本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「FUTON」中島京子
FUTON (講談社文庫 な 70-1)
FUTON (講談社文庫 な 70-1)
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 680
  • 発売日: 2007/04/13
  • 売上ランキング: 207253
  • おすすめ度 4.0


職場の年上の先輩と本談義をしていた時、三島とか太宰とか漱石とか、
古典と呼ばれそうな本の話に及んだ。先輩は「そういえば」と顔をしかめて、
「こないだ「蒲団」を読んだのよねー」と話し始めた。「どんな話ですか?」
「うーん、男の人が好きな女の蒲団に顔を埋めて泣く話。くだらなかったわー」
ふむ、逆に面白そうだと興味持ってしまった私だった。
なんかすごく情けなさそうで、それが滑稽そうではないか。

手元に既に田山花袋の「蒲団」と、中島京子の「FUTON」、どっちも持っていて、
元ネタ「蒲団」を読んでから「FUTON」を読もうと思っていたんだけど、
結局「FUTON」をいきなり読むことにした。
結果から言うと、いきなり読んで問題ない。話は全部わかるし、
更に「蒲団」が読みたいという気持ちが高まるので、こっちが先の方が案外いいかも。
デイブ・マッコーリーは大学で教えながら日本文学を、特に田山花袋の「蒲団」を研究している。
大学の生徒の日系人のエミとの関係に溺れているが、最近エミに若い男ができた気配がある。
エミは日本の祖父の家に一時帰国するようだ。場所は東京の下町、鶉町。

鶉町では蕎麦屋がいきなりサンドイッチ屋に鞍替えした。そのオーナーのタツゾウは70代。
その父ウメキチは足腰は元気だが、最近は戦時中に出会った女、ツタ子の話が多くなっていく。
そのウメキチを絵に描こうと思った画家志望のイズミは、ウメキチの面倒を見て、
ウメキチの混濁する記憶を聴いていく。
そしていつしか、ウメキチ、イズミ、エミ、デイブがつながっていく。

その本筋に、デイブが書いている「蒲団の打ち直し」という小説が合間合間に入ってくる。
もちろん花袋の「蒲団」をモチーフにデイブが書いた小説で、筋書きは「蒲団」のとおりである。
一見何の関係もなさそうなこの2つの流れが交錯していって、読み終わるとなんとなく
一本の小説を読んだ感じがするのが不思議。
デイブは若い女を情けなくも追い、「蒲団の打ち直し」の時雄と芳子の関係もだし、
ウメキチと若いツタ子の関係も・・・、中年男のちょっと情けない三者三様の恋が描かれ、
それが交錯していく一体感もあったが、明治の東京から現代の東京まで、
時雄、ウメキチ、デイブ、とバトンタッチされている感もあって、
いろいろ交錯することでうまみが増している、素敵な小説だった。

「蒲団」ってこんな話か、って思いながら読んでいた。デイブの「打ち直し」は
「蒲団」では名前すら出てこない妻の美穂の視点から書かれている。
美穂って名前はなんだか今風だな、とちょっと違和感あったんだけど、なるほどである。
夫と弟子の関係について軽く疑い、けっこう辛辣なことを思いながらも彼らの動向を見ている。
共感できるところも多くて、夫の時雄の情けなさもにじみ出ていて、面白かった。
そしてそれはデイブにも共通する。情けないデイブは若い女を追いかけ回し、
結局時雄と同じようになっちゃってるのがまた何とも言えない寂しさとおかしさを醸し出す。
情けない男達と、なんだかんだで強い女達。面白い。

エミの実家も面白いんだよな。鶉町で、蕎麦屋からサンドイッチチェーンに転身して、
70歳過ぎたおじいちゃん、タツゾウがサンドイッチ売ってんだからすごい。
「ハラペーニョはいかがしますか?」って。新しいことに挑戦して粋なじいさん。
それを紹介する街の雑誌みたいなのの書きぶりもありそうで笑えた。
更にタツゾウの父のウメキチも90歳過ぎて達者だしね。素敵。

ウメキチは戦時中のツタ子との思い出を語り、そしてそれを聞くイズミ。
それが巡り巡って、東京の100年に想いが向かう。時雄が生きていた頃から、
関東大震災、そして空襲と、2度も崩壊しながらも復活して生きている東京。
その東京の街が背負っている歴史。イズミの想いに従って、私の眼前にも
東京の100年の歴史を、街の想いを思うことになる。
そんなこと考えたことなかった。街のトラウマ、街の想い。
つらい目にあった東京も、しぶとく立ち上がり、しぶとく生きている。
蕎麦屋はサンドイッチチェーンになり、さびれかけた鶉町は外国人が住み始めて、
景色を変え、新たにしぶとく生き残る。
鶉町は架空の町で、どこにでもありそうな下町。だからこそその想いは普遍的で、
どこだって、どんな痛手を負ったって、人々も町も立ち直れる、
そんな新鮮な驚きと感動、未来への原動力がふつふつと沸いてくる読後感だった。

「イトウの恋」でも思ったけど、この著者は視野が広いなあと思う。
日本にとどまってなくて、日本を外から見ているような視点というか、
日本から世界に向かっていく視点というか、でも日本を批判しているわけでも何でもなく
むしろ愛情いっぱいに描いているというか・・・、そこらへんもとてもいいなと思う。

あー忘れてた。イズミの彼氏(?)もすっごくいいんだよねー。
どの人物も個性的で滑稽でちょっと哀しくって、魅力的な人すぎて、
全員についていろいろとああだこうだ言いたくって、そうなると感想も膨大なので、
ここらへんでよしておく。魅力満載の小説だ。いやもうほんま、オススメです。

| comments(0) | trackbacks(1) | 00:57 | category: 作家別・な行(中島京子) |
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「FUTON」 中島 京子
中島京子さんのデビュー作「FUTON」 田山花袋の「蒲団」をベースに、まったく新しい世界観の小説として「打ち直されて」います。 田山花袋の「蒲団」を研究する日本文学教授・デイブは、美しい日系の学生・エミに恋をする。2人の中は順調だったが、奔放なエミは他に
| 日々の書付 | 2013/11/18 4:10 PM |
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