本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「犯罪」フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一訳
犯罪
犯罪
  • 発売元: 東京創元社
  • 価格: ¥ 1,890
  • 発売日: 2011/06/11
  • 売上ランキング: 7031



このミス海外部門2位、らしいですが私がこれを知ったのはツイッターでした。
ツイッターの面白い本情報ほんますごいです。書評家さんとか編集者さんとか
がんがんフォローさせてもらってるので。ありがたいことです。
そういえば、ツイッター文学賞でも確か3位でしたね。

著者はドイツの弁護士さんだそうで、弁護士の「私」が常に出てくる、
事件の覚え書きみたいな短編集。実体験を題材にしてるのかどうかは知りませんが、
題材と「私」の存在でそう思えてしまって、おかげで余計面白く感じます。

何か事件が起こって、犯罪があって、犯人がいるわけですが、その犯人がどうして
犯罪に至ったのかが、極めて簡潔に説明されています。本当に無駄のない文章なのに、
彼らの人生がどうなって、だから犯罪が起こって、ってのがすごく納得できる短編が多かった。
しかし例外も多々ある。いろんなパターンで見せる「犯罪」。
第一作とは思えない職人芸だと思いました。

以下、簡単に短編の感想を。
最初の「フェーナー氏」。長年連れ添った夫婦の間に起こった事件が描かれるが、
フェーナー氏が非常にまじめで律儀だったことから事件が起こったことがわかる。
彼の起こしたことは罪には間違いない、だけど彼を100%非難する気にもなれない。

次は「タナタ氏の茶碗」。最初の話で傾向をつかんだと思ったらまるで違う話で驚く。
うっかり日本人の茶碗を盗んでしまったこそ泥が、えらい目に遭わされる物語。
裏組織が暗躍しまくってる感じの恐ろしい話で、おいおい日本人怖いよ、って思った・・。

次は「チェロ」、ある姉と弟の生まれ育ちが語られていき、犯罪に至ってしまうまでが描かれる。
厳格すぎた父も原因かもしれないけど、彼らの人生は結局「悪」というより、
悲しみで彩られてしまっている。チェロの音色が悲しみの余韻として残るような短編。

「ハリネズミ」はわけがあって何度も読み返したが(わけはあとで書きます)、
犯罪一家の兄弟で唯一異彩を放つ弟の、ある企みが描かれている。裁く側の先入観を
うまく利用した弟のやりくちに、最後ににんまりしてしまう短編。

「幸運」は、様々な経緯を経て出会った男女が、きっと彼らならこうするだろうなあと
思わせる行動に出る。おぞましい描写もあったが、ラストはまさに「幸運」だ。
ほんまに短い短編なのに長いラブストーリーを読んだかのような読み応え。

「サマータイム」は、最初からわりと犯人がわかっていることが多いこの短編集のなかで、
いきなり本格推理で、最後にあっと言わされた。ドイツ人か、ドイツ文化わかってないと
ちょっと思いつかない感じだけど、そういやヒントはどーんと書いてあってフェアかも・・。
最後もやっとした感じは残るが、裁判の面白さを堪能できた一篇でした。
しかし「私」、あそこまで黙ってるって、性格悪くないか。いいけど。

「正当防衛」も怖かった。これは犯人像がまるで見えないあたりが不気味で怖かった。
正当防衛って難しいよね、裁くの。ってすごく思った。

「緑」は強烈なインパクトが残りました。羊の目玉が取られる事件だから・・・
目玉くりぬいたりとか考えるのすごい嫌。誰でもだと思うけど。
でもなんかこの物語は、最初のおぞましさと最後の読後感がだいぶ違っていました。
タイトルの「緑」がすっごい意外なところで出てくるからかもしれない。
なんか犯人が憎めないなあ。不思議な後味が残りました。

「棘」は、ずーーーーっと同じところを警備させられた男性が犯した犯罪を描くんだけど、
そりゃあそこで定年まで働いたらおかしくもなるよ、って感じ。ひどいよ・・
彼のストレス解消の持っていき方がすごい方向に転ぶんだけど、おかしくなったら
人間何するかわからんよね、ってあたり、事実は小説より奇なり、的な雰囲気を感じて、
「もしや実話?」と思ってしまった。

「愛情」は歪んだ愛情がテーマ。理解できない愛情でしたが、こういう人が
普通に世間にいるんだなあと思うと恐ろしいですね。佐川一政について調べてしまった。

ラストの「エチオピアの男」も、波瀾万丈すぎる男の物語が語られ、彼がやむを得ず犯した
犯罪がクローズアップされるんだけども、これは後味がよかった。これがラストで良かったです。
でも同じ犯罪でも、いい人がやった犯罪と、ほんまに悪い奴がやった犯罪だったら
刑が違ったりする。その違いってすごく人間的なもので決定される、ってのが、
変といえば変だなあと思う。犯罪も罪も、その人がどう生きてきたかで左右されるものかな、
ちゃんと生きてなきゃいけないな、なんて思った。

どれも簡潔に描かれる物語から立ち上る様々な余韻をじっくり楽しむ、そんな物語集で、
面白いから一気にがんがん読みたいんだけど、結局一篇ずつゆっくり読みました。
薄い本だけど、すごく濃厚な感じがしました。

もう一つこの短編集には仕掛けがしてあって、それはリンゴ。
どの短編にもリンゴが登場します。それも印象深いシーンで。途中でそれに気づいた私は
また最初に戻ってどの短編も読み返しました。「ハリネズミ」だけ見つけられなくて
おかしいなあ、と思っていたけれど、トマト=ドイツ語で「天国のリンゴ」と知り、納得。
そして一番最後には「これはリンゴではない」って書いてあるんだよね。
リンゴ=犯罪なのかな?と思うと、この短編集全部が「これは犯罪ではない」って
言っているようで、深読みしてしまうわ。リンゴは裏表紙にも書かれていますしね。

そういえば装丁も、私はこういう装丁はすごく好きです。

様々な企みに満ちている短編集、むっちゃ面白かったです。
次回作「罪悪」も読むの確定。楽しみです。
| comments(1) | trackbacks(1) | 00:50 | category: 海外・作家別サ行(その他の作家) |
コメント
アップルグリーンではなくて?
| 通り魔 | 2012/09/17 3:05 AM |

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人間が犯罪を犯すとき
小説「犯罪」を読みました。 著書は フェルディナント・フォン・シーラッハ 題名通り弁護士が遭遇した「犯罪」について語られる 11編の短編集 いや〜 味わい深い 淡々と事実のみで語られていく文章 しかし 引き込まれていく 11編もありながらも ハズレという感の話
| 笑う社会人の生活 | 2013/01/06 1:31 PM |
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