本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「シューマンの指」奥泉光
シューマンの指 (100周年書き下ろし)
シューマンの指 (100周年書き下ろし)
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2010/07/23
  • 売上ランキング: 2742
  • おすすめ度 4.5


今年はシューマン生誕200周年だそうです。ショパンも生誕200周年で、
ショパンの方はテレビで特集組んでたりしてる感じですけど、
シューマンの方はそれほどでもない感じがします。
まあ私もこれを読むまでは「シューマンって、名前は知ってるけど・・・」的な存在で、
ピアノを習っていたくせに、曲も「トロイメライ」しか知らなくて、
その「トロイメライ」もどんな曲だったか聴くまでわからない、というくらい、
印象の薄い作曲家でした。
これを読んでから、内田光子さんの弾くシューマンの幻想曲と舞曲集が収録されたCDを買い、
けっこう聴いています。
その前は、特設サイトに出向き、そこで幻想曲を聞きながら一部再読しました。
(以前試聴できるサイトがあったのですが、今は見当たらないですかね・・・)
読んでいたら、曲を聴かずにはいられない。で、聴きながら再読すると、
読んだ時に感じた曲のイメージがほとんど外れていないことに気づかされます。
音楽を文章で表現するというのは難しいことだと思うんだけども、音楽をやっている
奥泉さんならではの耳の良さが発揮され、専門的だけれど美しい文章で表現されています。
シューマンの音楽は、「まるで世界にずっと鳴り続けている音楽を、聴きとって
譜面にしただけのようだ」と、この本ではそんな語られ方をするんですけど、
聴いてすごく納得しました。美しくて一瞬きらめいて次々に場面がうつるような、
そんな音の洪水は、世界には聞こえないだけで音があふれているんだ、という
そんな夢を見たくなるような音楽でした。

読んで少したった今でも、「幻想曲」を聞く度に、
永嶺修人が夜の月の光の中でピアノを弾いている場面が浮かびます。

物語はというと、永嶺修人という天才的ピアニストに高校の時に出会った主人公(男)の手記で
成り立ってます。発端は、Masato Nagamineが海外で演奏をしたという友人からの手紙。
しかし永嶺修人がピアノを弾けるはずがないのです、だってあの時彼の指は、
ピアノを弾けないくらいの状態になってしまったのですから・・・。
そこから、主人公の回想がはじまります。

高校時代に永嶺と出会った主人公。永嶺は後輩にもかかわらず、
天才的なピアノ技術を持ち、そしてシューマンにものすごく惹かれていて、
とりつかれていると言ってもいいくらい。
そんな修人に惹かれていく主人公ですが、永嶺はなかなかピアノを聞かせてはくれません。
しかしやっと、修人のピアノを聴く機会が訪れ、それは夜の校舎、曲は「幻想曲」。
夢のような時間が過ぎたあと、事件が起こります・・・・

永嶺の物語でもあるのだけれど、シューマンの人生がシンクロされて語られるので、
シューマンの伝記小説を読んでいるかのような前半。
しかし永嶺自身の謎も深まりながらも、ちょっと男性同士の耽美的な雰囲気も漂わせつつ、
前半のクライマックス「幻想曲」へと向かいます。
幻想的な雰囲気だったのが、そのあと事件が起こってしまい、
一気に世俗的な雰囲気が勝ってしまって、なんだか残念だなあと思いながら
それでも夢中で読み進めたのだけれど、読み終わって呆然。

生臭い事件ですら、修人の世界に有機的に絡まっているのが読んでわかり、
そしてその結末・・・。
彼の指はどうなったのか?そして、事件の真相は・・・

結末にはただただ驚きました。そうなのだ、この小説の仕組みを考えれば
こんなことになってもおかしくはないのですが、見事に騙されてしまいました。

しかしすごいです、シューマンという作曲家を突き詰める小説でありながら、
人の心の深淵をも抉り出し、耽美的な雰囲気を堪能できて、
そしてあっと驚く鮮やかなミステリーですらある。これはすごい小説。
読み終わった後の呆然、そのあとくる興奮、それはなかなか忘れ難い。

そしてシューマンの音楽という愉しみをひとつ手に入れました。素晴らしい収穫です。

しかし、奥泉さんという作家は、本を読むたびにまるで違う印象を受け、
同じ作家とは思えないですね。「鳥類学者のファンタジア」と同じく、
音楽をテーマとしていながら、受ける印象がまるで違うのが、すごく不思議です。
次はどんな顔を見せてくれるんだろう、と楽しみに手に取る作家さんの一人です。
| comments(2) | trackbacks(0) | 00:32 | category: 作家別・あ行(奥泉光) |
コメント
音楽小説でも「鳥類学者のファンタジア」とは全然ノリが違いますね。

シューマンの音楽の偏執性というか狂気を
余すところなく描いた小説だと思います。面白かった。

同じ生誕200年なのに、ショパンに比べて注目度が低いと
不満に思っていたのです。
これで逆転するかも!?(しないか)
| 木曽のあばら屋 | 2010/10/16 7:07 AM |

ミステリとウンチクとゴッチャマゼ。

でもひとつひとつの結末が見えてくるところ、すごい集中して
読んでしまいました。ただ、読解力がなかったのか、3回くらいは
繰り返しで読みましたねぇ。なんかいろいろトラップしかけられてるんじゃ
ないかって。
あとは、もう奥泉さんの趣味の世界かな・・・とか。
才能は趣味そのものって解説してるサイトが
見つかるくらいですし。
http://www.birthday-energy.co.jp
「温厚誠実で理論的」な作品をこれからも生み出して
いただけると、読者としては幸せですね〜。
そういえば、新作の『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活2』、
結構笑えました。面白かったですよ。
| 拓ノ新 | 2012/11/05 1:19 PM |

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