本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「月と六ペンス」サマセット・モーム/土屋政雄訳
月と六ペンス (光文社古典新訳文庫 Aモ 1-1)
月と六ペンス (光文社古典新訳文庫 Aモ 1-1)
  • 発売元: 光文社
  • 価格: ¥ 800
  • 発売日: 2008/06/12
  • 売上ランキング: 68074
  • おすすめ度 4.5


新進作家の「私」は、芸術家を集めるパーティでストリックランド夫人と知り合う。
家に招かれ、夫のストリックランドとも会ったが、証券会社に勤める彼はおもしろみのない男に思えた。
しかしストリックランドが女と消えたと夫人に言われ、
「私」はストリックランド説得の役を引き受けることになる。
「私」が会いに行ったストリックランドは、絵にとりつかれていた・・・

ストリックランドのモデルはゴーギャンらしい。
ゴーギャンの絵はもちろん観たことがある。
独特な色遣いで、あき竹城に似ている女性(←すいません・・)が描かれてる、有名な絵。
でもゴーギャンそのものの生き方はまるで知らない。
この作品もゴーギャンそのままではないらしいから、ある芸術家の物語だと
思った方がいいのだろうな、と思いながら、私はゴーギャンの絵ばかり思い出してました。
ここに出てくるストリックランドだったら、やっぱりゴーギャンみたいな色の絵を
描いてたんだろうと思わせる何かがあったので。

妻と息子を捨て、破天荒な人生を生きはじめた彼を、「私」は批判するが、
ストリックランドは意に介さず、絵以外に関心を示さない。
ストリックランドの絵の価値は「私」にはわからないが、「私」の友人のストルーブは
彼の天才を見抜き、彼の面倒を見ている。
しかし、ストリックランドの不思議な荒々しい魅力が、ストルーブの運命を狂わせていく。

この本で気になったのは逆に「私」のことだった。
「私」はストリックランドを快く思っていない。嫌いにはなれないのだけど、
絵もうまいと思わないし、いつもちょっと距離を置いて彼を見ているようなところがある。
「私」本人もけっこうくせ者だと私は思うし。ちょっと性格ひねくれてるし・・・。
そんな「私」の冷静で醒めた視線を通して見るストリックランドの像。
そういう構成になっているのが興味深かった。著者が三人称文体を使わず、
「私」を介した理由はなんなのだろう。そんなことを考えながら読んでいた。
思うに、ストリックランドの賛美者が彼を語るのではなく、批判し、彼の絵の価値もわからない、
でも文学者としての独特の視線を持った「私」がストリックランドを語ることで、
ストリックランドという不思議な人間の魅力が際だったと思うのだ。
「私」というフィルターが、この小説を更に魅力的なものにしていると思う。
そして「私」は著者自身の経歴と重なる。作家本人がストリックランド、つまり稀代の
芸術家に会って、自分がどう思うかを想像して書いてるのだとしたら、
それもまた面白いなと思う。

ストリックランドはパリで気ままに生き、そして最後にはタヒチに向かう。
その山奥で、彼は安住の地を見出す。
最後に書いた絵を「私」の目から我々も観ているような気がして、
そして戦慄を覚えた。凄まじい絵のような気がした。何か、人の仕事ではないような。

画家、いや芸術家には二種類いるのじゃないか、なんて私は思う。
絵を描きたくて描く人と、描かずにはいられない人。
裕福な人生を捨ててでも、もしかしたら自分は絵なんか描きたくなくても、
描かずにはいられない。表現すべき何かが自分の中でうずまいて、どうしようもない。
そういう人がいるんじゃないか。
それは本人の力というよりかは、誰かに選ばれたような気がしてならない。
そんな生き方しか出来なかったんじゃないかと思わせるストリックランドの生き様を読み、
そしてそれを表現し尽くしたモームも、やっぱり書かずにいられなかったのかもしれない、と
ちょっと生意気なことを思った。そんな読書だった。

ゴーギャンもゴッホやピカソも、私の好きな画家のダリやマグリットも、
描かずにはいられなかったのかもしれない。
彼らが命を削って描いた、そんな絵をただ美しいとか「あき竹城みたい」とか
言いながら見ていられる私は、ほんま幸せだなと思う。
今度ゆっくり、ゴーギャンの絵を見てみよう。
| comments(0) | trackbacks(0) | 01:02 | category: 海外・シリーズ別(古典新訳文庫) |
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