本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
<< April 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 「へんないきもの」早川いくを 絵・寺西晃 | main | 「あられもない祈り」島本理生 >>
# 「盗まれた街」ジャック・フィニイ/福島正実訳
盗まれた街 (ハヤカワ文庫SF フ 2-2)
盗まれた街 (ハヤカワ文庫SF フ 2-2)
  • 発売元: 早川書房
  • 価格: ¥ 700
  • 発売日: 2007/09/20
  • おすすめ度 4.5


ずいぶん前の話で恐縮ですが、NHKドラマ「チェイス」を見てたのです。
江口洋介が国税局の人で、凄腕の脱税犯人を追っていく緊迫したドラマで、
そこで脱税の天才(ARATA)が、「盗まれた街という本を知っていますか」と
この本の話をする。周りの人々がいつもとちっとも変らないんだけど、
実は別のものになってしまってるんだ、という話をするのです。
今ここにある現実が、いつ信頼できなくなるかわからない、そんな恐怖を
見るものに与えるシーンでした。そのあと、江口洋介がこの本を読むシーンがあって
画面を見て「その表紙(↑)、家にあるよ!」ということで、手に取った本です。
なので読んだのはだいぶ前になります。
SFの古典であるこの作品、新井素子の「もいちどあなたにあいたいな」でも
同様のたとえとして出されてました。
自分の信じていた世界が、ある日気付いたら全く別の世界になっていて、
周りの人も全く違う人間になっていたら?そういうテーマから導き出される恐怖は、
現代でももちろんあって、なのでこの古典で描かれたようなテーマは、
手を変え品を変え描かれていってるんだと思います。

小さな街、サンタ・マイラ。医者のマイルズは、昔つきあいのあった女性のベッキィから、
おばさんの様子がおかしいと知らされる。会ってみるとおばさんは普通に見える。
でもベッキィは言う、おばさんは変わってしまった、と。
変わったのはおばさんなのか、ベッキィの認識なのか。
そう思っているうちに、友人の部屋でマイルズはとんでもないものを見てしまう。
それはどう見ても、人間になりかけの物体にしか見えなかった・・・。

慣れ親しんだ人々が、いつしか違う人間に入れ替わっている。
でも彼らは見た目も話し方も変わらず、思い出さえそのまま持っている。
知らないうちに世界は変わっていき、マイルズやベッキィたちを取り囲んでいく・・・

周りの人間がいつしか知らない人になっている、でもその人になりすましている、
それは現実に置き換えるとすべてが信じられなくなるような恐怖で、
怖さに本を読む手を止められなかった。
そしてだんだん明らかになる「彼ら」の正体・・・。

彼らの正体は度肝抜かれるもので、ふむ、なんつうか古典のSFだなあ、と
思わせるものではあった。それにラストシーンも突拍子もないもので、
えー、そうですかそれでいいんですか、って拍子抜け?しちゃって、
なんていうか、この作品の読後のイメージは、最初の底知れぬ恐怖から比較すると、
表現が悪いかもしれないけど、ちょっとほのぼのする終わり方というか、
笑っちゃう、というか、そんな感じではあった。古典ですからね。
今、全く同じ出来事、街の人間が別人になっているような街、が描かれたら、
それはもう全く違う結末になるんじゃないかな。今の人にはない発想だな、と思った。
別にけなすつもりはないんだけど。なんていうか、人が別の人になってしまう、
そんな根源的な恐怖を描いたという点で、すごい作品だと思うので。

人は平気でうそをつく、全く別人に見える時もある、心の病気も増えているし、
街を歩いてたらいきなり人に刺されたりする時代だ。
世間は猜疑心に満ちているし、信じていたものが根本から揺らぐときというのはある。
自分が何かを実際体験したわけでもないけど、そんな漠然とした不安ってある。
そんな現代に読むと、恐怖から逃げ惑うマイルズとベッキィ、そして友人のジャック夫婦、
彼らの絆は確かで、彼らは信じられるということが、この作品を元気づけてるし、
やっぱり人は信用していいんだなって思えて、癒された。
マイルズとベッキィの修羅場での恋模様も読ませるし。
そして、ある意味あっけらかんとしたこのラストを読んでると、
やっぱり人間は勝つんだ、愛は勝つんだ、と単純に思うこともできた。
負けないぞ。私たちも。
| comments(1) | trackbacks(0) | 23:55 | category: 海外・作家別ハ行(その他の作家) |
コメント
いつも次に読む本選びの参考にさせて頂いています。

さて、こちらの小説は未読ですが、
恩田陸『月の裏側』は、この小説を下敷きにしているんだろうな、と思います。
九州の柳川が舞台なんですが、しばらくは水の近くが怖くて仕方ありませんでした。

この小説も読んで、比べてみようと思います。
| つー | 2010/09/26 7:57 PM |

コメントする









この記事のトラックバックURL
http://blog.zare.boo.jp/trackback/949214
トラックバック
NOW READING
ざれこの今読んでる本
Categories
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Profile
Search this site
Sponsored Links