本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「ポトスライムの舟」津村記久子
ポトスライムの舟
ポトスライムの舟
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 1,365
  • 発売日: 2009/02/05
  • 売上ランキング: 28714
  • おすすめ度 3.0


津村さん芥川賞おめでとうございます。って前にも書いたけど、
この受賞作を今更読む私でした。これを読んだので津村作品はあとは
「八番筋カウンシル」を読むだけとなってしまい、新刊を待ち望んでいます。

受賞作「ポトスライムの舟」と「十二月の窓辺」が収録されています。
薄い本で軽いタッチで読みやすくすぐ読めてしまいますが、
30代微妙なお年頃の独身女性としては、やはり心にひっかかるものがありました。
軽妙な文体でキリキリとした痛みを伴う、津村さんの作品は私にとってそういうものです。
「ポトスライムの舟」は関西が舞台。
奈良の古い家に母親と住むナガセは、工場で働き、土日はパソコン講師をしたり
カフェでバイトしたり、フル稼働で働いている。
ある時工場で世界一周のポスターをみて、その費用163万円が自分の工場での
年収だと気づいたナガセは、一年でそれだけ貯めてやろうと決意する。
その頃、離婚を決めた友達のりつ子が転がり込んできて・・・

関西の言葉がとってもリアルなのは相変わらずで、私の話し言葉みたいな台詞が
淡々と繰り出されるせいか、他人事とは思えない。それに細かい金銭感覚がリアルすぎ。
西宮あたりまで専業主婦の友達に会いに行って、帰りに電車賃を計算するくだりなんか
リアルすぎて泣けますよ。地元なだけに余計わかる。
奈良の興福寺やらに出かけたくだりは、こないだ行ったばかりだったので、
いろいろ思い出しながら読んでました。

あくせくと働き、でも貯金もなく、独身で母と住んでて、男っ気も全くなく、
将来や先行きに重い雲のような不安を抱えてるはずのナガセだけど、
なのに別に本気で世界一周したいわけでもないのに金を貯めている。
私も日々将来を焦りつつもぼんやりと生きていて、そんな自分の日常と
シンクロしてしまって、なんだかいやんなるほどリアルだった。
ドラマチックな事件や大恋愛ばかり起こるわけじゃない、ただの日常がそこに息づいている。

子持ち主婦の友達で離婚を考えているりつ子が転がり込み、ちょっとナガセの周りも
あわただしくなるけれど。
読んでると、主婦とか独身とか、いろんな立場の人もそれぞれいろんな悩みを抱えて
生きてるんだな、って、あたりまえのことなんだけど、それが実感として迫ってくる。
「十二月の窓辺」でも、キャリアウーマンと新人社員、それぞれに悩みがあって
彼女たちの思いが淡々とした文章から切実に伝わってきた。
そこにいるたくさんの悩みを抱える人たちをいとおしく思った。

ナガセは、過去にパワハラに遭って仕事を辞めるという経験をしていて、
その経験は時折少し語られるだけであくまで今の生活を綴ってるんだけど、
パワハラという理不尽に負けてしまったやりきれなさが今のナガセに影響を与えてるのは
間違いないと思う。
もうひとつの短編「十二月の窓辺」は、今現在パワハラをうけてる女性が主人公で、
「ポトスライムの舟」を読み終わったあとに読むと、ナガセの過去を読んでいるようで(違うけど)、
この二つの短編を並べて本にしたというのには意味があるように思えた。

パワハラ、つらいね、それにしても。私は幸いにも、無能な上司にはよく当たっても、
パワハラ上司には当たったことがないのでラッキーだと思うけど、
いつ当たるかわからないなあ、とも思う。
当たってしまったら終りなんじゃないかなあ。この短篇を読んでいても
思うけど、気が合わない人とは決定的に合わないし、双方の努力をもってしても
会話すら通じない相手っていると思う。それが上司なら、不幸というよりないんだけど、
でもそんな理不尽に、この物語の主人公達は、彼女達なりに、戦ってる。

具体的に何かしてるわけじゃないんだけど、津村さんの描く女性たちは、
いつも戦っているような気がするのだ。
世の中の、うまく言葉にできないような理不尽に対して、
いつも立ち向かっていってる気がするのだ。どの作品でも、なんとなく。
負けてる時もあるけど、別に勝ち負けとか関係なく、ただやっぱり戦っている。
そんな彼女たちに私も背中を後押しされているような気がする。
だから私は津村さんが好きなのかなあ、と最近思うのだった。

私も、いろいろ、負けたくないな。諦めたら終わりだな。と思う。
今回もじんわりと沸いてくるパワーを感じた。
| comments(0) | trackbacks(3) | 22:48 | category: 作家別・た行(津村記久子) |
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「ポトスライムの舟」津村記久子
第140回芥川賞受賞作、津村記久子の「ポトスライムの舟」を読んだ。     29歳から30になる派遣社員の女性ナガセが主人公。彼女は工場でクリームの検品作業をしている。友人のカフェでアルバイトもしている。老人相手のインターネット講師とデータ入力も兼任
| りゅうちゃんミストラル | 2009/11/19 6:46 PM |
読書日記234:
タイトル:ポトスライムの舟 作者:津村 記久子 出版元:講談社 その他: あらすじ---------------------------------------------- お金がなくても、思いっきり無理をしなくても、夢は毎日育ててゆける。契約社員ナガセ29歳、彼女の目標は、自分の年収と同じ世界一
| 書評:まねき猫の読書日記 | 2010/10/16 10:37 PM |
労働からの今
小説「ポトスライムの舟」を読みました。 著者は 津村 記久子 久々の純文学! 第140回芥川賞受賞作です 労働、職場、賃金、人間関係・・・ そこから見えるものとは 日常のリアルな 不思議な、事件が、大きなことが起きることはなく 淡々と進んでいき なんだろう 乾
| 笑う社会人の生活 | 2013/05/27 11:02 PM |
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