本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」アゴタ・クリストフ/堀茂樹訳
悪童日記 (Hayakawa Novels)
悪童日記 (Hayakawa Novels)
  • 発売元: 早川書房
  • 発売日: 1991/01
  • 売上ランキング: 66537
  • おすすめ度 4.5


最初に読んだのは「悪童日記」単行本。当時まだ文庫を細々と買っていた学生の私が、
何を思ったか単行本を買っていた。そもそも翻訳自体当時ほとんど読まなかったのに、
私が何を思ってこれを買ったかもう定かではないが、なかなかやるやん、と当時の自分に言いたい。

三部作で完結したとあとで知り、「ふたりの証拠」「第三の嘘」は文庫でそろえていた。
「悪童日記」だけ単行本で、単行本だけ注釈がついていた。
あまりにも説明がなされない物語で、注釈は少しありがたかったが、なくても問題なく読める。

今回一気にこの三部作を読破。1日1冊ペースで読んだ。
本来、こういう場合は感想は1冊1冊書くのが自分のポリシーなんだけど、
今回はあえて3部作全体として感想を書くことにした。
2作目、3作目と読み進んでいくうちに読者が味わうであろう困惑と衝撃が、
1作ずつ感想を書くことで失われてしまうのをおそれたので。
三部作はとにかく一気に読んでほしいし、1作目を読んだらもう続きを読まずにはいられないと思う。
戦争が激化して親元を離れて、おばあちゃんの元に預けられた双子の兄弟。
おばあちゃんは二人に厳しい。自分たちだけで生き抜くすべを学び、戦乱を生き抜いていく「悪童日記」。
彼らの日記には「事実のみを書くこと」というルールがあって、それゆえにこの日記も、
事実のみが淡々と書かれる、というスタイルが取られている。すごく簡潔な文章である。
それが鮮烈な効果を作品にもたらしている。
事実だけが語られ、そしてあえて書かれない事実もたくさんある。
行間を常に読んでいって、深く読み込まないと世界が見えてこない。
私もじっくり読んだつもりだけど、読み落とした事実もあるかもしれない。
いかにいつも私が作家が書いてくれる数々の描写や説明に甘えてきたかがよくわかった。

簡潔な文章の中に出てくる戦争の悲惨な現実、そして兄弟が行う残酷な行為。
あまりにさらっと書かれているから逆に衝撃が大きい。
兄弟の行動については、事実のみしか語られないため彼らがどうしてそうしたか理由は一切語られないが、
彼らがそうしてしまった理由がふと推察できたときに胸をつかれることがあった。
彼らはこの戦争の混乱時に、彼らなりの正義を貫いて、生き抜いているのだ。

そして衝撃の結末が訪れる。
しばらく呆然とした後、すぐに次の「ふたりの証拠」を手にしてしまう、そんな結末だ。

彼らはその後どうなるのだろう。はやる気持ちで「ふたりの証拠」を読みはじめ、
そしてまたその文体に翻弄されることになる。
「悪童日記」では「ぼくら」という一人称(二人だからどう言うんだろう)、
「ふたりの証拠」では三人称、「第三の嘘」では「私」という一人称。
文体や文章の感じが同じ三部作とは思えないほど変わり、それがまた絶大な効果を
もたらしている。

もうここからは何も語らずにおこうと思う。
何度も何度も翻弄された。結局全体像が見えたかどうか、読み終わった今もわからないままだ。
しかし三部作を読んで、反戦の物語ではなかったのだな、と思った。
人が生きていくという、ただそれだけの物語だったのだなと思う。

作品全体から受けた印象は圧倒的な孤独。
時々それを強烈に感じて、息が止まるほどの衝撃を受ける。

普通、現実逃避のために人はいろんな想像をする。金持ちだったらいいなとか
宝くじ2億円当てたらいいなとか美人だったらいいなとかいい男がいたらいいなとか、
そういう、今よりはいい生活を想像する。
この物語世界では現実と想像との境界が曖昧になってくるんだけど、
想像が現実よりいいものだと仮定すると、こんな想像よりひどい現実って、
一体どういうのだ、と思わず絶句してしまうような気持ちだった。

救いがなくどうしようもなく、だけど生きるパワーにあふれていて、
ずっと心にひっかかるような三部作だ。
読み終わっていきなり再読したくなったが、何度読んでも違う発見、違う衝撃を受けそうな気がする。
| comments(0) | trackbacks(0) | 00:31 | category: 海外・作家別カ行(その他の作家) |
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