本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「ソーラー」イアン・マキューアン/村松潔訳
ソーラー (新潮クレスト・ブックス)
ソーラー (新潮クレスト・ブックス)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 2,415
  • 発売日: 2011/08
  • 売上ランキング: 106100


昔、物理のジャンルでノーベル賞を受賞したマイケル・ビアード。
今の彼はまるまる太って、過去の栄光で名ばかりの所長をしたりして暮らしている。
アイデアはわかず仕事はいまいち。そして、5人目の妻が彼の浮気癖に耐えかね、
いきなり公然と愛人を持つようになる。急に妻が愛しくなり彼は嫉妬に苦しむ。
環境問題に取り組む研究所の所長もしている彼は、妻への嫉妬を抱えながら
逃げるように北極へ出向き珍道中を繰り広げるが、戻ってきてから彼の運命が動き出した・・

ソーラーってタイトルなんですが太陽光についての蘊蓄で難しいとかは全然ないです。
むしろ研究者なんだからもうちょっと語れよ、ってくらい、主人公のビアードはひどい奴です。
5回も結婚しててそれだけでひどいし、それでも女癖が悪いこと悪いこと。
チビでデブで、外見的にはもてる要素はないんですが、案外こういう脂ぎった中年男性って
もてる人っていますよね。ノーベル賞を受賞したという栄光のせいもあるんでしょうが
読んでいると、この人すごく卑小な精神の持ち主で全然ダメなんですが、変な愛嬌があって
憎めないところも多くて、母性本能をくすぐるのかもしれない、と思ったりしました。
私はこんな人ごめん被りますが。

今まで読んだイアン・マキューアンの作品とはだいぶ雰囲気が違いました。
3作品しか読んでないのに言うのもあれなんですが、たった1日を描いた長編「土曜日」や
上下巻の上巻で運命の1日が濃厚に描かれていた「贖罪」とか、短い時間を濃密に描く
作品を主に読んでいたので、時系列が前後しながら凝った構成で進むこの作品はまた新鮮でした。
ダメすぎる主人公の言動はブラックユーモア満載で、思わず笑ってしまうような出来事も多くて、
でも女性たちとのやりとりなどでは、会話の端々に緊迫感が溢れていて、
今までの濃密な描写が遺憾なく発揮されています。緩急がうまいなあと思いながら読みました。

大きなテーマが地球環境についてなんだけど、ここに出てくる人の誰一人として、
もちろんビアードは当然として、誰も真剣に地球のことなんか考えてない。
温暖化対策はあくまでビジネスであり、金儲けの手段であり、自己満足の手段でもある。
そんな風に読めた。今の世の中だってそうかもしれない。本気で考えてる人って、
一体どれほどいるんだろうね。と、自戒もこめて思います。
私だってエコバッグ買ってるけど、うっかり持ち歩くの忘れて、またエコバッグ買ったりして、
エコバッグ何個も持ってます状態になってる。これって本当にエコかしらん・・・。

そんな「本気じゃない」感じが、ラストの怒濤の展開にも現れていて、皮肉だなあと思った。
ラストは、ビアードが抱えている問題、でもなかったことにしていた問題が
次から次へと怒濤のように押し寄せてくる。その様は笑うしかないのだけれど、
彼の数年間、いや、彼の人生ってなんだったんだろう、なんて、なんだか空しさも感じる。
人間って儚いなあ・・・

最低男の顛末を笑って読みながら、いろいろと考えさせられる鋭い物語になっていて、
構成も引き込まれるし、すごく面白く読みました。

イアン・マキューアンはイギリスの作家。今まで意識はしてなかったんだけど、
私ってアメリカ人ではなくてイギリス人の書くものを好んで読む傾向があるなあ、と
最近気づきました。イギリスっぽい、ブラックなユーモアがぴりりと効いたものが好きらしい。
イギリスばかり読んでて他の国と比較できないのにイギリスっぽいも何もないやろ、って
感じでしょうけど、何となく独特のイギリスっぽいとしか言いようがない部分ってありますよね。
カズオ・イシグロもイギリスだし(彼の作品がブラックユーモアかどうかは置いておいて)。
ウッドハウスとか、最近ではダグラス・アダムスも好きになりましたし。
自分のこととはいえ新発見でした。余談ですが。
| comments(0) | trackbacks(0) | 01:23 | category: 海外・作家別マ行(イアン・マキューアン) |
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