本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
<< April 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 「香水―ある人殺しの物語」パトリック・ジュースキント/ 池内紀訳 | main | 「告白」湊かなえ >>
# 「大地の子」山崎豊子
大地の子〈1〉 (文春文庫)大地の子〈2〉 (文春文庫)大地の子〈3〉 (文春文庫)大地の子〈4〉 (文春文庫)

上川隆也主演でだいぶ前にドラマ化されて、それを見た母が「感動した!」と何度も言ってて
それで覚えていたんだけど、やっと原作を読んでみた。
重い。すごく重い読書だった。

小さい頃、中国残留孤児の人が来日してテレビに出ていた。
孤児、というのにおじいさんだったりおばあさんだったりして、同じく年を取った
お父さんお母さんに再会できたりできなかったりしていた。
この人たちはどういう人たちなんだろう、子供心に思ったけれど、あまりしっかりと
テレビを見ていたわけでもなく、詳しいことは知らないままだった。
今回これを読んで彼らがやってきた経緯なんかがすごくわかって、自分の無知を恥じた。
日本人として知っておかなければならないことだと思う。
戦中に、国策でたくさんの人が満州に移り住んだ。しかし敗戦後、関東軍は満州の人々を見捨てる。
自分たちで逃げるしかなかった満州の人々からはぐれたり脱落した子どもたちが、
そのまま中国に残留し、中国で育つ。戦争中にひどいことをさんざんしてきた日本人の子、
ということで、生き残ってもひどい扱いを受ける子どもが多い。そして年月が経ち、
日本と中国の国交が回復し、日本政府が動き出した頃には、彼らは年を取り日本語を忘れ、
日本の記憶も失せていて、日本に帰っても肉親に会えない・・・
そんな状況で彼らはどうやって生きてきたのか。
そんな人たちがたくさんいて、迫害されていた事実。私はこの本を読んで愕然とした。
問題は日本人が被害者だと言い切れないことだ。戦争では加害者だった日本人が、
迫害されてしまう理由もわかる。日本人に家族を殺された中国人だってたくさんいる。
この物語の隆一心も、自らがひどい目に遭わせられながらも、日本人としての罪悪感に
苦しめられる日々が続く。誰が悪、誰が善、という簡単な問題じゃない。
ただ、戦争がなければ、こんな悲惨な人生を歩む人はいなかった、それだけはわかる。
日本人として重い本である。本当に。

松本勝男は幼少の頃に敗戦し、母がその後のソ連兵の襲撃で殺され、
そして妹とも離ればなれで日本人の働き手として中国人に連れて行かれる。
そこでこき使われ、汽車に乗って逃げ出す勝男だが、着いた先でまた中国人にだまされ
道で売られているところを、教師をしている隆徳志に助けられる。
そのまま隆の子どもとして、隆一心という名をもらい、中国人として生きていこうとするのだが、
中華大革命の時、日本人だからとつるし上げられ、強制労働所に送られ、
そこでまた想像を絶する目に遭うのだった。

過酷に過ぎる一心の生き様。だが彼は必死に、中国人として生きようとする。
日本人であるがために迫害を受け、日本人である自分に対し罪悪感を持ち続け、
中国人であろうとするが、中国にはなかなか受け容れられない。
日本人でもなく中国人でもない。自らのルーツがわからないまま、彼はそれでも懸命に生きる。
当時の残留孤児はみんな、自分はどこの国の人なのか、何をよりどころにして良いのか、
わからないまま生きていたんじゃないか。よりどころになる国がないってのは、
どれだけつらくて哀しいことか、想像もつかない。
隆一心はあれだけ過酷でも、まだ恵まれている方だってのがだんだんわかってくる。
農村で、働いて産む機械みたいに扱われている女性もいる。中国残留孤児として
中国側が日本に派遣する孤児たちは、恵まれた育ちの者ばかりで、迫害されているような人は
もともと入っていない・・・。そんな実態が、物語を読み進めるうちに見えてくる。
綿密な取材を丹念に重ねてのそんな物語には、重みがありすぎて、何度も胸が詰まった。

