本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「鷺と雪」北村薫
鷺と雪
鷺と雪
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 1,470
  • 発売日: 2009/04
  • 売上ランキング: 3417
  • おすすめ度 4.5


(かなり前に読んで感想を書きそびれていたので、記憶が曖昧なことをはじめにお詫びします)

直木賞受賞おめでとうございます。それをきっかけに読み始めたこのベッキーさんのシリーズ、
あっという間に読み終えてしまい、寂しいです。

日本が戦争に突き進もうとしている中、上流階級のお嬢様である英子様と、
女性運転手のベッキーさんが、遭遇する日常の謎を解いていく連作短編集。今回は3編収録。
このシリーズは、一応「日常の謎」といったカテゴリだとは思うんだけど、
私には、主な謎がどう解決するかよりも、サイドのエピソードの諸々が印象深かった。
ブッポウソウという鳥の鳴き声についてのうんちくとか、それがラジオで生放送される光景とかには
きな臭いながらも穏やかな時代の空気を感じさせる。ブッポウソウの鳴き声のラジオ放送は
本当にこの時代にあったようで、もちろん私は知らないのだけど、その声を英子様やその家族が
聞いているという描写で、あたかも本当に英子様がそこにいたようだ。

芥川龍之介のドッペルゲンガーの話もすごく興味深い。芥川という人間に俄然興味がわき、
同じ北村氏の円紫師匠シリーズの「六の宮の姫君」を再読したくなった。
別にドッペルゲンガーがテーマではないけれど、北村氏が思うところの芥川像を、
また読んでみたくなったのだった。

このように側面からの興味が尽きない。
事件そのものも、当時流行していたカメラをもとにした事件だったり、
ライオンの像とか、時代を反映するものもあったのだけれど、
英子様たちの物語と事件との融合という点では私は「玻璃の天」の方が手応えがあり、
面白く読めたなあと思うのだった。

しかしそれはそれ、もう一つ興味が尽きないのが英子様とベッキーさんの恋の行方である。
シリーズで少しずつは描かれていた彼女たちの淡い恋、それが恋心としてはっきり描かれず
さらりさらりと書かれているあたり(特にベッキーさんの方)、小憎たらしいなあ、と
(いい意味で)思ってしまうのだけれど。もどかしさがたまらないというか。

この物語の最後には、ますます戦争の影が色濃くなってきて。ベッキーさんと、
良家の息子で軍人である男性との会話にも、今後の日本についての会話が出てくる。
そこでベッキーさんは言う。「善く敗るる者は滅びず」。
日本の将来を知っている私にはこの言葉は重く響いた。
でもこの時代に、「善く敗るる」ことを軍人さんに説けるベッキーさんは素敵だと思った。
けれど、そんな時代だから、身分違いの恋とかいうことすら関係なく、
二人は離れざるをえないのだ。

そして英子様がかけた一本の電話。それはある冬の、雪が降りしきる日のことだった。
そこから続く衝撃のラストには、鳥肌が立ち、呆然とした。目の前まっくらっていうか。
こんなところで終わってしまうんだ!と思ったけれど、こんなところで終わるからこそ、
この小説の凄味が際だつ気がしたし、その潔さによって記憶に残る物語になっている。

先が読みたい気もするけれど、ここから先を読んでも、良家のお嬢様の旧き良き日常の
雰囲気が損なわれてしまうので、あとは自分で想像しておこうと思った。
一つの時代が終わった寂しさとともに読み終える。
困難な時代が来ても、英子様とベッキーさんが幸せになれますように。
彼女たちなら強いから、きっと大丈夫な気がする。
| comments(0) | trackbacks(0) | 23:17 | category: 作家別・か行(北村薫) |
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