本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
<< June 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 「世界でいちばん幸せな屋上−ミルリトン探偵局シリーズ2」吉田音 | main | 「ワセダ三畳青春記」高野秀行 >>
# 「麦ふみクーツェ」いしいしんじ
麦ふみクーツェ (新潮文庫)
麦ふみクーツェ (新潮文庫)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 700
  • 発売日: 2005/07
  • 売上ランキング: 51194
  • おすすめ度 5.0


どこかの海辺の町。巨大な体をしているぼく、数学にとりつかれている父、
そして音楽にとりつかれている祖父。祖父は町にやってきたとたん、
地元の吹奏楽団に殴りこみ、彼らを鍛え始める。いつしか町の吹奏楽団の人数は増え、
その音は風のように町を包む。
ぼくも、ねこの声(打楽器)で吹奏楽団に参加し、用務員さんの作る奇妙な曲で
コンクールに出場する。その頃までが、その町の吹奏楽団の黄金期だった・・・
巨大なぼくの成長物語、なんだけど、いしいしんじワールド炸裂で、
どこの町かもわからない不思議な異国の町でくりひろげられるファンタジー。
物語でぼくが最初に出会うのは、一人の夜に窓を開けたら広がっていた麦畑で、
麦をふんでいるクーツェ。たん、たたん、たん、たたん。
彼はぼくにだけ見えて、時々現れて、時々短く、鋭いことを喋る。
そのクーツェの音を心の中に響かせながら、ぼくは父や祖父、郵便局長、用務員さん、
盲目のボクサー、みどり色、いろんな人と出会っていく。

吹奏楽のシーンは、本当に美しい音が鳴っているように清々しい気持ちで読めた。
いしいさんは音楽が本当に好きなんだな、ただただ好きなんだな、と思える。
何度も書くけど、私は音楽をやっているんだけど、とにかく合奏は楽しい。
自分がへたくそでへこむときはあるけど、皆で音を合わせて一つの音ができるのは、
ぞくぞくするような楽しさがある。ラストシーンの合奏シーンに、
その楽しさが満ち満ちていて、とても幸せになった。
私、昔は打楽器してたんだよね。管楽器もやってたし打楽器もやってたしで、
彼らのやってる音楽は本当にツボで、すごく楽しめた。
でも音楽やってなくてもね、きっと一緒にやってるみたいに楽しめると思う。

音楽以外でも、魅力的な登場人物、そして主人公のぼくの魅力にもとりつかれる。
ぼくは渾名が「ねこ」で、ホンモノの猫より猫の声が上手だからその渾名がついて、
その声が楽器になる。そして、とても巨大だ。ぼくはとっても変わっている。
そして登場人物たちもとっても変わっていて、どこか世間からは浮いてしまうような、
そういう少し哀しい人ばかり。彼らと出会っていって、ねこはあるとき気づく。
変わった人たちばかりだけど、誰もがたった一人の人なんだって。
そして、大切なたった一人のために、彼は声を出す。せいいっぱい声を出す。
ぼくはこのために生れてきたんだ、彼はそう思う。その瞬間にふと涙した。
素敵な成長をとげたぼくの姿が、本当に嬉しかった。

ぼくの家族は謎に満ちていて、母がいなかったりとか、祖父と父がどうして
遠い町からここにきたのかとかがわからない。それが最後の最後に氷解して、
成長したぼくを見てクライマックスだと思っていた私はその本当のラストに本当に驚いた。
なんて悲しくて、そして美しいんだろう。そう思った。
祖父の思いがまた、ぼくを育ててきたのだなあ。こうやって、何かが、
受け継がれていくんだなあ。そんなことを思う。
お父さんは数学にとりつかれてしまって哀しかったけれど、それでも、家族だ。

町にやってきたセールスマンについて、祖父が「臭い」という。
誰かが、「ぼく」の父も「臭い」という。
それは人間としての、何か心の奥が、どこか、おかしい、そういう表現なんだろうと思う。
私も祖父に「臭い」と言われないだろうか。祖父に怒られないくらい、
ちゃんと音楽やれてるかしら。ちょっと反省もしつつ、読んだ。
「臭い」においのしない、大人でいたいなと思う。

ファンタジー色豊かな、愛情たっぷりの、いしいさんらしいステキな物語で、
今までのいしいさん作品の中で一番好きかもしれない。わかりやすいし。
何より音楽への愛に溢れているし、家族への愛、人間愛にも溢れていて、
幸せをもらえる読書だった。本当に。ありがとう。
| comments(0) | trackbacks(1) | 23:19 | category: 作家別・あ行(いしいしんじ) |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://blog.zare.boo.jp/trackback/782757
トラックバック
麦ふみクーツェ
麦ふみクーツェ (新潮文庫)いしい しんじAmazonランキング:59122位Amazonおすすめ度:Amazonで詳細を見るBooklogでレビューを見る by Booklog 評価:★★☆☆☆ やっと読み終わりました。 音楽の話です。 どこかの外国の雰囲気がある港町。 そこに一
| のほほんの本 | 2008/08/27 1:34 AM |
NOW READING
ざれこの今読んでる本
Categories
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Profile
Search this site
Sponsored Links