本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「神様のカルテ」「神様のカルテ2」夏川草介
神様のカルテ (小学館文庫)神様のカルテ 2

信州の24時間営業を掲げる地方病院で働く医師の栗原一止。
休む暇もない激務で毎日すごい顔で働きながら、様々な患者と出会ったり、
医療現場の矛盾を感じたりして、日々悩み、乗り越えていく。
一止と、写真家の妻のハルとの交流、御嶽荘での個性的な面々とのやりとりも味があるシリーズ。
「2」の方が長い予約期間を経て手元に届いたので、なんとなく2作同時に読んでみました。

最初はちょっと失敗したかなと思いました。主人公一止の一人称で描かれるこの物語、
夏目漱石の「草枕」にかぶれている主人公一止の語りや喋りはことごとく明治時代で、
完全に一人浮いてます。変です。こういう文体の先駆者には森見氏がおり、そうか森見氏も
もしや夏目漱石の影響を!?と思う程度には似ています。ただ、森見氏と違って、
主人公だけがそうなので、違和感このうえなく、慣れるまでだいぶかかりました。
でも、最後の方になると、その語りが何とも言えない味わいを醸し出してるのがわかり、
むしろ「一止はこうでないと」と思うようになります。不思議です。
読み終わったころには「草枕」を購入していました。すごい影響力です。

もう一つ最初に失敗したかなと思った理由は、みんながいい人すぎること。
一止も妻のハルも、御嶽荘の人々も病院の人々も、みんないい人なのですよね。
個性は売りにしてるんだけど全員いい人だから、なんだか薄っぺらく感じてしまって、
特に「1」ではその傾向があったので、私は何となく軽い気持ちで読んでいました。

でもね、著者がお医者様なのです。地方医療の現状のリアルさは本物でした。
「1」の後半、一止が気にかけていたある患者さんのシーンで私は急に胸が詰まって、
涙が出てきました。自分でも驚きました。
地方の医療は、何が何でも治す、チューブだらけになっても生かす、そんな医療ではなくて、
患者さんの人生の終わりを、苦痛の内容にケアしながら、見守る。
そういう医療なんだなと思いました。もちろん治せる患者は治すんですが、
治らない患者が、人生の終わりを綺麗にしめくくれるように、みんなで見守る。
治せない現実はつらいけれど、一止が勤務する病院で死を迎えられる人たちは
幸せなんじゃないかな、そういう温かい人たちを見て、なんだか泣けてきました。

人生の終わりをどう締めくくるかを思うのは、どう生きるかの裏返しでもあるような、
大事なことだと思うのだけど、私なんかはなかなかそこまで思えないし、家族に対しても
そこまでは考えられない。やはりつらいことですから。
それでも、こういう病院で締めくくれるなら、悪くないな、と思える、
そういう医療をしている病院の人々の物語に胸が温かくなりました。

なので「2」はそもそも好感度アップして読み始めたせいもあるかもしれないけど、
「1」より良かったと思います。だいたい続編って最初を超えられないものだけれど、
この作品に関しては、書けば書くほど良くなるのでは、という期待が生まれました。
テーマとしては「1」の流れもくんで、「1」とよく似た「寄り添う医療の良さ」を
感じさせる作品でもあり、すごく良かったのですが、それに加えて、
一止の友人の進藤が登場し、彼の悩みや一止の悩みを追うことで、地方医療の限界を
私たちに伝えてきます。「医師だって人間。」当たり前のことなんだけど、
実際は地方には医師がなかなかこないけれど病人は減らない現状や、
休みを取って患者が急変して家族に叱責される医師の現実を見ると、
患者ももちろん死に瀕して必死ではあるけど・・・、難しいなあ、と思わされます。
でもこの病院ならきっと乗り越えられる、って安心もあって、最後に一止が
事務方に向かって意見を言うシーンは「そうだそうだ」と胸がすっとしました。
進藤も、いつか幸せな家族に戻って欲しいなあ。

「チーム・バチスタ」のシリーズと同じお医者さんが書いている物語ですけど、
だいぶ印象は違います。海堂さんは攻めの姿勢だけど、夏川さんはやんわりと穏やかに
地方医療の矛盾や限界を伝えている。でもその矛盾は、制度を根本的に変えないと
改善できないような重さを持っているし、普通の人たちが普通に生きていくためにも、
考え続ける意義はあると思う。
小説という形では、こうやって作品を通じて私たち読者には伝わるのですが、
制度を変える側の人たちに伝わるのかどうかは疑問です。でも伝わると良いなと思います。
| comments(0) | trackbacks(0) | 23:17 | category: 作家別・な行(その他の作家) |
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