本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「人質の朗読会」小川洋子
人質の朗読会
人質の朗読会
  • 発売元: 中央公論新社
  • 価格: ¥ 1,470
  • 発売日: 2011/02
  • 売上ランキング: 2515



日本から遠く離れた国で、日本人旅行者が8名、テロ組織の人質となった。
監禁されている間、彼らは自らの過去を振り返って、物語を紡ぎ、朗読することにした。
そしてそれを聞いている異国の人物。
8人プラス1人の、ささやかな物語が綴られていく。

彼らの結末が先に示され、彼らの運命を知ってしまったあとで読む、彼らの人生の物語。
彼らの朗読には、慎ましやかな拍手が送られ、優しい笑い声なんかも響いていたという。

9つ、普通に並べるとただの短編集だ。小川洋子らしい、ちょっと不思議で、慎ましくて、
静かな日常を描いた短編集。
しかしそれが、このような人質の朗読会、となったとたん、ささやかな日常が
劇的な意味合いを帯びる。
人質という不安定な未来ではなく、その人が過去に出会った思い出を語ることで、
彼らのそれまでの人生が見えてくる。どんなささやかなことでも、それが彼らの人生の、
何かの転機になったのはよくわかるのだ。

朗読会はラジオで放送されたことになっていて、この短編の最後に、何歳の、どんな立場の人が
語ったのかがさりげなく書いてある。その紹介で、彼らが、この物語を経てどういう人生を
歩んできたのかがわかるのがまた、味わい深かった。

さりげない話が多いが、さりげない話ほど、良かった。
「死んだおばあさんに似ています」と他人によく言われる女性。
電車で見かけた槍投げの青年の、やり投げ姿を見る女性。など。
私には何も語ることがない、と言っている平凡な女性たちが語るほんの小さなこと。
でもその出来事が彼女たちの人生にもたらした豊かな何かを思うと、胸が温かくなる。

「B談話室」もよかった。「B談話室」で繰り広げられる不思議な会合に出ている男性。
著者の小川洋子さんも、B談話室みたいなところで、小さな、でも大切な何かを見つけてしまって、
それを表現するために作家になって、このような作品を書いているのではないかな、
なんとなくそんな気にもなった一篇。

「やまびこビスケット」の、人間の内臓型のビスケットの描写なんかは、すごく小川さんらしい。
ここに出てくる、整理整頓が信条で、象が大好きな大家さんも、とても印象深かった。
小川洋子さんにしてはまだ普通の作品が多かった気がするけれど、内臓型ビスケット、
死者のための服、グロテスクなぬいぐるみ、ヴァイオリン・・・、
そんな細部に小川さんらしさが見えた。

結末はわかっているのに結末がすごく気になる作品でもあった。
最後は「ハキリアリ」。ハキリアリの映像はテレビで見たことがあるけれど、
緑の小川のように、自分より大きな葉を持って歩き続ける蟻の群れ。
そのささやかな営みが、彼らの人生を、そして私たちの人生を象徴しているかのようだ。

人生には、誰にだってドラマはある。それを思い出させてくれるような本だった。
それが私にも、静かな力をくれるような本。
私だったら、こういう時には、何を語るだろう、と思って、いろいろ思い起こしてみたけど、
ネタとしか言いようがない失敗談、とかしか浮かばなかったのは関西人の性か・・・。
まだ、私の人生ではこれ、というような出来事に、出会ってないのかもしれないな。
| comments(0) | trackbacks(3) | 00:55 | category: 作家別・あ行(小川洋子) |
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書籍「人質の朗読会/小川 洋子著」もう今はここに居ない人達のお話を読む
書書籍「人質の朗読会/小川 洋子著」★★★★ 小川 洋子著 , 中央公論新社、2011/02 ( 247ページ , 1,470円)                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りた
| soramove | 2012/04/13 9:42 AM |
小川洋子 人質の朗読会
遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた。紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは人質たちと見張り役の犯人、そして…しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。 (「BOOK」データベースより)201
| マロンカフェ 〜のんびり読書〜 | 2012/04/17 9:01 AM |
語られる話
小説「人質の朗読会」を読みました。 著者は 小川 洋子 ゲリラの人質となり亡くなった日本人達 囚われの日々の中でそれぞれ印象に残った思い出を書き それを朗読しあっていた その9つの話 朗読話 ある意味 短編として読める感も なんといえばよいか・・・ どれも日
| 笑う社会人の生活 | 2013/03/03 8:05 AM |
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