本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
<< June 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 「犯人に告ぐ」雫井脩介 | main | 「津軽」太宰治 >>
# 「乳と卵」川上未映子
乳と卵
乳と卵
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 1,200
  • 発売日: 2008/02/22
  • 売上ランキング: 5593
  • おすすめ度 3.5


芥川賞受賞、話題になりましたね。テレビ映えする人が受賞するとこんなに話題になるのね。
私は「わたくし率 イン歯―、または世界」が芥川賞候補になった頃に興味を持って
本も読んだしCDまで購入していたから、話題になった時も「ふふん、もう知ってるわ」と
変な優越感を抱いたりしてました。
CDいいですよ。絶妙な不安定感があって(下手なのではない)、何度聞いても飽きないです。

頭の中と世界の結婚
アーチスト: 未映子
発売元: ビクターエンタテインメント
発売日: 2005/09/22
売上ランキング: 34016
おすすめ度 4.5


この本は図書館で借りるつもりでいたけれど、表紙を見て即買いました。
装丁があまりにオシャレで。読んで当たりで、大事にしたい本の1冊になりました。

豊胸手術のために上京してきた39歳の姉、巻子と、姉の娘で小学生の緑子。
胸のことばかり気にしている母と、全く口をきかなくなってしまった緑子、
このおかしな親子を、彼女達を泊めることになった妹の「わたし」の視点から描く。

「わたくし率・・・」と同じように大阪弁を多用しているんだけれども、
「わたくし率・・・」では内に内に入り込んでいくようなひどく観念的な、
リズム感を大事にしたようなイメージの文章だったんだけれど、
今度は第三者的なわたしの視点から見ているからというのもあるけれど、
ちょっと距離を置いてるというか客観視された落ち着いた文章というか、
同じ大阪弁でもずいぶん違う。
確か川上さんがテレビで、関西弁を使うのも手段のひとつにすぎなくて、
作品に必要だからそうしている、みたいなことを言っていたと思うけれど、
作品によってかなり計算しつくされた文章を選択しているんだろうな、と
2作読んでやっと気づいたのだった。ちょっと誤解してたわ。すいません。
文章を持ち味にするひとって、わりと文章の威力で勝負するようなところも
あったりするような気もするけれど、そうじゃないんだなあ、と、
当たり前やけど改めてこれはすごいなと。何かいてるかわからんくなってきたけど。

同時収録の「あなたたちの恋愛は瀕死」ではこれは完全な標準語で、
独特のリズムは残ってるけれどこれまたずいぶんと雰囲気が違う。
やっぱり標準語って大阪弁と比べたらひんやりしたかんじがするし、
この作品のひりひりとした孤独の感覚に合ってる気がすごくした。
これが大阪弁だとまた全然違うだろう。違うアプローチになるだろうと思う。

さて、大阪の人なもんでつい大阪弁には激しく反応してしまうんだけれど、
「乳と卵」に戻るけど、これ、すごい好き、っていうか、
「わかるわかる」っていうか、私が女になって生まれて33歳の今まさに
思ってることが一つの作品になって生まれ出て来たというか、そのくらいの共感。
なんか女に生まれて子どもを産んで、っていう当たり前のことが、
ものすごく不気味に感じるときがあって、でもやっぱりそれは当たり前であって、
子どもは産むんだろうとどこかで思ってる。でも毎日、漫然と過ごしてる。
初潮を迎えそうな緑子の不安定、なんでこんなもんくるんやろ、なんやろ自分、って
思ってる彼女の不安定にもすごく同調したけれど、
私が一番わかるなあ、と思ったのは語り手の「わたし」だった。

多分30歳後半、一人暮らしで仕事をしていて、子どもを産む予定もない、
何となく漫然と生きていて、日々を漫然と更新している、そんな彼女が、
姉や姪に振り回されてる、そんな何気ない空気に、それはもう共感した。
今の台詞わかる!とかそういう具体的な共感じゃなくて、ただ漂う空気だけで共感したのだった。
漫然とただ生きていて、個性的過ぎる姉の母娘に隠れて、男っ気もないし
本人もぼんやりしているような、でもはっきりと女である、その存在が。

