本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「実験4号」伊坂幸太郎×山下敦弘
実験4号―後藤を待ちながら
実験4号―後藤を待ちながら
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 2,940
  • 発売日: 2008/04
  • 売上ランキング: 6459
  • おすすめ度 4.0


伊坂幸太郎はコラボ好きだよねー。斎藤和義とのコラボもいい感じだったけれど、
今度は映画監督山下敦弘氏と組んで、ロックバンドTheピーズの曲をテーマに、
小説とDVDをセット販売。すごいわ。ちょっと値がはる感じはするが(せこい?)。

山下敦弘氏の映画はそういえばみたことないんだけど、「リンダリンダリンダ」とか、
「天然コケッコー」とか、いつか見てみたいと思っていた作品を撮っているのが実は山下氏だと
これをきっかけに知って。地味だけど気になる作品が多かったので、
期待できるかも、と思っていた。

そしてTheピーズ。
絲山秋子の「逃亡くそたわけ」で大フューチャーされていたのですごく気になって、
携帯でダウンロードして一曲聴いてみたことがある。
すごくシンプルで直球のロック、というイメージで、残念ながら私にはぴんとこなかったんだけど。
絲山さんと伊坂さんってわりと違うタイプの作家だと思うんだけど、
彼らが両方こうやって、リスペクトするくらい好きなバンドが一緒っていうのは意外だし、面白いなーと思う。
さて、「実験4号」。私はまず伊坂幸太郎の小説の方から読んだ。
短編といってもいい短さで、するすると読める。
未来の地球。温暖化が危惧され、地球の人達は火星に移住をはじめる。
とあるロックバンドでは、ギターの後藤がいきなり火星に行くと言い出し、いなくなった。
ベーシストとドラムは、火星からのロケットがくるたびに後藤をさがし、
生徒3人になった小学校で場所を借りてバンドの練習をしたりしながら、後藤を待っている。
そんな彼らの日常が、伊坂風な文章、小粋な会話とともに綴られる。

昔のバンドのTheピーズについての雑誌記事がたくさんでてくるという設定で、
Theピーズは登場していて、ベースやドラムはその記事をみながら自分たちと重ね合わせて、
切なくなったり勇気をもらったりしている。
バンドって誰か抜けたら寂しい。ギターなんか抜けたら、ベースとドラムだけじゃ、
そりゃもう、すかすかだ。グルーブしないバンドのサウンド。寂しいだろうな。
そして、売れないロックンロールを彼らはやり続ける。その拘りっぷりがステキだ。
この世界ではロックはとっくにすたれ、「ジャカジャカ」と呼ばれる音楽が流行っているらしい。
彼らがけなしまくジャカジャカがどんななのか、すごい気になった。

人が足りない寂しさと、地球から人がどんどんいなくなる、決定的な寂しさも漂っていて。
でも諦めや寂しさ、そんな感情だらけに思えるのに、なんだか明るい。そんな物語なのだった。
最後にはすごく伊坂幸太郎らしい、からっと明るいちょっとしたどんでん返しが待っていて、
とてもステキな気持ちになれた。

とはいえ、この短編だけではやっぱり物足りないなあ、と思ってDVDを見る。
舞台は小学校。今度はTheピーズのメンバーと同じあだなの子どもたち3人しかいない小学校。
小学校の校長兼担任はシマコ先生。あと、用務員の小田斬もいる。彼らだけの学校。
6年生の一人が卒業し、両親のいる火星に行く。その卒業式までの数日間が描かれる。
小説でも彼らのことはエピソードとして出てくるので、彼らが実写で動いてるのが
面白く感じたし、小説の主人公のベースやドラムは出てこないで、
へったくそなバンド練習の音だけが聞こえてくるという、ステキな絡み方で、
ちょっとほくそえみつつ見ていた。

子どもたちの演技がすごく自然で活き活きしていて、なるべくリアルに撮ろうと
しているんだろうな、というあとがうかがえるのがよかったなあ。
シマコ先生美しすぎ、そしてけだるすぎ、雰囲気出すぎですよ。
小説の描写どおり、卒業式だけしっかり化粧していて、すげー綺麗でしたよ。

運動場も行動もだだっぴろくて、たった5人しかいない学校だけど、
寂しい感覚より温かい感覚の方が勝っているというか、そういう映像で、
シマコ先生と皆が同じ蒲団でだらだらしたりとか、家族みたいですごくいいな、と
思ったし、そこに入れない小田斬もいい味を出していた。

最後のシーンでそして、涙でした。
そだよね、言葉なんか出ないよね。

そしてDVDラストに流れるTheピーズの「実験4号」を聴いて、
なんだかやっと全ての物語を読み終えたようなそんな気がした。
歌だけでも小説だけでも映像だけでも物足りないけど、
全部が組み合わさって一つの作品になる。コラボの醍醐味だと思うし、
それぞれの「少し欠けた感じ」がうまく絡んでいるのがいいと思った。

人がいなくなって寂れてしまう場所。それでも退廃的な雰囲気というよりは
なにかあっけらかんとした雰囲気というか、希望というか、
そういう空気は共通していたように思った。

こうやって、同じ何かを誰かと共有して作っていけるってのは、幸せなことだなあ。
| comments(1) | trackbacks(2) | 23:28 | category: 作家別・あ行(伊坂幸太郎) |
コメント
こんにちは。初めまして。
別件で検索していて、こちらに来てしまいました。
いい書評をたくさん書いておられますね。
読んでみたい気にさせられる書評ばかりで、書評自体が一つの作品になっていると思いました。きっと、紹介されている本と本の間に、その何倍もの量の読み捨てられた本があるのでしょうね。そういう質の高さを感じました。
これからもちょくちょく覗かせていただいて、参考にさせていただこうと思います。
よろしくお願いします。
| たかのつめ | 2008/06/27 3:39 PM |

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