本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「日の名残り」カズオ・イシグロ/土屋政雄訳
日の名残り (ハヤカワepi文庫)
日の名残り (ハヤカワepi文庫)
  • 発売元: 早川書房
  • 価格: ¥ 798
  • 発売日: 2001/05
  • 売上ランキング: 28937
  • おすすめ度 4.5


カズオ・イシグロ氏の作品は「わたしを離さないで」に続き、2作目です。
前回が衝撃的によかったので、これを読むときも並々ならぬ期待をして読み始め、
そして期待通り、静かな感動をもらうことができました。
「わたしを離さないで」ほどドラマチックな展開ではないけれど、
底からじんわりと湧き上がる感動というか・・・。

またもや土屋政雄氏の美しい翻訳でこの作品を読めて嬉しい。
翻訳を読むときはいまだにつっかえつっかえ読んでしまって時間がかかるけど、
この文章はすーっとスムーズに頭を流れていって、文章のつっかえが読書の邪魔を
することが全然なかった。日本人作家が書いたみたいな流暢な訳で、
こんなステキな作品を読めるのは、原書を読めない身としたら、本当にありがたい話です。
ダーリントン・ホールで長年執事を勤めるスティーブンスは、
アメリカ人の主に休暇をとってよいと言われる。
車を貸してもらい、彼が向かった先は、昔仕事を共にした、ミス・ケントンのところ。
イギリスの田園風景を旅して、旅先でさまざまな人や景色に出会いながら、
彼は今までの執事人生を振り返っていく。

スティーブンスは冗談が全くわからなくてものすごく真面目。
真面目すぎてふと笑ってしまうこともしばしばで、
アメリカ人のご主人が飛ばすジョークにうまく返答できなくて
ものすごく真剣に悩んでいる様子なんかは、微笑んで読んでしまいます。
関西人ちゃうねんからそこまで悩まんでええがな、と思うけど、
真面目な彼は気の利いたジョークもいえない自分自身を責めたりする。

そんな彼は、自分の仕事に本当に誇りを持っていて、頑なに任務を遂行しようとする。
ジョークのエピソードでわかるように、彼はでも本当に不器用で、
執事の「品格」とは何かを追求して、理想の執事を目指して本当に真面目に、
仕事をこなすのです。
同じく尊敬できる執事だった父親が、死の淵にいても、それは変わらない・・・

2回泣いたんだけど、中盤の、あまりに真面目な彼の仕事ぶりに、
ふと涙がこぼれました。こんなに人生を賭けて、自らの仕事を全うする彼の
純粋さというか、美しさというか、そういうのに胸を打たれてしまって。
彼は淡々と自らの人生と思いを語るのみなんだけど、その口調にも心打たれました。

最初はそれはいい意味で泣いていたんだけど、ラストになると違う風景がみえてきて、
彼が最後に夕日を見ているあたりで、2回目にまた泣けることになるんだけど。
真面目に不器用に職務をこなしてきた彼が知らず知らずのうちに失ったもの、
それがふと見えてくる瞬間があって。また胸を打たれました。
彼がそれに今まで気づいていなかった、そのこともまた切なかった。

人は知らず知らずのうちに、人生を選択しているのだと。
でも、仕方がないのだと。真面目に不器用にしか彼は生きられなかったのだし、
それは仕方がない、でもなんだか、寂しいのでした。
いくつもの後悔を経て、こんなはずじゃなかった、を何度も繰り返して、
人はそれでも生きていくのだと、この短い本に、長い長い人生をみて、
それが真摯に胸に迫ってきたのでした。

でも、一日は夕焼けが一番美しいのですよね。いろんな思いを経て、
たどり着く人生の終着点、美しくありたいものだと思います。

戦時中のイギリスの社交界のもろもろ、といった、少々きなくさい話も、
執事の目から語られ、それも読み応えがありました。
スティーブンスがいかに昔の主人、ダーリントン卿を敬愛していたか、
それが本当にわかるので、誰か信頼できる人にずっと仕えていられるというのは、
ある意味幸せなんだろうなと思います。
主人が変わっても、ジョークの練習をしたりと、彼が努力をしているのが、
最後にはなんだか切なくて、でも、がんばれ、と小さく応援したくなりました。
人生は夕焼けが一番美しい、彼はまだまだ、これからなのです。

イギリスの風景、旧き良き時代のイギリスが随所で堪能でき、
行ったことはないけどご飯がまずいとか霧がすごいとか、あまりいい印象がない
イギリスという国の美しさがまた眼前に広がるようで、
カズオ・イシグロという人は、日本で生まれたはずだけれど、
もう根っからのイギリス人なんだなあ、としみじみ思いました。
その国を思う感じが、ステキだと思う。

なんだか少し丁寧な文章になってしまいました。ふと姿勢を正して、
スティーブンスの物語を聞いてしまう、そういう本でもありました。
| comments(2) | trackbacks(1) | 23:11 | category: 海外・作家別ア行(カズオ・イシグロ) |
コメント
ざれこさん☆こんばんは
スティーブンスさんが、初めての一人旅でオロオロしたり、ドキドキしたり、彼なりの自由を満喫している感じが微笑ましかったです。
翻訳がいいと、ホントに読みやすいですね。
カズオ・イシグロの作品はこれが初めてなのですが、とても気持ち良く読めました。
次は何を読もうかな?と思っていたのですが、ざれこさんお薦めの「わたしを離さないで」を読んでみようかと思います。
| Roko | 2008/08/02 10:41 PM |

大学の英文学の授業の一環ではんば強制的に読まされましたが、気がつくと我を忘れて読み耽った記憶があります。
日系二世という経歴にまず親しみを覚えましたが、英語で苦労する両親を幼い時から間近に見て育ち、移民の子として複雑な思いをしてきたみたいですね。そんな彼が、英国の貴族社会のうちでもとりわけ保守的な執事の世界を、日本古来の忠義の精神にだぶらさせて浮き彫りにする・・・確かそのような紹介があちらの文芸雑誌でされていたようですが、日本文化の名残を感じさせる彼の異質な視点がキリス教文化の人々のとって新鮮に映ったのしょうね。当今盛んな欧米の移民文学のなかでも特異な位置を占めているのはないでしょうか。
| let-the-right-one-in | 2009/01/23 11:05 AM |

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| Roko's Favorite Things | 2008/08/02 10:33 PM |
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