隆一心の人生も波乱に満ちている。最愛の女に日本人だからと拒絶されたり
強制労働所で絶句するほどひどい目にあったりしても、彼は育ての親の隆徳志の温情を知っており、
彼の息子として、そして中国人としてふさわしい人間であろうとする。
その潔癖な志、その努力には何度も涙した。

全巻通じて語りたいエピソードにあふれていてあれやこれや書きたいけど、全4巻もあるし
ネタバレにもなるので我慢するけど・・・。
個人的には4巻はずっと嗚咽し通しで、電車とかで読むのに非常に苦慮する、そんな展開だった。
自分のルーツを探し続けていた隆一心が、最後にたどり着いた境地には本当に深い感動を覚えた。

後半では、革命後の中国が日本から技術を学んで製鉄所を作ろうとする経緯が描かれて、
隆一心もそれに関わって運命的な出会いをしたりするわけなんだけど・・・。
政治的な背景や中国人と日本人の技術者同士の軋轢なんかがすごく読み応えがあった。
たとえば製品の検品を中国側が徹底的にして日本をつるし上げるとか。そこまで言わんでも、と
日本側の私は思うけど、中国人が読んだらまた違うんだろうし。
一旦戦争で途絶えてしまった国の修復は、個人レベルでもなかなか難しいのか、
それ以前に中国と日本の文化や考え方にこれだけの違いがあるのか・・・
隣国で顔が似てるといっても歴史がまるで違うわけで、不幸な歴史も多々あったし、
わかりあうのは難しいかも知れない。それでも協力し合って一つの大きな目標に向かって
進んでいく、その過程と結果にも涙させられた。
戦後の日中の歴史の一端を垣間見させる重厚な小説だった。

全4巻だけどのめり込むのであっという間である。堅苦しさはあまりなくて、
どんでん返しがあったり、スリリングな展開があったり、読み物としてすごく面白い。
そして感動は保証するし、国と国、家族のあり方、自分のルーツなど、
本当にいろいろ考えさせられた。

| comments(2) | trackbacks(0) | 01:12 | category: 作家別・や行(山崎豊子) |
コメント
ざれこさん、初めまして。いつも読書の参考にさせていただいております。ありがとうございます。
読了した本は数あれど、この「大地の子」は私のベスト1です!
自分のアドレスに楼貎瓦量樵阿鬟船腑ぅ垢靴篤れているくらい感動した物語でした。
再読もしています。私はとにかく1巻が壮絶で、解放区へ逃げるときに人肉を食べようとしている人達がいたりする中で、徳志氏が我が身に替えてでも一志を守ろうとした姿に涙せずにはいられませんでした。
妹さんの最期は本当に可哀想でした・・・・。絆の深さを感じました。
ラスト4巻の最後。胸にずしっと重く響きました。
| てるてるママ | 2011/10/14 5:04 PM |

遅まきながら「大地の子」を読みました。陸一心は中国の善意の中で育ったと思う。貧困は人の体も心も餓鬼にする。(妹あつ子の死)日本でも中国でも同じ。同じ人間だけど、その上に冠する「国」が違う。国の意思は大きく個人の人生を切り刻む。関東軍が逃げまどう同胞の退路をたったこと、文化大革命が陰湿な密告社会を作り、偉大なる知性・文化を喪失させたこと、宝鼻華製鉄所が政争の具になったこと。私たちはこの国の意思をしっかり監視してゆかねばなりません。山崎豊子さんに感謝しています。山崎さんが書き残してくれたから日中戦争、東京裁判もこんなおばさんにも理解できました。
| ほうじ | 2013/01/24 5:27 PM |

コメントする









この記事のトラックバックURL
http://blog.zare.boo.jp/trackback/816656
トラックバック
NOW READING
ざれこの今読んでる本
Selected Entry
Categories
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Profile
Search this site
Sponsored Links