本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「闇の公子」タニス・リー/浅羽莢子訳
闇の公子 (ハヤカワ文庫 FT リ 1-18)
闇の公子 (ハヤカワ文庫 FT リ 1-18)
  • 発売元: 早川書房
  • 価格: ¥ 798
  • 発売日: 2008/09/05
  • 売上ランキング: 16876
  • おすすめ度 5.0


まだ世界が平らだったころ。妖魔の王アズュラーンは、地底から人間界に出ては、
気まぐれに人々の運命をもてあそんでいた。そんな時代のいくつかの物語。

海外ファンタジーにまるで詳しくない私は、この作品が絶版になってたことも
知らなかったし、最近復刊されて喜んでいる人たちの話を聞いて、
ほほうと手に取りほほうと読んだだけという、ある意味贅沢な立場にいる。
こりゃ復刊喜ぶはずだわー。っていうか読めなかったのがおかしいわー。
すごく面白く、手ごたえのある読書でした。
訳が独特で古めかしく慣れるまで少しとっつきにくいのですが、
さらさらととっかかりよく訳されたらこの世界観はまるで出なかっただろうなと思う。
重厚で古めかしく神話的で、作品がもつ雰囲気をもりたてて、
なおかつ慣れたら全然読みやすくなるのです。とても美しい日本語。
おかげでどっぷりと世界に浸れました。
訳というのはフィルターの役をしていて、私みたいに原文は一行も読めない人は
訳者のフィルターを通して作品を読むしかなく、そのフィルターがどのような
作用をしているかはわかりようもないのですが、この作品に関しては
より美しく見えるような効果を与えてくれたのは確かなようです。

さて、物語は、アズュラーンを主役もしくは黒幕に据えた連作短編の形式をとっていて、
どれも1部、2部からなっています。1部である人やあるものが翻弄され、
その人やものが2部でまた害を及ぼしたり運命を決めたりして、凝った構成になってます。
巻の一、第一部、とか、厳かに章立てがついてるのもなんか重々しげで、
短編集なのに(そして文庫なのに)重くて美しい本を広げているような気分。

アズュラーンは残酷無比で、気に入った人間はかわいがり、体もむさぼりつくし、
人間がひとたび思いのままにならないとなるとひどい目に遭わせるんだけど、
そのやり口も半端じゃなくって、ようそんな酷いこと思いつくな、ってことを平気でやります。
それも無邪気にやっちゃいます。彼にとっては人の命なんてどうでもいいから。
でもなんかそれが残虐な感じがしなくてむしろ美しくすら感じてしまう。
あまりに超越した悪というのは美しく、人間がやってしまうちょっとした悪の方が
すごく残酷に思えるのは不思議でした。
運命のいたずら(というかアズュラーンが絡んでるんだけど)で生まれつき
醜くなってしまった少女への人間達の仕打ちとか、そういうありがちな残酷さが
薄汚く醜く際立つという不思議な物語でした。

アズュラーンは美しいものが好きで、それは徹底していて、本人もただひたすら
美しく、想像したらぞっとするくらいの美しさ。そんな彼が無邪気に放つ
美しい悪意が人間を翻弄していく、そしてめぐりめぐってアズュラーンに
反撃を食らわすような物語展開が波乱万丈ですごくぞくぞくさせられます。
闇の公子からしたら無駄なあがきでしょうが、人間達も愛する人のために
あがいたり、復讐に燃えたりしています。それが悪の運命の力に抗って
小さな花を咲かせるようなシーンがあり、そんなささやかな小さなシーンが、
とても好きでした。取るに足らない存在でも、運命に屈しない人たちがいる。
それはまた別の意味で美しいのです。
そんな展開もあるから、ますます読むのが止まらなくなります。

一番印象深かった話は醜く生れてしまった女王の話。
復讐に燃える彼女の姿も醜くも美しく印象的でしたが、
兄弟のたどった運命もドラマチックで、なおかつ皮肉に満ちていました。
物語の醍醐味を堪能できる短編。

そんなんばっかりなんですが、ラストは全くの予想外で。
短編集かと思っていたら実は長編だった?っていう凝った展開もいいのですが、
まさかアズュラーンがそういう行動をとるとは・・・・。
わからないような、いや、でもすごくわかるような、です。
長い長い永遠の時を生きなければいけない彼だからこそ、
守らなければいけなかったものがあるのでしょう。
生きがいってなんだろう、って月並みなことを考えてしまい、
なんかこの作品にはそぐわないけどな、とふと苦笑い。でもそんな感想でした。
ああもう、とにかく読んでとしか、ここはいいようがない。

そしてまた最後の最後にくすっと笑ってしまうのですが。

とにかく最初から最後まで酔いしれました。
酔った、という表現がけっして大袈裟ではない読書です。
平たい地球シリーズで続きがあるようです。詳しくはないのですが、
また見つけたら読んでみたいです。

表紙も美しいですね。
解説によると、絶版前は萩尾望都が描いてたそうで、
そっちも激しく見たいのですが、こちらも気に入っています。

| comments(2) | trackbacks(1) | 22:54 | category: 海外・作家別ラ・ワ行(その他の作家) |
コメント
アズュラーン大好きですっ!
私は最初の版を買って、それをひとに貸して戻ってこなかったので
復刊したのを買ったのですが、また復刊してたのですね、しかも新装版。
これも欲しいかも。
このシリーズ(平たい世界)は惑乱の公子、死の王と読んで、たしか
娘の出る話も読んだ。……みんな好きです。
私にとってタニス・リー原体験です。
| | 2008/10/15 12:04 AM |

自分にとっては思い入れのある一冊で、今回の復刊で購入し懐かしく読み返しましたが、なかなか骨太で豪華でまさにファンタジー王道の一冊でしたね。タニス・リーをまた読み返してみたくなりました。
| 樽井 | 2008/10/15 1:03 AM |

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闇の公子
 美しい表紙のイラストが気になっていた本書。 ・内容 まだ世界が平らだったころ、地底では妖魔の都が栄えていた。その都を統べる妖魔の王、絶大な魔力と美貌を誇るアズュラーン公子は人界に遊び、無垢なものたちを誘惑して愉しんでいた。育て上げ寵愛した美青年、
| 読書狂日記 | 2008/11/09 6:18 PM |
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