本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「残念な日々」ディミトリ・フェルフルスト/長山さき訳
残念な日々 (新潮クレスト・ブックス)
残念な日々 (新潮クレスト・ブックス)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 1,995
  • 発売日: 2012/02/29
  • 売上ランキング: 303259


ツイッターで豊崎さんが絶賛していたような記憶があり、それで私の記憶にも留めていたのですが
やっと読むことができました。クレストブックスって分厚いイメージがあるけれど
これは普通な感じ。表紙も味があってステキです。

残念な人たちのお話、くらいの予備知識しかなかったのですが本当にそのとおりでした。
主人公は母と離れて父と暮らす少年。舞台はベルギーのフランダース地方あたり?で
田舎の村、って感じのところです。少年の父には兄弟がたくさんいて、少年と近い年齢の弟もいる。
彼らどうしようもない父とおじさんたちと過ごした日々が連作短編の形で描き出されます。
でもその「残念な」日々がとても素晴らしい日々なのです!すごくいい小説でした。

最初はとにかく面白い!
兄弟は貧乏なのに大酒飲みな女好き、とにかく水を飲むみたいに酒を飲んでいる。
私はお酒は飲めないんだけど、飲んで陽気になっている人たちを見ると
幸せな気持ちになるので、この本もずっと幸せな気持ちで読んでいました。
美人だった伯母が村に気取った娘とともに戻ってきたりして兄弟があたふたする短編では、
最後のオチに笑ってしまったし、赤ん坊が沈んでいるという噂の池を巡るエピソードは
ちょっと不気味だったりして、いろんな味わいがあるなあと思っていたら、
あほ兄弟たちの本領発揮なのが「ツール・ド・フランス」。
これはツール・ド・フランスみたいにひたすら酒を飲み続けようという大会を企画してしまった話。
なんでそこまでして飲むの!!と笑いながら読めるんだけど、どーしようもない息子たちに
期待したり落胆したりしている母(少年にとっては祖母)の心情を考えると切なくもなる物語。
それから、借金でテレビが取られちゃって、でも家族みんなで大好きな歌手の復活が見たくて
奮闘するお話もすごく好きだなあ。ほんま幸せな気持ちになった。

酒を断つために病院に入ろうとする父を止めようとする(!)兄弟たちとか、
彼ら兄弟は本当にどうしようもなくって、家は汚れまくりで臭いし、おかげでセレブな友達に
「もう遊ばない」とか言われたりもするんだけど、少年はそんな面白い家族に誇りを持っている。
私も、本当の家族がこういう感じだったらどう思うかは正直わからないけど、
この家族はいつも賑やかにあほなことをやっていて、貧しくても好き勝手していて、
生きてる!って感じがしてとても好き。お金持ってて上から目線だけど寂しいセレブより全然好き。
なのでちょっと切ない時もありつつ、ずっと愉快な気持ちで読んでいました。

だけど、読み進めるうちにわかってくるんだけど、これって回想録なんだよね。
後日、作家になり偉くなった(なってしまった)少年が、昔を思い出しているのだ。
あの賑やかな、貧乏だけど愛に満ちた日々は、もうそこにはない。
大人になった少年は、懐かしさと、もうそこには戻りたくないという葛藤をも抱えて、
その思い出を見つめている。

最後の方でその構成に気づいたとき、だんだんとしみこむものがあった。
もう戻れないからこそ素晴らしい思い出。戻りたいような過去の汚点のような複雑な
心境でそれを思い出す作家の、それでも愛に満ちた筆致が、切なくて泣けてくるのだ。
自分の子どもが産まれてきてしまう、そのとまどいを思う時、自分が産まれた時に
あほみたいに喜んでしまった父のエピソードを思い出す作家。
貧乏であほみたいでも、あんなに祝福されて産まれたら幸せやん、私はそう思います。

この本は作家の自伝的小説という。それを知ってまた泣けてきた。
また普通に、家に帰ったらいいのに。わだかまりを消して帰れたらいいのにね・・・。

ラストから2つめの短編、「民俗学者の研究対象」には大泣きしました。

リアルタイムじゃないからこそ、思い出は楽しく、そして切ないのだなと思います。
過ぎないとわからないこともある。
リアルタイムで読んでいて、それがいきなり過去になった時、私も一緒に大人になって
しまったような、そんな寂しさを覚えて、それだからこそ、過ぎ去った「残念な日々」が
とても愛おしかった。

すごくいい小説。思い出を持つ大人なら、年を取ってしまったからこそ余計に、
心に響くのではないかと思います。是非読んでみてください。
| comments(0) | trackbacks(0) | 17:47 | category: 海外・シリーズ別(クレストブックス) |
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