本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「ファントム」スーザン・ケイ/北條元子訳
ファントム〈上〉 (扶桑社ミステリー)ファントム〈下〉 (扶桑社ミステリー)

超有名な「オペラ座の怪人」の原作だと思ってうっかり手に取りました。
読む前に調べてみて、原作と違うというのはわかりました。
原作はガストン・ルルーが書いて、誰もが知ってる「オペラ座の怪人」は
ルルー作のもののようです。
じゃあこの本は何かというと、ルルー版「オペラ座の怪人」以前の話を
スーザン・ケイが想像を働かせて描き、幼少期からのエリックの像を
彼女なりの解釈で生み出したというそういう作品です。オマージュって言うか、
こういっちゃ元も子もないけど、二次創作みたいな感じ?

でも知らずに読んだらこれが元ネタだって私は信じたと思います。
そのくらい重厚なつくりで読み応えがあり、心揺さぶられました。
醜く生まれてしまった赤ん坊エリック。母のマドレーヌはお嬢様で、
夫はなくなったばかり、忘れ形見となるはずのエリックに愛情を示せず、
仮面をつけて、誰にも会わせず育てる。大きくなるにつれて彼は建築や音楽に
類まれなる才能を見せるようになり、それがまた母をいらだたせ、
母の愛を渇望しているエリックはそれを得ることが叶わない。

そして母に迷惑をかけまいと家を出るエリック、そこから彼の孤独な旅がはじまる・・・

母の愛が全くもらえなかったのなら仕方ないのですが、母にまるで愛情がない
わけではなくて、でもその愛情を彼は受け取ることができなかった、
それが彼の遍歴につながっている、その構図が切な過ぎて、ずっと哀しみながら
読んでしまいました。母になったことはないけれど、どんなに醜くても子は子であり、
愛がないわけがない、でも閉じた彼の心にはそれは届かない。切ない。

彼が行く先々で、仮面に顔を隠しつつも、その気品や人間としての魅力で
人を惹きつけていき、ほんの少しだけど、彼の理解者や、親代わりの人や、
そういう人が現れます、でも結局彼は離れてしまう。そうせざるを得ない運命になる。
誰かとエリックとの鮮烈な出会いが、いろんな人の目線で描かれていく、
そういう構成も面白く、エリックの何気ない台詞にどれだけの思いがこもってるか、
語り手は知らないけど読者にはわかる、そんなシーンも多くあって、
彼の孤独に胸がつぶれそうなときも多くありました。
ペルシャでの彼の冒険はちょっとあまりに現実離れはしていたけれど、
ナーディルの息子とのシーンに、エリックの残酷さと優しさが伝わってきて、
それもまた寂しくなり・・・。

結局その残酷性や孤独な性分でどこにも永住地の地を見出せず、
年を経てますます頑なになった彼は、建設に関わった彼の作った宝、オペラ座で、
地下深くに隠れ住み、「オペラ座の怪人」と恐れられるようになり、
そのまま誰とも会わず、やっと落ち着いて過ごせるようになってきたのだけど、
でもそこで彼はクリスティーヌと出会います。

ここからの物語はよく知られた物語となるようなんですが、そこまでの伏線が
すごいというか、エリックの幼少期から旅を経てここまでたどり着く、
その人生がよく知ってる物語に見事つながっているのがすごいと思いました。
ルルー版をよく知っていればいるほど、見事、と思えるんじゃないかな。

彼がいかに孤独かこれまでの物語で身に染みている私からすると、
クリスティーヌとの出会い、誘拐、監禁のようで実は心が通い合ってるような
二人の生活、そんなものが全部奇跡のようで、エリックがどれだけ最後に
幸せだったかが伝わってきて、別な意味で胸が締め付けられました。
幼少期に母からもらえなかった愛が、めぐりめぐってここで受け取れたんだな、と、
柄にもなくセンチメンタルなことを思いました。

顔が醜い、という十字架を背負って生きざるを得なかったエリック、
だからこそもらった愛情がいかに貴重か、それがいかに輝くか。
最初から幸せになれなかったのはつらかったけれど、最後にはよかったなあと思えた。
痛々しかったけど、読んでよかったです。

ラストもひねってあって(これは原作にはないだろう・・)、
ちょっとかわいそうな人もいたけれど、私には嬉しいというか、
感動しつつちょっとにんまりしてしまう終わりでした。

元ネタも読んでみたい気もするけれど、これで充分満足かな・・・という気もします。

読み終わってから思い出しましたが、劇団四季の「オペラ座の怪人」を
昔見に行ってました。でも内容を綺麗さっぱり忘れてる私でした。残念・・・
| comments(0) | trackbacks(0) | 22:54 | category: 海外・作家別カ行(その他の作家) |
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