本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「李歐」高村薫
李欧 (講談社文庫)
李欧 (講談社文庫)
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 750
  • 発売日: 1999/02
  • 売上ランキング: 11885
  • おすすめ度 4.5


吉田一彰は昔、大阪に住んでいたことがあり、そこで母は男を作っていなくなった。
母と二人で住んでいた場所の近所には、桜の木が美しい板金工場があり、
中国人の従業員が多く勤めていた。
拳銃の密造もしていたと思われる謎の多いその工場の思い出は、長く一彰を縛ることとなる。
大阪の大学に行き、ホストクラブで夜のバイトをし、その昔の思い出と向き合うこととなった一彰、
ある夜、美しい踊りを道で踊っている不思議な男と出会う。彼は伝説の殺し屋だった・・・
男二人の長い遍歴と絆を描いた長編。
高村薫氏には大学の頃はまっていたのでこれも確か再読。
中身を忘れていたので一から楽しめた。
大阪の人間なので、地理的なことがわかるのが楽しくもあり、
知ってる場所も多々あったので、あんな場所でこんなことが・・・、と
想像して驚くことも多々あった。
よく知っている場所でも、私の見えないところに闇が広がってるかもしれない、
そう思うのは恐ろしくもありぞくぞくもする。それが小説のおもしろみでもある。

文庫の裏表紙の紹介では「平凡な大学生」となっていた一彰は全然平凡じゃない。
舞台となっている某国立大学は正直あまりおしゃれではないし、平凡な学生が多いように思うが、
そんな中にこんな平凡じゃない学生がいたら驚くなあ、と思うとともに、
結局誰がどんな秘密を持ってるかなんて見た目や所属じゃ全然わからないな、と
思いを馳せることにもなった。

町の小さな板金工場の仕事や生活の描写がすごく克明で、「照柿」でも思ったけど、
男の職業、しかもわりと地味な、でも専門技術がいる職人的な仕事、それに誇りを持っている
男達の生き様、高村氏はそういうところにすごくこだわりがあるような気がする。
未だに高村薫は男性なんじゃと思うときがあるけれど、そういう描写に男らしさや
男のこだわりを感じてしまうからかもしれない。
まじめに仕事をしつつもいつしか裏社会に手を染めている工場長の生きざまの悲哀も、
その緻密な書きぶりから浮き上がってくるような気がした。

一彰はそして李歐と出会う。国も絡んだ裏社会の刺客の李歐は
すごくスケールの大きい男で、すごくかっこいい。一彰はすぐに彼に惹かれていく。
つい、男同士の云々、と妄想しつつ読んでしまうけど、彼ら二人の絆はそういう恋愛がらみを超えた、
もっと強いもので、それは女同士の友情やつながりとは、やっぱり違うな、と思った。
女は、たとえどれだけ大事な女友達でも、その人と二人で大きく夢を見たり、
どこかで何かを成し遂げようとする、とか、そんな行動にはなかなか、出られない。
友達より男を取るのか、っていう下世話な話でもなく、子どもを育てなきゃならなかったりして、
やはり女は現実的だと思う。
男二人なら、夢を見られる。それは馬鹿といえば馬鹿だし、でもすごく、うらやましい。
この物語ではそのために女が犠牲になることもあり、やりきれないこともあったけれど・・・

一彰と李歐は、少しの間行動を共にし、ともに夜中にブツを盗みに行ったりして、
その夜中の冒険はスリルもありつつ、彼らが心を通わせる様子がかいま見えて印象的。
でも二人でいられる時間は一瞬で、李歐は消え、そして長い月日が経つ。

その間、一彰は平凡とはいえない激動の生活を経て、桜の木の工場に戻ってくる。
大陸への夢は消えず、そんな彼に李歐の消息がとぎれとぎれに聞こえてくる。
李歐もかっこいいけれど、結局板金工場で仕事を愛しながら、それでも夢を見ながら過ごす、
そんな一彰の人間臭さに、私はすごく魅力を感じた。
何か投げやりなところもあり、熱いところもあり。
李歐との絆が長い間ずっと続いていて、二人のつながりを確認するような
シーンが出てくるたびに、やっぱり胸がつかれるほどうらやましいと感じた。
李歐たちと比べたら小さなことだけど、昔将来について話した大事な友達は、
今どこにいるんだろう。遠く離れてしまった人もたくさんいるけど、
李歐と一彰ほどの、そこまでの絆をやはり私は誰とも持ち得ていない気がする、
そう思うのはすごく寂しいことだった。

ラストは苦い展開もありつつ、あまり高村氏らしくない、ぱあっと気が晴れるような
さわやかな熱い感動を呼び寄せてくれた。
雄大な景色と、大きな心を持った男達。
すばらしいラストシーンは、春になったら思い出すだろうと思う。

| comments(1) | trackbacks(1) | 23:12 | category: 作家別・た行(高村薫) |
コメント
こんばんは。

「李歐」、凄い作品でした。

>町の小さな板金工場の仕事や生活の描写がすごく克明

これは私も感じました。高村さんの街の情景描写や生活描写のうまさ・克明さにはいつも唸り、それが作品の確固たる土台となっていると思います。また、私は”男性と女性ではこの小説のとらえ方・感じ方がやや異なるかもしれない。”と書いたのですが、ざれこさんも言及されているのが興味深かったです。

一彰については細かい描写もあって理解も深まり感情移入もしやすかったのですが、李歐については分からないことだらけで、もどかしく思う半面、ミステリアスさも感じられてそれが作品の魅力でもありました。

| ひろ009 | 2008/09/10 11:16 PM |

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李歐(高村薫)
李歐(講談社文庫)★★★★☆:85〜90点 何という小説、何という人物(李歐)!読んでいる間、ずーっと微熱を感じるような不思議な味わい・雰囲気の小説だった。 ちょっと自分では理解しきれない部分があった
| ひろの東本西走!? | 2008/09/10 11:23 PM |
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