本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「ウエハースの椅子」江國香織
ウエハースの椅子 (ハルキ文庫)
ウエハースの椅子 (ハルキ文庫)
  • 発売元: 角川春樹事務所
  • 価格: ¥ 520
  • 発売日: 2004/05
  • 売上ランキング: 22350
  • おすすめ度 4.5


久しぶりの江國さん。これを読んだ時はわりとばたばたと忙しく、
気持ちが俗っぽいというか、やさぐれてるというか、ちょっとくさくさしていた。
あまり芸術をたしなむという余裕はない。ただいつもの癖で本だけは読む。
久しぶりの江國さんのこの小説はだから最初、「こんな奴おるかいな」といった
大木こだまひびき並のツッコミを持って私に迎えられることとなってしまう。
でもだんだんと、江國さんの雰囲気にはまっていって、
俗な心が少しずつ哀しみで凪いでいくようだった。

画家をしている主人公は38歳、独身の中年女(本人曰く)である。
「私」のマンションには、妹と、猫と、恋人がやってくる。
恋人とはうまくいっているし、仕事も順調だし、彼女は幸せに見える。
でも「私」は絶望と友だちだ。絶望は突然やってくる。「ただいま」。
幸せだから、絶望する・・・・。でも静かに日常は流れる、のだが。

まず38歳って「中年」なんだ、とちょっとショックを受けてしまい
(私は現在35歳)、それが気になっちゃったりもしたんだが、
それにしても「中年女」の称号が似合わない主人公。
家でする仕事だし、何もかも順調に見えるし、恋人と会っては幸せにすごし、
私など生まれてから一度も言ったことないような美しい台詞を言い、
ステキな場所で恋人と星を見たり、ロマンチックにすごしている。
ぱっと読むとそういう小説だった。あくせく働いていた独り身の私は、
「いいよなあ」と嫌な顔をして言ってしまいそうな。

でも読んでいると、彼女がどうして絶望と友だちなのかわかってくる。
恋人には帰る家がある。でもお互い愛している。
この愛は、どこにもいかない。行き止まりの幸福、そこに横たわる絶望。
ああ、そうなのか、と、思う。彼女は絶望しているのだ、本当に。

だけれども、この小説は、ドロドロとはしない。
美しいと思っていた水、その底に泥が溜まっているのに、上澄みの美しさだけを
あくまでも見続けるような、そんな小説なのだ。最後まで美しく、
でも泥の存在にだんだん気づいてしまう私は、その美しさがいかに残酷か、
それにも気づいてしまう。

こんなに哀しい幸福ならいらない。弱い私はそう思った。
こんな、息詰まるような、先のない幸福などいらない。
でも主人公は、そんな幸福を、そんな愛を、過ごしていくのだった。

何気ない日常が美しい文章で描かれているようなのに、じんじんと、
切なさが、私を取り囲む。息苦しくなる。そんな読書だった。
いつのまにか私の心は静かになり、薄い氷が張ったような寂しい空間に
しんとたたずんでいる。そんな気持ちになった。

正直、こんな男、最低だと思う。でも最低かどうかは、本人たちが決めること。
こんな愛も、あるんだなあ、と、思う。

最初読んでいる時は、もう江國さんの小説が読めないくらい、
私は俗なおばちゃんになっちゃったのかと思った。
でも、やっぱり、江國さんの世界にとりこまれてしまった。
共感できなくても、その世界に深く入り込んでしまった。
この魅力はなんだろう。改めてそう思う。文章だろうか、それとも私は
どこかで、「私」に共感してるんだろうか。きっと、そうなんだろうな。
こんなに静かな狂気を、私も持っているのかもしれない。
そう思うと、女は恐ろしいな、でも女でよかったな、と思うのだった。
| comments(0) | trackbacks(0) | 00:30 | category: 作家別・あ行(江國香織) |
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