本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「小さいおうち」中島京子
小さいおうち
小さいおうち
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 1,660
  • 発売日: 2010/05
  • 売上ランキング: 1644
  • おすすめ度 4.5


中島京子さん、直木賞受賞おめでとうございます。
今まで何冊も読んでいて、どの本もすごく面白いし深いし読みやすいし、どうして候補にすら
挙がらないんだろう?と不思議でしたが、候補になったとたんに受賞でしたね。

この「小さいおうち」は、前作「女中譚」と同様に女中が主役。前作では秋葉原で毒を吐きながら
思い出を語る女中のおばあちゃんがかっこよくって、すごく良かったので、今回も期待していました。
戦時中を生きる女中の姿が描かれていて、前作と似てはいますがテーマなどはかなり異なった
物語になっていたと思います。
昭和初期。東北から上京して、若い頃から女中として働くタキ。
働く先の若奥様、時子様の再婚先に一緒に住み込んだタキの、女中としての生活を、
年老いたタキは手記にしたためる。その手記を現代に甥っ子が読んでいる。

この小説は主人公が「手記」をしたためているという形式にしているのが、
普通に時系列で追うよりも何倍も効果を上げていると思う。
現代っ子の甥っ子が読むことで、今思っている戦時中の生活と、当時の本当の生活の違いが
際だってわかるように書かれている。タキや時子奥様は確かに戦時中を生き抜いたけれど、
戦争はどこか遠くにあって、戦争による好景気や、戦況の悪化によるブリキ産業の打撃とか、
そういった自分たちの生活に密接にかかわる変化はあったけれど、
彼女たちはおおむね平穏に、日常をすごしている。
そして、時子奥様と、家にやってくるようになった旦那様の部下が、
少しずつ心を近づけていくのに、タキは気付いていた・・・。

最後まで読むと、これが何故タキの手記でなければならなかったか、よくわかります。
最後の最後まで、戦争の中でも明るさを失わずに生きていた奥様が、戦争に巻き込まれて
タキも巻きこまれて、という哀しいお話、しかしどこかで聞いたことがあるようなお話、
だと思っていた私は、最後の最後に動揺しました。これってどんな小説だったんだろう。

タキが戦後ずっと抱えてきた「何か」を思うと、胸が痛むようで、何故、と問いかけたくなるようで、
切なくてつらくて仕方ありません。どうしようもないことを抱えて生きる、それが人生なのか。
人の業を知ったような、何とも言えない動揺が襲い、本を閉じてしばらく呆然としていました。

読み終わってから表紙を見ると、二人の女性がそこにいて、その意味も本を読んでわかっている私は、
その表紙をじっと眺めてしまいました。そしてその余白部分も。

「小さいおうち」は、もともとバートンという人が書いた絵本が題材になっているようです。
その絵本は、おうちと、そこに生活している人たちを描いた、台詞のない絵本。
その絵の中で過ごす人たちは、その絵の生活が終わってしまったあとでも、ずっとその絵の中のような
幸せな日々を思い起こしては、日々を過ごしていくのでしょうか。
そんな、どこかに閉じ込めてしまいたいような珠玉の日々を過ごしたタキさんは、
やっぱり幸せだったのかもしれませんね。

ただのいい話に終わらない、いろいろと思い起こさせる、動揺させられる、傑作でした。
中島京子さんの作品は今まで読んだのはどれも面白い、と自信を持って言えるけれど、
これが一番です、とも自信を持って言えます。
| comments(1) | trackbacks(4) | 01:08 | category: 作家別・な行(中島京子) |
コメント
昭和のモダンな暮らしぶりと徐々に戦争が日々の生活を蝕んでいくようす、家の中の交錯する感情。タキさんの手記と甥の視点。謎解き。
たくさんの事柄や感情がぴたりと収納されていて読んでいて心地良く、それでいて胸の奥をぎゅっとつかまれるような感じがしました。

また悲惨な事柄を、遠くから淡々と描くことで逆に戦争の恐ろしさを痛感させる物語でした。
| 日月 | 2010/11/07 4:36 PM |

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