本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
<< December 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< 「トムは真夜中の庭で」フィリパ・ピアス/高杉一郎訳 | main | 「敦煌」井上靖 >>
# 「寡黙な死骸 みだらな弔い」小川洋子
寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫)
寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫)
  • 発売元: 中央公論新社
  • 価格: ¥ 680
  • 発売日: 2003/03
  • 売上ランキング: 12622
  • おすすめ度 4.5


ずいぶん前に読んだんだけど、感想を書くのが難しくて、なんとなく置いていた。
絵や音楽から受けた感動が表現しづらいような、そんな困惑と似ていた。
まあそういうわけなので、たいした感想は書けないし、これ読むより
とりあえず本を読んでみてはどうだろうと薦めるしかないような気もする。

小川洋子の作品は「博士の愛した数式」や「ミーナの行進」みたいに、
すごく温かさを感じる作品と、この作品とか「密やかな結晶」みたいに、
しんとした冷たさを感じる作品と、大きく2つに分かれるような気がする。
どちらも好きだけど、冷たい印象を与える作品は特に、小川洋子でしか読めないような、
他の誰にも出せないような雰囲気がある。本当に冷たくて、美しい。
そして、これは、すごく静かな印象がある本。
普通に人が喋ったり動いたりしているのに、沈黙がきつすぎて耳がきんとなるような、
静けさが漂ってる気がする。
そして残酷な描写なのに映像として鮮やかに想像できて、
残酷さもあるからこそ美しい光景が広がる。
モノクロのサイレント映画を見ているよう。
トマトの赤や、心臓の赤など、時々色が混じるような。

特にこの作品はそういう印象だった。短編の映像が次々と立ち現れる。
そして過去も現在も未来も混ざり合って時間の感覚が曖昧になっていく。

とある静かな町での連作短編。それぞれの短編が緩やかにつながっていき、
かつて出会ったことのある人や出来事がデジャブのように他の短編にも出てくるのが、
また不思議さを醸し出している。
冷蔵庫のなかで死んだ息子の誕生日にケーキを買い続ける女性の物語からはじまり、
その物語全体から立ち上るイメージはやはりタイトルにもある「弔い」だろうか。
死が街に違和感なく存在するようなそんな雰囲気の中、それぞれのやりかたで、
その死を弔っている。静かに、厳かに。そういう印象である。

手の形をしたニンジンや、美しいベンガル虎、トラックいっぱいのトマト、
だいぶ前に読んだのにいろんな景色が頭をよぎる。

拷問博物館でのいろいろな、美しく残酷な拷問器具。それを淡々と説明する老人、
振られた男を思い出しながらその説明を聞く女性。ぞっとする光景なのに、
小川洋子の残酷さには生々しさがないというか、目をそむけたくなるものというより、
美しいから見ていたいような、そういう残酷さがある。すごくひどいことが書かれているのに。
それは目をそむけたくなる小説よりも、より残酷なんじゃないだろうか、そんな風に思った。

心臓の仮縫いという短編が一番印象的だった。タイトルどおり「心臓の仮縫い」なのである。
心臓という器官、なくてはならないものだけど普段は体の中に隠れている心臓が実は赤くて
グロテスクなものであることをこの作品を読んで思い出した。でも不快さはないのがまた不思議。
そして、心臓を入れる鞄、という作品に憑かれてしまう鞄職人の狂気が静かに描かれていて、
なんかその狂気にまきこまれそうな吸引力がある、怖い短編だった。

ラストにいくにつれ、現実と幻想の境目も曖昧になっていくような感覚があり、
「毒草」の読後には、生と死の境目すら曖昧になる、そんな読書だった。
最後には自分自身を弔っているような奇妙な感じがした。

構成といい、美しい文章といい、印象深いシーンといい、芸術的だ。
小川作品のなかでもまた特に好きな作品と出会えたなと思う。

死者を弔う。
犬が死ぬことを子どもに説明する時に戸惑ったという著者のあとがきを読みつつ、
私も死とはなんだろう、たとえばうちの犬が死んだらどこに行くのだろう、と、
他者の死についてふと考えた。小川洋子作品を読んでから死を見つめてみると、
それは異質なものである死への恐怖というより、もっと穏やかな、自然な感覚であることが、
また不思議だった。
| comments(0) | trackbacks(0) | 11:00 | category: 作家別・あ行(小川洋子) |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://blog.zare.boo.jp/trackback/798544
トラックバック
NOW READING
ざれこの今読んでる本
Categories
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Profile
Search this site
Sponsored Links