本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「犯人に告ぐ」雫井脩介
犯人に告ぐ〈上〉 (双葉文庫)犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫)



これを読みながら、トヨエツについて考えていた。
とりたてて大ファンでもないけど雰囲気が好きで、出ていたら目で追ってしまう。
最近彼は映画に出まくってるけど、「愛の流刑地」では仕事選べよと思ったし、
「サウスバウンド」は見てないけれど、ちょっと雰囲気違うな、とか思ったし、
「椿三十郎」では持ち味生かせてないような微妙な感じで、惜しいなと思ったし、
まあ熱心にではないにせよこうやって少しは気にかけているんだけれど、
この「犯人に告ぐ」を読んで、トヨエツが久々にぴったりの役に巡り会えたのがわかり、
私はなんだか嬉しかった。この、翳りのある、やさぐれた、刑事に見えない見かけの刑事、
でも熱いものを持っている刑事、あまりにもぴったりである。いい仕事したなあ、良かった。
しおりが彼のアップの写真だったので、それをじっと見続けていたから
そう思うのかも知れないが。
映画「犯人に告ぐ」公式サイトはこちら。
さて、本の話。
その噂の主役は、神奈川県警の巻島警視。
髪が長く、刑事には到底見えないソフトな外見から「ヤングマン」なんて
渾名を付けられるが、40歳も過ぎて落ち着き、目立たないが優秀。
でも、管内で「ワシ」と名乗る男が起こした誘拐事件で、彼は犯人を取り逃がし、
マスコミにも醜態をさらし、責任を負わされ左遷される。
数年後、少年を狙った連続殺人事件が発生。事件は膠着し、警察も批判にさらされる。
マスコミに手紙を送りつける犯人に対し、捜査本部もテレビに出る作戦に出た。
前代未聞の公開捜査。上層部は巻島を現場に呼び戻し、彼はテレビで事件を訴えはじめる。

その巻島が、すごくカッコいいんだよね。
犯人を取り逃がしてしまった後悔をずっと抱えて、自分だけ家族の幸せに
浸っている罪悪感をずっと持っている。彼にも幼い孫がいて、その孫を、
つい自ら犯人を取り逃がして犠牲になってしまった被害者の男の子の名前で
呼んでしまう、など、事件が彼に落とした影が色濃く残っている様子が痛々しい。

影のある男というのは(虚構の世界では)魅力的なものだが、その巻島にも
そういうダークな魅力がある。
それより凄いのは、彼が過去のトラウマでもあるマスコミを逆手にとってやろうという
その精神力というか、ただのやさぐれではない本物の強さを持ってるところ、
それがとりわけカッコいいと思った。

彼が犯人を取り逃がした事件の記者会見では、あり得ないくらいの醜態を晒して、
読んでるこっちがいたたまれないくらいだったんだけど、
マスコミという大衆の前に出た時人がどうなってしまうかを身をもって体験した彼は、
次にマスコミに姿を現したとき、当時を反省しながらも、
次々に出てくる自らへの批判をものともせず、マスコミを最大限利用していくのだ。

テレビのニュースに現場の刑事が出るという前代未聞の事態に、ニュース番組の
視聴率はうなぎのぼり、巻島は一つのニュース番組にしか出ないから、
ライバルのニュース番組の視聴率が下降。そこの女性キャスターに近づこうと
巻島の上司が画策する。加速する視聴率合戦、いつしかライバルの番組が、
巻島の過去を暴いたり、言ってはいけない捜査の内幕をばらしたり、と
彼の捜査に揺さぶりをかけてくる。内通者がいると知った巻島の行動は?
この視聴率への駆け引きのくだりがすごく面白くて、手に汗握った。
そんなことやっちゃっていいのか?とか思いつつ、つい喝采を送りたくなる。

巻島はただ純粋に捜査をしている、もともと欲のなかった彼は、過去の事件を経て
ますます純粋に、ただ刑事としてそこに在る。だけれど周りはそうじゃない、
警察組織のしがらみや、恋愛絡みの事情、いろんな捜査以外のところで彼は
振り回される。それでも「これは私の捜査だ」と言い切り、責任も全て引き受けて、
彼はテレビ画面で犯人と対峙する。犯人が出てくるのを、待つ。
そういう彼の姿勢を見るにつけ、やっぱりカッコいいなあと思ったのだった。

警察組織云々のドロドロについて徹底的に追求した、というものでもないし、
事件そのものにもどんでん返しもなく、犯人は誰だ?という謎解きではない、
むしろ「いかに犯人を捕まえるか」。その捜査のやり方にぞくぞくしたり、
のめりこんだりして読める、ミステリというよりは、単純なエンターテイメントだと思う。
単純と言ったが、けなしてのことではない。ベタな部分もありつつエンタメに徹して、
展開もスピーディでスリリングで、しかしシンプルで無駄がない。
だからこそただひたすら捜査に打ち込むストイックな刑事の姿が浮き上がってくる。
上質なエンタメだったと思う。

一日であっという間に読み終わった。最後の方の展開はほんまにベタベタだったが、
過去との決別もうまくできたようで、何かに区切りをつける巻島を見て、
ほっとして本を置く。面白かった。

雫井さんの作品は3作目だが、一番好きだな。
ジャンル問わず、ベタだけど安定感がある作品で、確実に読む側を楽しませることのできる、
実力ある作家だと思う。取り立てて贔屓はしないけれど、また読むことだろう。
なんだかその立場も私の中のトヨエツの立ち位置と似ている。
安全確実、そして少し気になる。そういう存在だ。
| comments(1) | trackbacks(2) | 01:54 | category: 作家別・さ行(その他の作家) |
コメント
こんにちは。

この本は単行本で読んだのですが、わたしも一気読みでした。
面白くて途中でやめられなかったですね。
巻島は誰が似合うだろうと思っていましたが、
トヨエツはまさに、はまり役でしたね。
それまでは勝手に佐藤浩市か江口洋介あたりも良さげだな〜
なんて思ってましたが。。
雫井さんの作品はクローズドノート以外はぜんぶ読んでますが、
これからも作品が楽しみですわ〜

| るー | 2008/03/14 1:12 PM |

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