本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「私が語りはじめた彼は」三浦しをん
私が語りはじめた彼は (新潮文庫 み 34-5)
私が語りはじめた彼は (新潮文庫 み 34-5)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 460
  • 発売日: 2007/07
  • 売上ランキング: 180773
  • おすすめ度 3.5


大学教授、村川融。妻も子もいながら奔放に女性と関係を続けた彼、
彼に翻弄される妻、娘、息子、部下、そして数々の女性。
彼に関わったさまざまな人々の視点で描く連作短編。

しをんさんの真面目な文章は久しぶりに読むような、と思いながら、手に取る。
あれ、と思う。しをんさんの書く文章はこんなに美しかったっけな。
エッセイとのギャップが大きくて、また「風が強く吹いている」のような
気軽に読めるものとはまた違って、お、と思って何度も読んでしまうような、
美しいというか印象的というか、そういう表現が多い。些細な比喩とかそういうところに。
「私は村川との日々の中で、自分の心に裏切りよりも醜いものを見いだしました。それは自負と自尊と執着と、そして不思議なことに、朝露みたいに澄んで美しいものからなる気持ちなのです。私はそれを私の中に封じることにしました。もし、私の最後の呼吸が終わるまでを永遠というのならば、永遠に」
(略)
そしてこのひとはいま、生臭い男女の世界の敗残者となり、暗い森から静かに去っていこうとしている。彼女は広々とした草原を一人で歩く。その足もとに、さびしく乾いた骸が転々と転がることを自覚しながら。それでも胸の内に、この世で一番醜く美しい結晶をそっと抱えたままで。


暗くおぞましいからこそ美しい、そういう文章がちりばめられていて、
ちょっと酔いそうになりつつ読み終わる。

読み終わって、思ってたのと違ったなーと思った。
思ってたのは、「ニシノユキヒコの恋と冒険」みたいな。いろんな女性達の話をつうじて、
村川融という一人のどうしようもない男性の姿が浮き彫りになるんだな、と思って読んでたけど、違う。
村川の影は思った以上に薄かった。これは彼に関わる人たちそれぞれが、彼に関わったことで
どう歩んでいくのか、そういうそれぞれのドラマを描いたものだった。
勘違いはしていたけれど、だからダメとかでは全然なくて、凝った構成で描かれる
それぞれのドラマに、また少し酔いそうになる。

贅沢を言うなら、タヌキ顔のおっさんであるらしい村川がどうしてこんなにモテるのか、
女性は彼のどこに惹かれるのか、それがどうも感覚的に理解できなかったので、
「これは確かに私も惚れるなあ」というような、村川の人物像が垣間見えたらよかったなあとは思う。

ただ、村川という人物に惚れぬいてしまう女達の気持ちにはどろっと共感できた。
誰かをどうしようもなく愛して、自らの嫉妬と自らの業に苦しめられ煮詰められていく
女達の姿が痛々しい。好きだから破滅するというより、自らの嫉妬で破滅していく彼女達が。

村川に関わった当事者、というより、第三者がその当事者をみている、といった
構成が多くて、凝った構成になっている。印象深かったのが村川綾子のシーン。
村川綾子を監視している探偵(のような)が主役、彼が隣室から村川綾子を見つめ続け、
彼の印象に残る村川綾子の姿。綾子は村川が再婚した先の義理の娘なのだけど、
奔放な父親と嫉妬深い母に苦しめられている。探偵が深く綾子を知るうちに、
彼女の闇にどんどん取り込まれてしまう展開に、ぞくっとしながら読みすすめた。
あの結末しかなかったのか、と悔しくは思うけど。

第三者が見ていて、第三者は第三者なりに問題を抱えていて、その中で村川融の関係者と
関わっていくわけで、当事者の思いが全面的に出されているというものでもないのだけど、
時折ふと、例えば村川の娘のほたるがいう台詞なんかに、彼女達が苦しんできた
積年の思いのようなものが溢れてくる瞬間があって、それが胸に染みた。

いろんな関係性の破綻が出てきて、とくに夫婦の危機が多く出てくる。
村川が絡んでいたり絡んでなかったりするけれど、一旦壊れかけた関係でも、
壊れたままでも、それでも関係をやめない二人がいる。それが怖かった。

愛でもなく、打算でもなく。花を咲かせては散らし、葉を繁らせては落とす植物のように、気の狂いそうな繰り返しの中で生きていく。いつか変化をやめるそのときまで。それだけが、私の選んだことなのだ。


結婚もしていないしをんさんがどうしてこんな、結婚の闇を描けちゃうのか、不思議だ。

怖くて救いがたい物語だったけれど、誰もが、誰かを愛したりして、
どうしようもない思いで苦しんでいる。それでも生きている。
結婚生活が破綻しても、それでも生活している。淡々と、生きてる。
それが一抹の救いになるような、苦しいのは自分だけじゃないよというような、
そういう本でもあった。でも、苦しいときには、あまり読みたくないかもしれない、つらくって。
| comments(0) | trackbacks(0) | 19:44 | category: 作家別・ま行(三浦しをん) |
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