本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「海炭市叙景」佐藤泰志
海炭市叙景 (小学館文庫)
海炭市叙景 (小学館文庫)
  • 発売元: 小学館
  • 価格: ¥ 650
  • 発売日: 2010/10/06
  • 発売日: 2010/10/06
  • 売上ランキング: 11761


東日本大震災のあと、私は、普段は気づかなかった、普通の生活の大切さを、
切々とかみしめています。そんなことは、被害がなかったから言えることだし、
今でも避難生活をしておられる方々がいるのも承知しているけど、
またいつ何が起こるかわからない、生活が足下から崩れるときがある、
そう実感したから、日々を大切にしたいと、そう思っています。

そんな時に映画化を知ってこの本を手に取りました。
何気なく読み始めて、そこには普通の人たちの普通の、いやちょっと落ちぶれた、
でも大切な人生が溢れていることに気づきました。読むと静かな気持ちになれました。

舞台は海炭市。炭坑があったころは盛況だった街も、炭坑が閉鎖され、
だんだんとさびれていきます。日本のどこにでもありそうな、そんな風景が、
とても丁寧に描かれていて、目に見えるようです。
小高い山があって、川があって土手があって、大きな墓地があって、路面電車が走っていて・・・
景色が活き活きと目に見えてきました。

そんな街での出来事なので、つらい話もたくさんあります。
働き口がなくなってお金がなくて、最後のお金でロープウェーに乗る兄と妹とか、
どちらかというと悲しい話が多い。子どもの虐待なんかもあったし・・・。
何気ない話も多いけど、こんな街で住んでいて、ぱっとしない人生だ、
という、やりきれないような雰囲気が全編から出ていました。
人々の物語というよりも、枯れていく街の物語のような気がします。

そしてそんな風に生きる人々を、かばいもせず、客観的で冷静な目で淡々と描く筆致が、
印象的でした。市役所に勤める男の、取り繕ってかっこつけている感じとか、
それが周りに全部ばれている感じとか。主人公に対する冷静な視線を感じました。
きっと著者も、いろんなものが見えていたんだと思います。いろんな人間の、
ずるさとか嘘とか、そして本当の優しさとか温かさとかも含めて。
いろんなことが見えているような、繊細な筆だと感じました。

この「海炭市叙景」は未完だそうです。このあとにもたくさんの短編が連なり、
一つの街の物語になる予定だったようです。
この、半分だけの「海炭市叙景」を読むと、やりきれない暗い中にも、
ほんの少しだけ、山から一筋照らすようなほんの少しの光だけは、感じることができました。
どんなにやりきれない街での普通の生活でも、彼らは懸命に生きていて、
少しだけでもつながっていて、それが一筋の光につながってる気がしたのです。
これがもし完成していて、全体を見渡せることができるなら、もう少し光は温かく、
もう少し明るかったのではないかな、と思って、それが残念です。

早逝が惜しまれます。この映画化と復刊をきっかけに、佐藤泰志氏の他の作品も
多く復刊されているようです。何冊か読んでみようと思っています。
| comments(0) | trackbacks(0) | 00:52 | category: 作家別・さ行(その他の作家) |
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