本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「晴天の迷いクジラ」窪美澄
晴天の迷いクジラ
晴天の迷いクジラ
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 1,575
  • 発売日: 2012/02/22
  • 売上ランキング: 1816


窪美澄さんは話題の作家だ。デビュー作で山本周五郎賞を受賞したり、映画化されたりしている。
その本「ふがいない僕は空を見た」を私は読んでみて、集中して読み終えたし、
良かったとは思ったんだけど、この作家さんが自分に合うか合わないか、
いつもすぐにわかるのに、なんかぴんとこなかった。どうしてかはわからない。
「ぴんとこないということは、この作家さんとは合わないのかな」って思ってた。

そういうわけで、この本を手に取った時も、「自分に合うか合わへんかもわからんのに
流行の作家だからってとりあえず読む自分ってどうなん」って自分につっこんだし、
題材もネットでちらっと見ると暗そうな感じだし、読むのどうしようかな、と一瞬迷った。
でも迷いながらとりあえず1ページ目を読んでみて、すっとのめり込んで夢中で読み、
読み終わったら泣いていました。読むのやめなくて本当に良かったです。

4つの断片から描かれる小説、短編小説4つとも取れるし、全部まとめて長編とも取れる、
凝った構成。こういう構成なのがおもしろいんですよーって書きたいけど、読んでいる間、
この小説がどう転ぶのかわからなかったのも面白かったので、書かないでおきます。

由人はデザイナーとして働いて、かわいい彼女もいたけど、仕事が忙しすぎて彼女に振られ、
それでも仕事が忙しすぎて薬を飲みながら働く・・・。最初に描かれるのはそんな彼の日常。
こうやって働きすぎて、生きる感覚が麻痺して、病気になったり死にたくなったりするんだろうな。
死のうというはっきりしたきっかけがあるわけでもない、ただ、日々のしんどさの積み重ねで
なんとなくもういいかな、と思う、その感じがすごくリアルに思えました。
私の周りにも多忙すぎる人はいっぱいいて、特に30代後半で働き盛りなので、
多忙すぎて突発性難聴になったり、急に連絡が取れなくなったりする人もいました。
なんでこんな国になったのかなあ、と主人公が思うシーンがありますが、確かにそう思います・・・。

次はその会社の社長の過去。男勝りの女社長の過去と、現在までつながる彼女の心境が描かれる。
丁寧に描かれています。絵を描くのはうまくて、他に何もなかった少女の孤独が、
魚臭いと言われる海辺の田舎の町を舞台に描かれていて、切実なものを感じました。
その田舎の閉塞的な、やりきれない匂いが伝わってくるようでした。

「ふがいない僕は空を見た」でもそうですけれど、この作家さんは特に「子どもを産む」と
いうことに他の人とは違うこだわりを持っているように思います。
出産や子育てのリアルがすごく描かれてる感じがして、それが生々しいのがつらい。

第3章でいきなり現れる正子という少女。幼い姉を病気で突然亡くした母が、正子には
過剰なくらい気を遣って育てる。その過剰すぎる愛情(突然死なないで欲しい、と
過剰に心配するのを愛情と言っていいのか疑問はあるが、他にどう言えばいいのか)に
押しつぶされていく少女の姿がこれもまた痛々しい。
産む、だけではなくて育てることの難しさにも踏み込んでいく描写。
母が悪人なわけでもないのに、かみ合わない二人の関係は、つらかったし、
友達との出会いや別れを経て、正子がいつのまにか壊れてしまう描写も、
友達のことも直接のきっかけでもなくただ気づいたらいつのまにか壊れていたというあたりが、
すごくリアルだと思いました。

そんな三人を癒すのは、海岸に迷い込んだクジラ。
クジラは沖に出られても助かるかどうかわからない。そんな現実も突きつけながらも、
それでも彼らは自分に向かって聞こえるこんな声を聞く。「死ぬなよ」
将来幸せかどうかわからない、今よりダメかもしれない、でも生きていこうと思わせる、
100%の救いなんかないけれど、ほんの少しの救いだからこそとても響く物語でした。
最初はすごくいろいろ意外に思ったり先が読めなかったりしたけど、
読み終わったら案外意外性のない、読んだことありそうな物語になっていましたが、
それでも気づいたら泣いてました。ベタなように見えてそうでもない、
ありそうだけどない、そういうスペシャルな物語だったのだと思います。

個人的には「ふがいない僕は空を見た」より好きでした。これで窪さんの小説を
読み続けようという気持ちにはっきりなれました。前回の迷いは何だったのかなあ。
| comments(1) | trackbacks(2) | 21:58 | category: 作家別・か行(その他の作家) |
コメント
はじめまして。こんにちは。
こういう連作の形態は、以前ですと、村山由香さんの“星々の舟”が、私には初体験でした。もちろん、この“星々の舟”も見事なのだけれど、窪さんの、“ふがいないー”、そして、この“晴天の迷いクジラ” は、両作とも素晴らしい小説だと思います。
世の中の人たちは、この悪い経済状況の中で、必死に、明日の希望も見えない中で苦しんでいて、この主人公たちとは程度の差はあれ、極めて救いようのない状況に置かれています。
励まし・状態の棚上げは、もう無意味なのかもしれません。
“ただ、死ぬなよ” それしか彼らには言えないのだけれど、それは暗雲の中の、ほんの少しの、救いの光だと思います。
| 上田清隆 | 2012/06/24 9:09 AM |

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