本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「馬たちよ、それでも光は無垢で」古川日出男
馬たちよ、それでも光は無垢で
馬たちよ、それでも光は無垢で
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 1,260
  • 発売日: 2011/07
  • 売上ランキング: 20691


古川日出男氏は福島県出身。この本を読むまで知らなかったんだけども。
東北6県を舞台にした「聖家族」も書いていて、東北にゆかりが深い。
その古川氏が、東日本大震災後、相馬市に行く。
そこに行け、という声に突き動かされて。
古川氏の、震災からの心の軌跡を追った、私小説的な小説。

震災を経験した作家さんは多々いる。伊坂幸太郎氏、冲方丁氏・・。
それに、震災を実際経験したり被災したりしていなくても、震災以前と震災以後では、
どの作家さんも価値観ががらりと変わってしまっているんじゃないだろうか。
一般人の、被災していない私ですらそうなんだから。
あり得ないことが起こった、世界が変わってしまった。信頼していた「何か」が
根こそぎ崩れ去った感じがした。もう何を信用していいかわからない不安、恐怖が
底の方に根付いてしまった。それでも人は生きていくのだけれど。

震災をまっすぐに見据えた作品がこれから生まれてくるのだろうと思うけれど、
私にとっては、今の震災を描いた最初の作品がこれだった。

古川氏は「その日」には京都にいて、自分は被災者ではないとはっきり書いている。
福島出身だが、被災していない。その自らの立場で、被災地を訪ね、あくまで自らの
内面と向き合っている文章であるという印象があった。

過去に書いた、東北を舞台とした「聖家族」の長男が登場し、語りかけたりもする。
原発被害に遭っている相馬市の歴史について。特に、馬の歴史について。
古来から馬追いの行事が残っている相馬市に住み続ける馬たち。
ずっと住んでいたところから人がいなくなる。そして馬も、いなくなる。
「人殺しの歴史」と古川氏は言う、そんな日本の歴史でも、その土地に根付いて、
ずっと生活をしてきた人たちや動物たちがいる。彼らが退去を余儀なくされる。
その現実を、怒るでもなく悲しむでもなく、ただそういうことである、と描いている文章。
でもそのやりきれなさは読んでいる側にも十分伝わってくる。ただやりきれない。
そして昔から人殺しの歴史を辿ってきた日本が、今現在人殺しの歴史を辿っていないと
言えるのだろうか。

古川氏はまた言う、NYの911の被害者は、憎むべき対象があった
(それがいいか悪いかは置いておいて)。私たちには憎むべき対象がない。
その事実は淡々と語られ、それは私をやりきれなくさせる。

感情をあらわに訴えるでもなく、ただただ内面に入り込んでいくような文章は、
私には正直ついていけないところもあった。「聖家族」を読んでいないので余計だろう。
でも、淡々と書かれた中に漂うやりきれなさに、考えさせられた。

特に動物。動物を置いて避難せざるをえないこと、それを想像することは私を苦しめた。
いてもたってもいられず、被災地で困っている犬を一時的にでも預かれないか、
家族と相談したこともあるが、これ以上は飼えない、飼い主が見つからなければ今後も
飼わざるを得ない、中途半端に飼うのは、犬にとっても余計によくない、と結論して、
寄付をするに留めている。
ボランティアにも行けていない、結局何もできていない、そのことは私の中で
ずっとわだかまっている。それはどの人にも、多かれ少なかれあるんじゃないかなと思う。
その私がこだわっていた「動物」のことについて、古川氏が取り上げて描いていたことに、
個人的にだが感慨のようなものがあった。
私にも何かできないだろうか。この本で、また考える機会をもらえたと思う。

あと、分厚くて躊躇していた「聖家族」、この機会にぜひ読んでみたい。
震災前の、東北の記録。読まなければいけない、そんな気がする。
| comments(0) | trackbacks(0) | 22:07 | category: 作家別・は行(古川日出男) |
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