本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「沈まぬ太陽」山崎豊子
沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)
沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 620
  • 発売日: 2001/11
  • 売上ランキング: 8118


文庫版、全5巻です。

震災が起こって、原発のニュースが流れるようになって、
某大企業の体質に疑問を感じるようになって、それがきっかけで、この全5巻の
大作を読みたくて仕方がなくなり、手に取ってみた。
ちょうどテレビでは、サントリーのCMで「見上げてごらん夜の星を」「上を向いて歩こう」が
流れていたし、坂本九さん追悼の気持ちも込めて。

読み終わってしばらくぼんやりとして、次の本を読む気がなかなかおきませんでした。
壮絶な本でした。
言うまでもなく、至上最悪の被害を出した日航機墜落事故と、日本航空をモデルに書き上げた
小説なのだけれど、主人公のモデルはいるし、どこまでがフィクションからわからないくらい
臨場感がある。なので怖い。これが全部事実だったらと思うとものすごく怖いです。
アフリカ篇、御巣鷹山篇、会長室篇、それぞれが一つの壮大な物語として独立して読めるけれど、
一つの流れとして読むと、会社組織で闘った男の骨太の人生が見えてくる。
そして国民航空という会社の歴史でもあり、日本の歴史といってもいい。そんな小説です。

「アフリカ篇」では、半官半民の国民航空で組合の委員長を無理矢理押しつけられ、
委員長としての仕事を真摯におこなったせいで僻地勤務を10年も余儀なくされた
恩地元と、その家族の様子が描かれます。
遠いアフリカの地での妻や子との別れのシーンには胸をふさがれ、
狩りに夢中になって人がかわったようになっていく恩地の姿はつらいものがありますが、
たった一人の事務所、しかも飛行機が飛んでこない地での仕事でも負けずに、
日々の業務を真面目にやる恩地の姿には頭が下がりました。
仕事で、つまんないことで愚痴とか言ってる場合じゃないなあ、と思いました。
会社に迎合する組合を作り、ちゃんとした組合の人々を迫害し、閑職に追い込んだり
僻地にやったりする。ひどすぎる会社。それに負けない恩地はすごい。
恩地の妻の立場で読むと、もういいから仕事辞めてしまって、家族一緒に暮らそうよ、
と思ってしまうけれど、ひどい目に遭ってる組合の他の人を見捨てられない恩地の気持ちも
わかってしまうと、そうも言えなくなる。それを理解していた奥さんも凄い。

と、1,2巻だけでも衝撃の内容。それだけじゃなく、組合を取り込み、
働く人を大事にしない会社の体質が招いた数々の飛行機事故についても詳しく書かれており、
御巣鷹山に向かって時が動いていくのが感じられるのが、怖かったです。
御巣鷹山の前にあんなに事故があったなんて。それでも会社の責任に気づけなかったなんて。
暗澹たる思いで読みました。

そして御巣鷹山の事故が起こります。
3巻では、ご遺族の方々にも綿密な取材をされているのがよくわかりました。
(一部実名で出てこられるようです)。この日航機墜落事故については、他の小説も読みましたが、
今回は凄惨すぎる遺体確認現場のすごい臭いが伝わってくるようなリアルさと、
ご遺族の無念、飛行機に搭乗していて逃げられずに死にゆく犠牲者の無念が
ひしひしと伝わってくる、すさまじいルポのような描写でした。
手帳に書かれた遺書は何度読んでも泣けてしまいますし、ばらばらになってしまった
夫のご遺体の一部分だけでも、と執念で探す主婦の姿などに何度も泣けました。
僻地勤務をさんざんやらされ、今度はご遺族の相談役に回された恩地元が、
ここでもご遺族のために職務を全うします。
ただこの第3巻だけは、恩地さんのすごさというより、事故全体の凄惨さに
小説自体が丸ごと呑み込まれた感じでした。これだけ独立して読んでもすごいです。

4巻以降は、事故を受けて、国民航空を立て直すべく国を挙げて動いていきます。
繊維業界から送り込まれた国見会長と、彼に信頼された恩地がお客様相談室から
会長室に抜擢され、国民航空の闇を払拭しようと奮闘します。
普通のフィクションだったら、国見会長の熱意におされて、
会社をあげて不正を無くしていくような、爽やかな展開になってもおかしくないんでしょうが、
事実は小説より奇なりなのか、より暗澹たる事態に転んでいって、
実は一番恐ろしかったのは4巻以降でした。
あれだけの事故があっても生まれ変われない企業の体質にぞっとしました。
そして国も絡めた大きな陰謀の流れに国民航空も絡め取られていって、
最後には「悪」のはずの国民航空ですら、ただの雑魚みたいな扱いになったのには
本当に暗い気持ちになりました。これが事実だったら大変なことですよ・・・!?
なにか、人には説明できない、巨大な闇のようなもの、
人の良心が一切かなわない大きなブラックホールに吸い込まれたような心地でした。

今の日本がまさにこの4巻以降なんじゃないか、と思うと、つらくてたまりません。

そんな闇の中でも必死にもがく国見会長と恩地の姿に、一筋の光明を見ました。
彼らのほんの少しの強い光が、闇を払拭できる明るい未来がきますように。

いつ読んでも色あせることない名作ですが、今読むべき本だと思います。
山崎さんはこれを書くには非常に勇気が要ったでしょうが、すばらしい仕事だと思います。
もっと長生きして、これからの日本の闇も光も、あますところなく作品にして欲しい。
そう思いました。
| comments(1) | trackbacks(1) | 23:43 | category: 作家別・や行(山崎豊子) |
コメント
はじめまして。
山崎豊子氏は読後感がただただ「はぁ・・・・」となってしまう
すごい作品ばかりですね。
私も何年か前にこれを読みましたが今でも
すごく印象に残る作品です。 

私も読書が好きなので参考にさせていただきたいです。
ブックマーク登録ぜひさせて下さい!
| tomorin | 2012/02/12 8:13 PM |

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「沈まぬ太陽」(会長室篇 上下)(本)レビュー
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