わたしというものが女の器に入っている。何故かそれは勝手に機能して、
わたしを女たらしめんとする。胸は勝手に大きくなるし、子どもが産めるからだになる。
そのふしぎな感覚を抱えながら、わたしたちはいつのまにか女になっていく。
そして女になってしまったら女でいるしかない。それはすこし、哀しい気がする。
なんだかそんなことを改めて、自らの感覚に感じた、気がした。

姉妹がお風呂で女のひとの胸を観察してる様子は爆笑ものだった。
靴下ってあんた靴下って・・・。
笑いながらも、滑稽さ、必死さが哀しいような、もの悲しさが漂う。

でも、好きだなあ。
巻子も緑子も、妹も、いとおしくて、ここに生きてる女達は、好きだなあ。

まさか卵があそこでねまさかね。そこでも思わず笑いつつ、もの寂しく、
でも良かったな、緑子は優しいな、とすごく嬉しく、ちょっと泣きたくなった。
女は女の何かを犠牲にして子どもを産む。それに気づいた子どもは、哀しいね。
でもこの親子はこれからちゃんとやってけるだろう、そんなラストがステキだった。

これから「わたし」はまた漫然と女として生きていくし、私もそうなんだけど、
それも悪くないな、と思えるような、そんな愛しい本だ。好きだなあ。

何書いてんだかわからんけども。川上さんの本は、私の感覚に訴えてきて、
体に染み渡るようで、だからなんだか、どう書いていいんだか。
| comments(1) | trackbacks(5) | 01:29 | category: 作家別・か行(川上未映子) |
コメント
この作家さん、なんとなく芥川賞を受賞してから頭の隅のどこかで気にはなっていたんですけど、この寸評は的を得ていて、非常に参考になりました。特に女性にならざるをえないの漠然とした不安というのは、私は男ですけど、興味深いテーマです。これからも同世代の個性的な女流作家さんが活躍するようになると、日本の文壇も面白くなるのでは--- というか、私は日本現代文学に疎いです。失礼.
| let-the-right-one-in | 2009/01/23 9:12 AM |

コメントする









この記事のトラックバックURL
http://blog.zare.boo.jp/trackback/755005
トラックバック
乳と卵 川上未映子
乳と卵posted with amazlet on 08.03.18川上 未映子 文藝春秋 (2008/02/22)売り上げランキング: 252おすすめ度の平均: 最初は読みにくかったが・・・ 純文学として強力。ラストが凄い。 文体のリズムAmazon.co.jp で詳細を見る 出版社 / 著者からの内容紹介 娘の緑子を
| 風味絶佳な日々―読書日記― | 2008/03/24 6:32 PM |
「乳と卵」川上未映子
乳と卵(2008/02/22)川上 未映子商品詳細を見る 芥川賞受賞作の「乳と卵」と「あなたたちの恋愛は瀕死」の二編を収録。 もうすぐ四十歳になる姉...
| しんちゃんの買い物帳 | 2008/04/13 12:51 PM |
川上未映子の「乳と卵」を読んだ!
「文学界」12月号に掲載されている川上未映子の「乳と卵」を読みました。川上未映子の経歴を見ると、1976年8月29日大阪府生まれ。大阪市立工芸高等学校卒業。日本のミュージシャン、文筆家、小説家。自称「文筆歌手」。「早稲田文学」に掲載された「わたくし率イン歯ー
| とんとん・にっき | 2008/04/23 11:37 PM |
川上未映子「乳と卵」再読、芥川賞「選評」を読む!
2月10日の朝刊、デカデカと川上未映子の写真と「芥川賞発表受賞作全文掲載」の「文芸春秋」の一面広告が出ていました。毎月10日には必ず「文芸春秋」の広告が出るのですが、それにしても大きい、破格の扱いです。しかも、川上未映子のちょっとエロチックで、アンニュイ
| とんとん・にっき | 2008/04/23 11:38 PM |
乳と卵<川上美映子>−(本:2009年34冊目)−
乳と卵クチコミを見る # 出版社: 文藝春秋 (2008/2/22) # ISBN-10: 4163270108 評価:71点 第138回芥川賞受賞作。 何故だろうか、芥川賞って若い人が受賞することが多いような気がする。 平野某が京都大学在学中に受賞したのは数年前だったか。 エンタメ系
| デコ親父はいつも減量中 | 2009/03/07 12:45 AM |
NOW READING
ざれこの今読んでる本
Selected Entry
Categories
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Profile
Search this site
Sponsored Links