本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「変愛小説集」岸本佐知子編訳
変愛小説集
変愛小説集
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 1,995
  • 発売日: 2008/05/08
  • 売上ランキング: 673
  • おすすめ度 5.0


翻訳家の岸本佐知子氏の翻訳本を読むのは初めてなんだけど、
エッセイは読んだことがあった。爆笑に次ぐ爆笑、そして共感、という
とっても好感度の高いエッセイで、現在お友達になりたい人ナンバー2くらいの位置にいる。
で、その岸本さんがセレクトして訳した、恋愛小説アンソロジーが出るというので、
前から楽しみにしていた。きっとすてきな小説を選んでくれるに違いない、と思っていて。

しかし、何度かネット検索してもひっかかってこない。おかしいなあ、まだかなあ、とか
じりじりしていたら、やっぱり発売されてて、で、SNSで紹介されてる記事をみて気づいた。
やられた!「レンアイ小説集」じゃなくて「ヘンアイ小説集」だったのだった。
検索しても出ないはずだ。変愛とはよもや思わず・・・。
最初から岸本さんやってくれるなー。と、また愉快になったのだった。
さて、変愛、ヘンアイというからには。
普通に男女が出会って普通に恋をして普通に結婚して、みたいなものはなくって、
実は奥様は魔女だったのです!的なものですらなくて(古くてすいません)、本当に変。
河出の奇想コレクションのシリーズを読んでいるような、奇抜な発想のものが多く、
エロいけど変、とか、怖いとか、SF的なものとか、そんなんばっかり。
でも、変だけど「愛」ではあるんだよね、どれもこれも。

私は海外ものに疎いからよくわからないけど、作家もメジャーな人じゃないような気がする。
ニコルソン・ベイカーは、岸本さんが訳している「中二階」「室温」を
おすすめしてもらったことがあり知っていたけど、まだ読んでないし。
あとの作家は勉強不足もあって、しらなかった。
で、この短編集で「おお、この作家すてき」と思っても、たぶんほかの本は
まだ日本では読めないんじゃ?と思ったりもして、新規開拓にすらならないし。
そのマニアックさもいいな。

で、最初の「五月」を読んだだけで、ああこれ好きだなあと思ったので、
それからもどんな物語が出てくるんだろう、とわくわくしながら読み進められた。
何が入ってるのかわからない、でもなんかすごくいいものが入ってそうな、
おまけの箱を開けていっているようだ。予想外なへんてこなものが出てくるけど、
どれもいい味出しててついうれしくなるようなものたち。
ずっとそういうわくわくが続く、ステキな短編集だった。さすがのセレクト。

訳も読みやすいし、作品によって訳し方を変えていろんな表現が試されている。
同じ人の訳でいろんな作家の作品を読む機会ってなかなかないけれど、
それぞれの海外作家の持ち味を生かしながら訳を工夫しているのだな、と思う。
訳者のフィルターがどうしてもかかるだろうから、どれを訳してもそれなりに似通ってしまうのかと
思っていたけれど、全部違う雰囲気で、でも岸本さんなりの味、というか、共通する部分もあり、
どれもこれもプロなら当たり前のことなんだろうけど、それを改めてすごいと思った。

だいぶ前に読んだので、感想を書けなくなった作品もあるけれど、
印象深かった作品の感想を簡単に。

「五月」 アリ・スミス
主人公が他人の家の木に恋をする話。主人公には恋人がいるけれど、
それでも木が好きで、他人の家に忍び込んだり、家からずっと木をのぞいたりしている。
その本人の視点、恋人の視点で描かれる。最後の夜のシーンが美しい。
ただの木が特別な存在になってしまう、かけがえのないものになってしまう、
相手が木だったから極端にそれが表現され、恋とはそういう理不尽なものなのだなあ、とも思った。
美しい木のみずみずしい存在感を感じてむせるような気がした。幻想的でステキ。

「僕らが天王星に着くころ」レイ・ヴクサヴィッチ
人の皮膚が宇宙服になって、宇宙に飛び立ってしまうという奇病が流行っている世界。
恋人の足が銀色の宇宙服になってきた男は、なんとか一緒に宇宙に行こうとか、
せめて通信しようとか、あれやこれや策を練るが・・・
変な話だ。宇宙服になるって発想がそもそもおかしいんだけど、
奇抜な発想の割に話は真剣で、宇宙服になっていく恋人の投げやりな諦めと、
諦めきれない男との対比がなんとも切ない。
飄々としてほろ苦い、独特の作風で、なんだかとても好きだった。

