本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「拳闘士の休息」トム・ジョーンズ/岸本佐知子訳
拳闘士の休息 (河出文庫 シ 7-1)
拳闘士の休息 (河出文庫 シ 7-1)
  • 発売元: 河出書房新社
  • メーカー: 河出書房新社
  • 価格: ¥ 945
  • 発売日: 2009/10/02
  • 売上ランキング: 222867
  • おすすめ度 4.5


だいぶ前のこと、本屋に行って平積みになっているこの本の帯、
「これが復刊されるまでは死ねないと思っていた」岸本佐知子、と読み、
これは、と思いそのままレジへ。著者もまるで知らないし、
聞いたこともない本だったけど、岸本さんが薦めて訳してるんだから、
間違いないだろうと思った。本屋でこういう本に出会うのはうれしいものだ。

これを読んでだいぶ経つのだけれど、感想はしばらく書きそびれて、
時間がたってしまったのだけど、今ぱらぱらと読み返すと、
いろんな短編のいろんなシーンが映画のシーンのように浮かんでくる。
砂浜の白い馬、元気のいい鶏、ベトナム戦争、海の底、などなど。
私の中でけっこう強烈な印象を残していたのだなと思った。
一番覚えているのは「わたしは生きたい!」という短編で、
末期がんの女性の独白なのだけれど、私はそれを読んでいる時、たまたま病院にいた。
人間ドックで胃のポリープが発見され、組織検査をして、結果待ちをしながら、
この短編を読んでいたのだった。私がこのあともしかしたら何か、
ひどいことを宣告されるかもしれない、と思いながらこれを読むと、
死というものが本当に間近に迫り、真に迫った読書になってしまった。
あまりこういう内容のものを、自分のことのように読む勇気は、
私にはまだないのだけれど、そうならざるを得なかった。

でもこの物語では最後のシーンがとても印象的なのだ。
主人公が最後に、小さいころに、とても元気だったニワトリがいたのを、
しみじみ思いだすシーンがある。そのニワトリの描写は生の活力に満ちていて、
救いようのないその話に一見唐突に現れるのだけど、そこから垣間見えるのは
生への力。彼女の人生の様々な思い出の中のその一瞬を切り抜くことで、
彼女の人生全体の生への力が見えるようで、救いのない話のはずが、
私に一片の力を与えてくれるような、物語だった。

(あ、ちなみに、検査結果は異常なし(良性)でした。)

この短編集は全体的に、暗い話が多いような印象がある。
癲癇を持つ著者の経験が随所に出てくる。病気の発作というのは本当に、
救いようのないようなつらさを与えるけれども、その中に一筋の光が見える時が
あるらしい。それはまるで神の救いのよう、らしい。
そんな著者が書く短編たちは、暗さの中に、底知れぬ力が感じられるのだ。
それが私に力をくれたのだった。

ベトナム戦争にも行っていない著者だけど、戦争の描写はものすごくリアルで、
見てきたとしか思えないほど。恐ろしい。
著者もやっているボクシングの描写もまた、当然だがリアルだし、パワーがある。
女性を主人公にした物語や、恋愛ものもあるけれど、それはどれも、
恋愛の残酷さとしたたかさがよくあらわれていて、それにも力がある。

「拳闘士の休息」、強い拳闘士が死を前にして静かにたたずんでいる。
そんな、ふつふつと沸くような力を感じる作品集だった。
| comments(0) | trackbacks(0) | 22:17 | category: 海外・訳者別(岸本佐知子) |
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