本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「笑い三年、泣き三月。」木内昇
笑い三年、泣き三月。
笑い三年、泣き三月。
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2011/09/16
  • 売上ランキング: 16088


戦後すぐ。田舎から東京に出てきた善造は、万歳の芸で東京浅草で一旗あげようとやってきた。
そこで出会った少年、武雄に身ぐるみはがされそうになっているのにも気づいていないお気楽者。
武雄は武雄で、金づると思った善造が期待はずれと気付いたが、家族もいない武雄は
成り行きで善造とともに、小さな劇場に就職することになる。
善造は、町で出会った屁芸の達人?の光秀とコンビを組もうとするが、
帰還兵の光秀は完全に拒否し、さて善造の芸はどうなるのか・・・。
孤独な三人が繰り広げる戦後のドラマ。

木内さんの新作は装丁の色合いがとてもステキです。優しい色あいで、すごく好き。
直木賞受賞後の木内さんの新作、というだけで手に取ったので、何の前情報もなく
読んだのですが、装丁どおりの温かくやさしいお話でした。
三人の視点が交互に切り替わる構成で進んでいくんだけど、
最初は善造にイライラさせられます。ほんまに戦争を体験したの?と
思わせる何とも能天気な雰囲気で、他の二人の視点で読むと、ほんま空気読めてない感じがしてね。
武雄も空襲で両親を喪っているけど、嘘をついて大人に本心を見せないようにしているし、
光秀も南の島で生きるか死ぬかの戦をしてきて、右耳は欠けてしまっている。
そんな二人からしたら戦争の悲惨を経験していない善造の能天気さは目に余るし、
私もどちらかというと二人の視点で読んでいたのです。

でも不思議なんですよね。善造はピン芸人でやらざるをえなくなるのですが、
そのまっ正直さ、明るさが、温かい芸となって、いつしか笑いが生まれていく。
光秀にはちっとも面白くない、毒のない話芸は、日常の出来事を温かく笑いに変えたもので、
それを目当てに、戦争で心がささくれた人たちが劇場に足を運ぶようになる。
武雄はいつしか、その温かさに癒されていく自分に気づき、複雑な気持ちになったりします。

すごく悲惨でみんなが投げやりになってる時代に、まっすぐな正直さが持つパワーというのを
ひしひしと感じさせられる物語。まっすぐは強いのです。
私もいつしかやさぐれている自分に気づかされました。
当時もやっぱり芸のジャンルではエロが盛んで、女は脱いでなんぼ、みたいになってきて、
劇場のふうこさんとか踊り子もどんどん脱がされて行くんだけど、
彼女達の思いっきりの良さも読みどころですが、
エロもいいけど、温かい笑いもいいよなあ、とすごく思ったのでした。

そして、木内さんのすごいところは、激動の時代に生きる普通の人たちの生活を描くのが
ものすごくうまいというところかなあ。歴史に残る人たちを描くより、彼らを生活感たっぷりに
描く方が、難しい部分があると思うのです。それを詳細まですごく丁寧に描いている。
当時の浅草の様子とか、武雄が頭から浴びてる虱の薬のこととか、食生活とか、
見てきたかのようなんですよね。だからそこで生きてる人々が本当に活写されてる。

それにね、立派な人ばかり出てこないの。どっちかというとダメな人たちばかりで、
光秀が善造に「経験が身にならない浅はかな人もいるんだ」みたいなかばわれ方をしてて
「お前にだけは言われたくない」ってすごく怒るシーンがあるんだけど、
善造も光秀もまさにそんな浅はかな大人たち。光秀も戦争に行ったとも思えない
薄っぺらさだし、善造はどこかからタイムスリップしてきたかのような現実感のなさ。
でも、彼らはそこで生きて年を重ねてきてるはずなのです。
私ももういい年だけどさ、まだまだ薄っぺらくて、人生経験どんなに積んでも
やっぱり浅はかだし、実際、年とってる人が全員悟り開いてるとは到底思えないのが実態。
そんな人たちをとても生き生きと描いていて、それがまた、だからこそ、憎めないんだよね。

「漂砂のうたう」でも幕末を生きた普通の人たちをダメな人はだめなりに描いてましたが、
それと同じくらいの「普通の人たち」のパワーを感じました。
戦争や幕末などの体験を経てても、やっぱりどーしようもない人たちを描いた日常で、
これだけ生活感あふれる温かい感動。やっぱり「普通」でどうしようもない私が読むと、
身の丈にあった感動というか、そんな気がしました。あ、いい意味で、です。

卵ご飯をみんなで食べるシーンはすごく良かったし、感動しつつも武雄の食べっぷりに笑えた。
毒のある笑いもいいけれど、善造はこういう笑いをみんなに提供して、温かい笑いを作ってほしい。
それは現代にも言えることかもしれないです。
戦後の復興と震災からの復興。辛いことは多いけど、温かい笑いを忘れず過ごせたらいいな、と思う。
いい作品をありがとうございました。
| comments(0) | trackbacks(0) | 10:19 | category: 作家別・か行(木内昇) |
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