「まる呑み」ジュリア・スラヴィン
芝生を刈りにきた若い男をまるまる呑んじゃって、男は彼女のおなかに住まうようになる。
男は欲望に任せて行動しエロ描写が頻発するが、変な状況過ぎてエロくなくて、
女には母性すら感じる。変な話だ。ラストがまた印象的だった。

ちょっと前に胃を壊した時、胃の機嫌をとりつつ食事をしていたときがあったが、
心でよく胃に「これ、食べられる?」とか「しんどかった?ちょっとがんばってよ」とか
話しかけてしまっていて、その時にこの短編を思い出して妙な気持ちになった。

「最後の夜」ジェームズ・ソルター
末期の病気の妻との最後の夜、二人きりでは気まずいと共通の友人である女性を呼び、
厳かにディナーを過ごす。そして、最後の時がきた・・・
ブラックな後味がなんともいえず、怖かった。最後の1ページにぞっとする。
ミステリとしても読めるし短編としてもまとまりがよい短編。

「リアル・ドール」A.M.ホームズ
妹の持っているバービーちゃんと話をして、恋に落ちる話、なのだけど。
下品な感じが滑稽でもあるドタバタとしたお話、というイメージだった。
バービーちゃんの彼氏が酷い言われようで笑った。
でも最後には妹の不気味さがだんだん効いてきて、なんとも言えない後味でもあった。

「ブルー・ヨーデル」スコット・スナイダー
ぼろ車で飛行船を追い続ける男。飛行船には恋人が乗っている・・・
恋人との思い出や男の仕事を回想しながら物語は進む。
滝で見張りをしていた男、滝を流れてしまった生き物が凍って、
ブルーヨーデルと呼ばれるものになる。残酷だけど美しい光景が印象的。
そして恋人の女性の職業が、蝋人形館で蝋人形のふりをする人だったりして、
そういう些細な設定が変なんだけど、妙に心にひっかかる。

銀色の飛行船が空に浮かび、砂漠を走る車。砂塵。なんとも映像的な物語のなか、
恋人をただ追い続ける男の切なさに胸をしめつけられる思いがした。
一番純粋に「愛」を感じたかもなあ。実は一番印象に残っている作品。

「柿右衛門の器」ニコルソン・ベイカー
その器には牛の骨が入っている。器をめぐるちょっとホラーめいた物語。
ものへの「愛」がこもっていてちょっと怖くもあり、ラストがまた秀逸。
短編としての出来がいい作品がほんまに集まってて、作品集として質が高いな、と
これを読んで改めてうなった。
ニコルソン・ベイカーは細部書き込みがすさまじいらしいけど、
この作品ではそういうことは感じなかったな。好きな作風でした。

「母たちの島」ジュディ・バドニッツ
戦争で男は兵士にとられていなくなり、敵の兵士がやってきては去っていき、
結局女ばかりになった島。そこでは次々に子ども達が生まれ育ち、子ども達は
母と愛しあった父親がいつか帰ってきてくれるのを待ちわびていた。
そこに漂流してきた男性を、子ども達はかくまうのだが・・・

ブラックな展開のなか、無視できない切なさが全面にこもっていて、
単なるブラックユーモアで終わらないなんともいえない余韻を感じさせられた一編。
一番読み応えがあり面白く思った。最後がこれでぴりっと締まった印象。


さて、気になる収録作家で読める本はないか調べてみた。

ニコルソン・ベイカー
「中二階」「もしもし」「フェルマータ」「室温」「ノリーのおわらない物語」
(すべて岸本さん訳)
中二階 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)フェルマータ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)室温ノリーのおわらない物語


「空中スキップ」ジュディ・バドニッツ(岸本さん訳)
空中スキップ

「ホテルワールド」アリ・スミス
ホテルワールド

個人的にはレイ・ヴクサヴィッチと、スコット・スナイダーの作品を
もっと読みたいと思ったけど、どうやら他に作品は出ていないようだ。
ジュディ・バドニッツも気になるし、やっぱりニコルソン・ベイカーも読もう!と思った。
これだけ私を刺激してくれたのだから、やっぱりステキな作品集である。
いろんな視点で、また上質な作品を集めて、こういう本を作ってくれたらなーと思う。
岸本さんのちょっとへんてこなセレクト、とても気に入りました。
| comments(1) | trackbacks(2) | 22:45 | category: 海外・訳者別(岸本佐知子) |
コメント
こんばんは。
いま、この本図書館で37人待ち。
あぁはよ読みたい。
ジュディ・バドニッツの「空中スキップ」、とんでもない小説で
とっても楽しかったですよ。
| ナカムラのおばちゃん | 2008/07/22 10:51 PM |

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| たまゆらのつぶやき | 2008/07/15 9:20 PM |
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