体だったのに蘇ってしまってひとりぼっちだったザ・ワン・・・
仲間が増えても感情を持たない屍体ばかりのザ・ワン・・彼の孤独がしみいるようで、
科学の力の残酷さを思いました。

最後は観念的になってきたなとか、謎って全部解けたんだっけ?とか、思うところもありましたが。
それでもなんか「読み切ったなー」と背伸びをしたくなる充実した読書でした。
でも時間が経つにつれ、自分があまりにわかってない気がして、もう一度読みたくなってきましたが、
あの長い本を再読することを思うとちょっと躊躇・・・文庫化したら再読したいところです。
何度も読みたくなるってのは、円城さん、伊藤さんのその他作品にも共通しますね。

ラストのラストで謎の女性の正体が明かされ、私は正直言うとぴんとこなかったのですが
わかる人にはわかる驚愕、遊び心にまた感嘆しました。
(しかし、古典や有名どころはやっぱり読んでおかんとなーと今回切実に思いました。
「風とともに去りぬ」とか・・。「カラマーゾフの兄弟」は読んでおいて良かったです。
「フランケンシュタイン」は以前ロバート・デ・ニーロ主演の映画を見ていたので
何とかついていけました。それにしてもデ・ニーロはすごかった。余談ですが。)

と、感無量になったところでさらに最後の最後で泣かせる手記が・・・!切ない。

いつまでもワトソンとバーナビー、フライデーたちの旅を読んでいたかった。
伊藤さんが続きを作るつもりだったとは思えないけれど、ずっと読んでいたい魅力に溢れた作品でした。
もう伊藤さんの新作が読めないと思うと、改めてとても残念です。ご冥福をお祈りいたします。
そしてこの奇跡のコラボに感謝!円城さんありがとうございました。
| comments(0) | trackbacks(2) | 02:29 | category: 作家別・あ行(円城塔) |
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「屍者の帝国」伊藤計劃  円城塔
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