本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「倒立する塔の殺人」皆川博子
倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)
倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)
  • 発売元: 理論社
  • 価格: ¥ 1,365
  • 発売日: 2007/11
  • 売上ランキング: 38482
  • おすすめ度 4.5


ミステリーYAのシリーズを初めて読みました。そしてあまりのおもしろさに
最近の中高生たちはこんなの読んでるんだ!と絶句。うらやましい・・・・。

私が中学生頃の時代はコバルト文庫とか読んでいましたけど、それを卒業して
いきなり村上春樹&龍に突入(当時大流行していた)、インパクトは強烈で、
その後の読書傾向を変えることにはなったんだけども、子どもな私にはちょっと早すぎたかなあと。
その点、こういうシリーズが出てきてくれてたら、ちょうどその微妙なお年頃の読書が
ずいぶん楽しかっただろうなあと思う。
特にこの作品が群を抜いて面白いのかもしれないんだけど。
戦時中、そして戦後のミッションスクールに通う女子高生たちを主人公にしたこの物語は、
作中に出てくるリレー小説と現実とが絶妙に絡み合う入れ子構造のミステリ、
すごく凝ってて大人の私が読んでもものすごく面白いし、
「カラマーゾフの兄弟」など海外の文学を主人公たちが読んでいるので
それをすごーく読みたくなったりもするし、戦時中の少女たちの生活とか、
戦争で人がどんどん死んでいって死に無頓着になっていく当時の人たちの気持ちが
リアルに伝わってもくるし・・・。

こういう作品を若いうちに読んでいたら、
その後読書傾向が変わってドストエフスキーを読む女子高生になったかもしれないし、
戦争について調べていたかもしれないし、とかまでいかなくても読書のおもしろさに
味を占めてますます本を読む子になってたかもしれないし、いろいろ影響を受けただろうな。
そんなことを妄想していると、読書ってやっぱり面白いなあと思う。

戦時中の描写がリアルなのは著者が現在80歳近くだからだろう。
戦時中の小説なんて山ほど読んでいるけれど、これだけ自然に戦時中の空気を
体現している小説ってなかなかないんじゃないのかな。
死が日常であり、人々の感覚は少し麻痺していて、大げさに悲しむわけでもない。
ただ家族が死んだ、という事実を淡々と語っているんだけども、それによって死の哀しさ、
そしてむなしさがしみこんでくるような。
これが実際の雰囲気だったのではないか。同時代を生きていた作家が書いたものだけに、
それが生々しく胸に迫る。

っていうか・・・、そもそも、80歳近いそのお年でこの作品はもうそれだけで凄いなあ。
戦時中が舞台とはいえ少女の残酷さとかお茶目さとかリアルだもの。むしろ30代の私が
少女性をもう無くしてるのに著者は無くしてないのよね、とか思ってしまう。すごいなあ。

戦時中。女子学生が学校に行かずに工場で勤労していた頃。
庶民派でがたいの大きいべー様こと阿部欣子は、線の細い少女、小枝(さえだ)と出会い、
いろいろあって小枝とおばさんと一緒に生活することになる。
小枝は勤労中に知り合ったミッションスクールの上級生、葎子との交流を深めていたようだが、
彼女は空襲で帰らぬ人となる。しかしその死には謎が残り・・・
小枝と葎子が交換して書いていたという小説及び手記を読み解くうち、
現実の事件と絡まっていくのだった。

3人の少女による小説、そしてこのリレー小説を書くに至る経緯を書いた手記が、
阿部欣子がそれを読むたびに小説にも登場し、現実と交錯する。
女学校にやってきた外国人講師を主人公にした「倒立する塔の殺人」は、外国人講師が
過去にこの学校にやってきた自分の友の謎の死を探るというミステリであり、
それだけ読んでも幻想的で官能的である。その中に更に入れ子のように友の手記が入っていて、
入れ子の中の入れ子、まるでマトリョーシカみたいな構造になっている。
しかしそれがどんどんと現実に浸食していくその感覚のぞくぞくすることったら。

ミステリとしてもすばらしいのですが、少女たちの高慢さ残酷さが際だって、
酔いしれてしまう美しい作品。だけども、夢のようにはかない少女たちだけではなくって、
戦後という厳しい時代を現実的にたくましく生きている、普通の感覚を持つ少女、
阿部欣子を語り部にすることによって、うまく現実とのバランスが取れたというか、
更に奥行きが深まったように思えました。
はかなげな少女たちももちろん魅力的だけど、べー様のキャラも好きだ。
数人の少女たちが出てきたけれど、それぞれの個性のかき分けもとても見事で、
全員が魅力的に感じた。あまりいいように描かれていない久仁子でさえも。

それから学校の先生につけられたあだ名のすばらしいこと。人柄がすぐにわかって面白かった。

もうあれもこれもステキで好みのどまんなかのこの作品、
老若男女皆にオススメ、大人も読まないともったいないです。

ちなみに今更になって「カラマーゾフの兄弟」を大人買い(ここだけ大人モード)した
私でありました。ずっと読もうと思いつつなかなか実際買うところまでは
いかなかったのだけど、この本ですっかりその気に・・・・。単純です。
| comments(0) | trackbacks(2) | 00:18 | category: 作家別・ま行(皆川博子) |
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皆川博子『倒立する塔の殺人』
皆川博子『倒立する塔の殺人』 理論社 ミステリーYA! 2007年11月発行 戦時中のミッションスルール。 少女たちの間で流行った小説の回し書き。 孔雀模様のマーブル紙を使った美しい装丁のノートには、 『倒立する塔の殺人』という題名のみが記されていた。
| 多趣味が趣味♪ | 2009/03/12 11:12 PM |
vol.15「 倒立する塔の殺人 」皆川 博子
挨拶といえばごきげんよう、という女学校にどうも馴染めなくて浮いてしまう、言うなれば異分子(イブ)の阿部欣子こと、べー様。平々凡々とした彼女に、同じクラスの可憐な少女・三輪小枝(さえだ)が託した1冊のノートから、少女達の悲哀、戦争の愚かさ、そして『倒立
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