本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「津軽」太宰治


励まし合って読書会の2月課題本。少し遅くなったが読み終えた。

太宰治って「人間失格」は10年以上前に読んだけど、「斜陽」は読んだっけな、
覚えてないな、ってくらいにあまり読んでいなくって、
若くて青かった頃に漱石やら芥川やらにはまった時期もあるのに、
なんで太宰は読んでないんだろう、って自分でも不思議なんだけど。

まあそんななので、彼の小説には、世間が太宰治に抱いているであろう、
思い詰めているような暗いイメージが頭のなかで定着していた。
のだけれど、この「津軽」を読んでイメージが一変しました。
愉快な語り口、溢れるばかりの郷土愛、自虐ではあるけれども自分や津軽の人達を
客観的に見ながら愛情込めて笑い飛ばせる感覚を持っていて、すごく面白く読みました。
あー太宰治ってこういう面もあったんだな、と。
っていうかむしろこちらが素の彼かもしれない。
青森県には行ったことがある。友達が転勤になったので遊びに。
青森市に一泊して津軽三味線を聞きに行ったり、浅虫温泉や夏泊半島をドライブしたり、
と、太宰治がたどった道筋もたどったことがあったので、懐かしかった。
冬は大変だと思うけれど、私が行ったのは夏だったので、涼しくて雄大でいいところ。

でも、やっぱり私は生まれ育った大阪が好きで、そのいいところも悪いところも
ひっくるめて好きだ。それと同じで、太宰もとっても津軽が好きでたまらないみたいで、
その好きでたまらない感じが文章にすごく出ていて、読んでいて温かくなった。
解説では太宰が旧家に生まれた出自を生涯ひきずっていたようなことが書かれてたような
気がするし、なんかそういう印象はあって、だから太宰にとって故郷は
あまりいい場所ではないのかな、なんて邪推もしちゃうけれど、
そんな鬱屈はこの作品では私はあまり感じなかったというか、
津軽が好きなんだという愛情が素直に出ていて、
いろいろあっても津軽が好きというのはステキだなあとこちらも素直に受け取った。

すっごくお酒が好きなのよね太宰治もその友達たちも。戦時中で物資不足なんだけど、
友達と漫遊しては行く先々でまず一番最初に探すのが酒。とにかく呑んでいる。
アル中とかそういう暗い感じじゃなくて、酒飲みのおっさんのかわいらしさというか。
私は素面でよく酒飲みたちと集っているけれど、彼らの酔っ払いぶりは、
ぱあっとしていて楽しそうで、子どもっぽくなったり同じこと何度も言って観たり、
なんかかわいらしくて、楽しくなっちゃう。
きっと悪い酔い方をしない人たちとうまくつきあえてるんだろうと思うんだけど、
そういういい酔い方をしてる感じがして、すごく楽しそうだった。

鯛を買ったエピソードとかおかしかったなあ。わかるわかる、って言うような、
すごく小さいレベルのことで悔しがったりする太宰さんはかわいかったです。

津軽大好きぶりは酒飲みの場でもかなり出ていて、知り合いのSさんが、
太宰を家に迎え入れるときに既に酔ってて、奥さん相手にあれをしろこれをしろと
くだを巻くシーンがあるんだけど、これがまた腹よじれるほど笑った。
滑稽なほどのサービス精神で、それを太宰は津軽のひとの性分である、と
愛情たっぷりに書いてあって、あーもう、津軽、すんごくいいところに違いない!と
思えましたね。読んでるこっちまで津軽が好きになるような、本です。

太宰本人にもその過剰なサービス精神ってのがあったようで、
この文章を読むだけでも読者にどれだけサービスしてくれてるかわかろうってなもんで。
次元は違うと思うけど、私もまあ、人に気を遣うほうだから、
そういうの疲れる部分もあるよね、と思ったりもして、
人にサービスしては消耗する太宰の姿もほんの少し見たような気もして。
(ってこれ解説に書いてあった気もするけどまあ同じ感想って事で。)
Sさんも、あとで反省していたみたいだし(それもかわいかったけど)。

そんなこんなで愉快な珍道中なわけで、太宰の家族との再会とかも描かれて、
それなりにしがらみのようなもの、でもそれなりに温かい関係性とかも
描かれつつ進み、ラストに、育ての親である乳母のたけに会いに行くシーンが出てくる。
じんわりと涙が出る名シーンで、そこで親とはこういう安らぎをくれるものか、と
太宰が考えるところがじんわりといいシーンで。やっぱり、自らの育ちでは、
何か物足りないところもあったのかな、と思いつつも、そうやって人の愛情を
素直に受け止められる本人もやっぱり素敵だなと思った。

想像以上に面白くて、そしてじんわりとした温かい気持ちをくれる、
いい作品だったと思います。太宰治のイメージが一変するのは間違いないので、
是非一読を。なんだか、ずっと太宰がこんな人でこのひと時の幸せな気持ちを
持ち続けてたらいいのになあ、と願いたい気持ちでいっぱいなので、
しばらくはまた、他の、暗い太宰治を読まないですごそうと思ったりしました。
| comments(0) | trackbacks(1) | 01:14 | category: 作家別・た行(太宰治) |
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太宰治の「津軽」を読む!
川の両側を樹木が生い茂り、そして両側が散歩道になっている玉川上水の横の道を車でよく通ることがあります。吉祥寺を通る井の頭通りが五日市街道と合流し、小金井公園の南側を通って国分寺や小平方向へ行く道です。 先日は津田町へ行く用事があり、その時は西武国分寺
| とんとん・にっき | 2008/04/29 8:57 PM |
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