本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「雲をつかむ話」多和田葉子
雲をつかむ話
雲をつかむ話
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2012/04/21
  • 売上ランキング: 44115


多和田さんは「雪の練習生」を読んでからとても気になり始めた作家さんで、
それでこのお話も読んでみました。
表紙がかわいらしいなあ、飾りたいなあ、と思うものの、
一番上の亀が落っこちていて実は不穏な表紙。
でも他の人に見せたら「飛んでるんじゃない?」と。そうとも見えます。それなら楽しそう。

図書館で借りて数ヶ月前に読んだのですが、内容を忘れてしまい、感想を書くためにまた借りて、
ぱらぱらと読むだけのつもりが結局一から再読しました。近いタイミングで2回読んでも
味わい深い本ですっかり堪能できて驚きました。
内容を忘れたというのも、つまんなかったとか難しかったとかではなく、
長くて変化に富んで面白い夢を見ていたのだけど、起きてしまったら断片しか覚えていなかった、
みたいなことってよくあると思うんですが、この本の忘れ方もそれに近い状態でした。
でも、忘れた、って感想はあり得ないと思ったのでもう一度読んだのですが、結局また
夢のように消えていきそうな感じだったので、読んだ直後に慌てて感想を書いています。
まあつまり、夢を見ているような本である、とは言えると思います。

多和田さんを思わせるドイツ在住の日本人作家の「わたし」が、これまでに出会った
「犯人」とのエピソードを書き連ねていく物語です。章ごとに話の内容が変わるので
短編集みたいな趣もあるんですが、全体を見ると一つの長い物語であるとわかります。

何故「わたし」は「犯人」にこだわるのか、がわかるエピソードが最初に描かれます。
「わたし」の家にいきなりやってきて本を買おうとしたけれど、結局買わずにいなくなった青年が、
実は警察に追われていて家に逃げ込んだが、あのあと捕まったのです、今は刑務所です、と
いう手紙を「わたし」に送ってきます。「わたし」はなかなか彼に会いにいけずにいるのですが、
そういうこともあって、とらわれの人について考えるようになります。
そうしたら「わたし」の周りには様々な「犯人」が出てきます・・・

「犯人」がたくさん出てくると言っても探偵ものでは当然ないし、非現実的でもなく、
シンポジウムで会った詩人が以前投獄されていたとか、昔旅行先でお世話になった女性が
その後被害者になったかもしれないとか、そういう風に「わたし」と「犯人」はつながっています。
「犯人」に出会いすぎ・・・・?とも思うけど、「犯人」という視点で思い出を辿ると
これまでの人生のいろいろあった中から「犯人」だけが色濃く浮かび上がってきたのかな、と
思うと、そういうこともあるのかなあと思ったりします。

直接の知り合いが投獄されていたりもあるんだけど、だいたいはあとから聞いた話で、
でもその断片を聞いて「わたし」が物語をふくらませていたりして、
いろんな犯人の犯した罪、その人生、などが語られていきます。どれもとても印象的。
女同士のトラブルで刃傷沙汰になったけれど結局どちらが悪いかわからなかったり、
珍しい蟻が事件を解決したと聞いて「わたし」が蟻についてこだわり続けるとか、
長年投獄されて、人間とは誰とも喋らなかったため普通の言葉が喋れなくなり、
奥様の通訳がいる人の話とか、いろんな印象的な物語が続く。
様々な独立した話のあいまに、「わたし」は手紙をくれた青年について思いをはせたり、
自分がいつ犯罪者とされるかわからない恐怖を抱き続けていたりする。

文章も流れるようで魅力的で、各エピソードも心にひっかかるようなものばかり、
更にひとつの章でもどこからが現実でどこからが夢や想像の世界なのか、夢とうつつを
行き来するような感覚があり、すごく魅力的なんです。
ずっと読んでいたいような気持ちにさせられる。

だけど、最後の2章で少し様子が変わってきます。これまでは「わたし」は語り手で、
「犯人」たちの物語が淡々と綴られてきました。でも最後になると、物語はいきなり
「わたし」のものとなります。変な言い方ですが、突然「わたし」のものとして物語が
戻ってきた、という感覚があり、それはとても不思議な感覚でした。
そうなると、今まで語ってきた犯人の物語も「わたし」との関わりも、なんだか夢のような
現実じゃないような気になってきて、よくわからなくなってしまい、それで終わってしまったので
ますます夢かうつつか、という雰囲気になっています。

フィクションなのでしょうが「わたし」が多和田さんに近いことや、各エピソードが
夢のようでありながらも時に変に具体的なこともあって、現実じゃないとわかってても
無意識に現実のように思って読んでしまっていたこともあり、だから最後に現実から
突き放されたような不思議な感じを受けました。
すごく不思議な小説でした。でも多分何度でも読めますし、何度読んでも驚きや楽しみが
あると思います。なんせ、再読は、見た夢を思い出すような作業ですから。

物語ってなんだろう、だれのものなんだろう、なんてことを思いました。
断片の事実から生み出され紡がれていく物語。作家である「わたし」は他者の物語を
たくさん生み出すことで、結局は自分の物語を書き続けていたのかもしれません。

「犯人」がテーマですから罪とは何か、とかも考え続けることになるのだけど、
そういう強い主張みたいなのは結局なりを潜めて、夢のような淡い後味が残ります。
結局は「物語」について書かれた物語なのかな、という印象を受けました。

どれだけ文章を尽くしてもこの魅力を語れないところに非常にもどかしさを感じますが、
是非読んでいただきたいなあ。
多和田さんの本はこれからもどんどん読みたいと思っています。なんだか、気になる。

| comments(0) | trackbacks(0) | 14:40 | category: 作家別・た行(その他の作家) |
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