本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「総統の子ら」皆川博子
総統の子ら (上) (集英社文庫)総統の子ら (中) (集英社文庫)総統の子ら (下) (集英社文庫)

まとまって本を読む時間が取れたので満を持してこの作品を手に取ってみました。
3冊と多いですが皆川さんだし面白いに決まっているのですぐ読めるだろうと思っていました。
しかしなかなか読み進めず、結局2週間くらいどっぷり読んでいました。
重かった、つらかった、しんどかったです。ほんまにいろんなことを考えました。
作品としてダメだからという意味では全くありません。むしろ逆。
本当につらく重い作品は涙も出ませんね。私の歴史認識をも揺るがすような作品でした。

タイトルからだいたい想像がつきますが、第二次大戦へ向かうナチスドイツのもと、
総統に心酔し、ナチスの部隊に入隊し戦った少年たちの物語です。
カールは自らの街キールから出て、ヒトラー総統の元で優秀な人材として養成される学校
「ナポラ」に入学する。そこで出会ったエルヴィンという友とともに研鑽する日々。
エルヴィンの従兄で既にヒトラー親衛旗に入り、馬術でオリンピックを目指すヘルマンに憧れ、
総統のために力を尽くそうとするカールが、戦争を駆け抜ける日々を描いていく。


上巻では、故郷を離れ強くなろうとするカールの葛藤とエルヴィンとの友情、といった感じで、
時代を忘れてしまえば青春ものとして読めなくもない。男性同士の憧憬や友情も
皆川さんらしくしっとりと描かれている。皆川作品は上質なBLだと私は思う。
カールの視点、ヘルマンの視点で交互に描かれていく物語は、中巻になると
戦争の現実が見えてくる。学校で習っていただけの憧れの戦争から、カールは実際の戦争に
駆り出され、ヘルマンも挫折を経て、特殊任務に当たらされ、総統のためにドイツのために、
自らの手を血に染めていく。白いハンカチが汚れていくように・・・

中巻を読むのが本当にきつい。戦闘の現実がこれでもかと描かれていき、残酷に切り刻まれた
死体の描写なんかも延々と続き、だんだんと読んでる側ですら死体に慣れていってしまうくらい。
今までいた戦友があっさり死んでいく。自分の指示で数多くの人が意味もなく虐殺されていく。
そんな日々を過ごし心折れながらも過ごすヘルマン、それでも戦い続けるカール。
カールの戦いには疑いがない。総統のために、ドイツのために、自分は当然戦っている。
どれだけ苛酷な現場であってもそこには一片の曇りもないのだ。
そして下巻。捕虜としての苛酷な日々が描かれていく。もう、戦闘シーンとか捕虜シーンとか
ずっと続いてとにかくつらすぎる。
捕虜を紳士的に扱う条約が守られていない現実に、二人は打ちのめされる。

ものすごく苛酷な戦争を過ごして、しかし彼らの忠誠はやはり揺るがない。
そんな二人の姿を読んでいると、同じ敗戦国の日本人として、いろいろ考えてしまった。

日本も同じように戦争に負けた。私はもちろん戦後産まれだけれど、今までずっと何となく、
日本は戦争を仕掛けてしまって申し訳ない、って気持ちがあった。そういう風に教育を
受けてきたんだと思う。東条英機は戦犯として裁かれた、といったような教育を。
でも私は祖父が戦死しているので、複雑な気持ちになる。祖父は祖父であって、兵士という
認識はないのだけど、でも祖父が母の顔も見られず死んでしまったことは残念だし、
祖父も含め、兵隊さんたちは洗脳されて戦争に行ってお国のためにとか言って死んでいって
かわいそう、って気持ちは心の片隅にずっとあった。
でもこれ読んだら、なんかそれは後世からみた一方的な見方かも、と思った。

この小説は徹底してドイツ側視点で書かれている。ドイツがソ連からどれだけ被害を受けたか、
連合軍からどれだけ酷い扱いを受けたか。でも戦いが終わって蓋を開けてみると、
ナチスドイツが悪、連合軍が正義。そういう図式ができあがっている。
そりゃヒトラーがいい人だなんて当然思ってないけど、ヒトラーと戦った相手が
全員悪くないのかと言われたらそれは当然違う。
でもそれはヒトラーという巨大な悪に埋もれ、忘れられがちだ。

歴史は勝った側が作るのだ。
戦後日本も、勝った側が作った歴史を学んできたのではないか?

だからといって、日本が悪くなかった、日本は正義だ、などと唱えたいのでは全くない。
正義も悪もない、ただ戦争はしてはいけないっていうだけ。どっちが正しいとか絶対ない、
どんな理由があってもどちらかがあとから正当化なんてできるようなものではないのだ、戦争は。
これを読んでいると、心底そういう想いがわいてくる。

国のためにと戦い死んでいった兵たちは、洗脳されてかわいそう、なんて後世の私が
哀れむような存在じゃない。彼らはその時代にはそう生きるしかなかったし、
その時代でも彼らは精一杯生きたのだ。
カールやヘルマン、エルヴィンの活き活きとした人生は、その時代に生きたヒトラーユーゲントたちの
人生を思い起こさせる。そして私は今まで何となく可哀想だと思っていたことを猛烈に反省した。
彼らは精一杯生きたのだから、それぞれの人生に誇りを持っていいのだ。
でもね、だからこそ戦争はしてはいけない。人が自分のために生きられない、
国のためにしか生きられないっていうのは、不幸でしかないと思う。これを読んですごくそう思う。

歴史認識が揺らぐまでの本を初めて読んだ。これはすごい本である。
中巻で挫折する人もいるかもしれないが、是非最後まで読んでもらいたい、と思う。
終章が効いている。彼らの人生が、今の時代にもつながっていると実感できる。
思ったことの半分も書けてないのだけれど、いろいろと得られる読書だったことは間違いないです。

皆川さんの作品は未読のものがまだまだあるので、これからも読み続けます。
「開かせていただき光栄です」のようなエンタメも、こういう重厚な本も書けて、
日本だけの視点にとどまらない日本人作家。素晴らしい作家さんです。
| comments(0) | trackbacks(0) | 17:57 | category: 作家別・ま行(皆川博子) |
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