本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「私の男」桜庭一樹
私の男
私の男
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 1,550
  • 発売日: 2007/10/30
  • 売上ランキング: 17513
  • おすすめ度 3.5


小説を読んでここまで鳥肌がたったことがあっただろうか。

言葉もない。だが、何か書いてみなきゃ。まず世間的なことから。
直木賞受賞作。選考委員講評(北方謙三氏)を引用してみる。

桜庭作品は人間は書けていないし、リアリティーもない、細かいところの整合性もおかしなところが多々あって、反道徳的、反社会的な部分も問題になったが、非常に濃密な人間の存在感があって、ほかの2作品に比べるとわずかながら上をいくことになり、あえてこれを受賞作として世に問うてみよう−という結果になった。


これを読んで、更に問題の「私の男」を読んで、直木賞も捨てたもんじゃないな、と思った。
なんだかとても嬉しくなった。
物語は娘の花が、結婚するところからはじまる。
父、淳悟と花との、結婚式前日と当日。花は淳悟から逃げるように結婚しようとしている。
会話の端々に二人しか知らない秘密が隠れていて、結婚式当日も普通の親子のやりとりではない。
私は結婚式とか弱いたちで、友達の結婚式でもつい泣いてしまうんだけども、
この不思議な親子の濃厚な結婚式の様子にいきなり涙してしまう。まだ何にも知らないのに。

そして物語は時を遡っていく。花が9歳のころまで、淳悟との出会いまで、遡る。
全て読み終わってからまた結婚式の場面を読み返すと、違う涙がだーっと流れた。
最初にこぼした爽やかなものとは全然違う、どうしようもない涙だった。

花は地震で両親や兄弟を一気に亡くし、親戚の淳悟に引き取られた。
彼らは16歳しか年が離れていない。彼らの間に何があったのか。
古ぼけたカメラの謎、ずっと開けられていない襖、そして二人がどんな関係なのか・・・
時が遡っていく凝った構成で、時折、美郎や淳悟と関わりのある女性、小町の視点も交えつつ
徐々に明らかになっていく、二人の関係。おぞましくて汚らわしくて美しい、二人の関係。
時を遡る構成が効果をあげていると思う。

私は早くに父を亡くし、ほとんど父の記憶がないまま生きてきた。
母と、母方の祖母と今も暮らしている。
父がいないからこの物語は染みないんじゃないか、実感として捉えられないんじゃないか、
でもその分変な想像しなくていいからいいのか、なんて思いながら手にとってみたんだが、
そんなことは関係なかった。
母と祖母がそっくりだったり、私が時々母と同じようなことを言っていることに気づいた時など、
自分に流れている血の、そのおぞましさを時々思う。なんていうんだろう、
親をおぞましいとか思うわけではないけれど、この血はずっと脈々と続いていて、
それは何があっても一生逃れられるものではない。
親の面倒みなあかんから大変とかそういう実際的話ではなく、
もっと本能的な畏れというか、そういうものを私はたまに感じて怖くなる。
子どもが出来たら私に似ていく。私の血を受け継いでいく。
それはもちろん嬉しいことではあるけど、なんだか怖い。何故か言えないけど怖い。
これを読んでまたそれを思い起こしてしまった。

淳悟自身が両親の愛を受けられず歪んでいる。そしてそれを9歳の花にぶつける。
9歳の花も家族の間で孤独を感じていて、だから彼らは一つになる。
花は淳悟の娘となり、母となる。淳悟は「私の男」だと花は表現する。
それは本当に男でもあり、息子でもあり、父でもある。彼女の世界の全ての男でもある、淳悟。
そして淳悟にとっては花は「血の人形」・・・。血がつながっているからこその、愛。
そのぐるぐると巡りめぐって連なっていく血のつながりを強烈に意識した時、私は寒気がした。
本気でぞぞぞと鳥肌をたてていた。

二人の関係はいびつでおぞましい。でも圧倒的な孤独を二人で埋めようとする
ひりひりとした切実さ、それが明らかになるとともに、何度も胸がしめつけられるようだった。
不快ではない、ただひたすら哀しい。そうでないと生きられなかった二人が哀しい。
二人とも人として何かが欠落しているけれど、淳悟の言うように、欠損していない
人間なんていないんだろう。完璧な人間なんていない。
彼らは極端だけど、同時に生々しい。

花と淳悟の視点だけでなく、美郎や小町、第三者からの視点が入るのも大きかった。
ちょっと興が殺がれる気もしたけれど、二人の異様さを俯瞰できるから。
二人の視点でいると、私まで情緒不安定になって、ずっと涙ぐんでいたから、
冷静になれて良かった。

もうなんか、凄すぎて、言葉で語れるもんじゃない。このへんにしておこう・・・
って、けっこうだらだら書いてるねんけど。いつものように。

桜庭一樹の本は何冊か読んできて、少女の持つオンナの姿の生々しさがすごく出てきて
怖いなと思いつつ、それにすごく惹かれるものもあり読んでいた。
今回はそんなレベルを軽く超えていて、オンナの生々しさというより、人間の生々しさというか、
匂いというか息づかいというかが荒々しく感じられた。
今まで読んだ桜庭作品では別格に凄かったし、私はこれで桜庭さんを本当に好きになったような気がする。

そういえば、読んでいる作品では家族、いや血族について生々しく描いてる作品が多い気がする。
「少女七竈・・・」とか「赤朽葉家の伝説」とか。そういうテーマを持って書き続けるんだろうか。
それは大変な作業だと思うし、読む方も覚悟がいるけれど、これからも追っていこうと思う。
| comments(7) | trackbacks(7) | 17:07 | category: 作家別・さ行(桜庭一樹) |
コメント
ざれこさんこんばんは。これは読んだ瞬間に、凄い、凄いよ桜庭さんと思ったのですが、直木賞の候補入りした時にはどうかなあとも少し思ってました。北方さんの言うような齟齬もあるし、桜庭さんの特徴として形式的な美しさにとらわれている面もある。何より今回はテーマが際どい。なので今回の受賞は驚きましたし嬉しかったです。しかも、かなり売れているみたいなんですよね。川上さんの方の話題性が強かっただけに、それもビックリです。
| たまねぎ | 2008/02/14 9:34 PM |

残念ながらまだ未読なんですが、
最初の雨のシーンの「お前が濡れるといけないと思って、花」みたいなセリフに
ぞわわわーーーー、これめっちゃすごくないっすか?!と
鼻息荒くなりました。

楽しみ♪
でも気力体力共に充実してる時じゃないと、読みきれないかもしれませんね。
| | 2008/02/15 3:44 PM |

自分は、桜庭一樹さんは「少女七竈と…」と合わせてまだ2冊目ですけど、何ていうんですかねぇ…人の何か暗い部分を見てる感じがします。
桜庭さんはこんな話が多いんですか?

「私の男」は特に重いテーマでしたけど、この本にも最初からどんどん引き込まれて読み終わった後は精神的に疲れました(-"-;)
スゴい本でした!!
| ニノ | 2008/02/16 10:55 PM |

たまねぎさん
受賞時には川上さんに話題全部持ってかれた感じしてましたけど、それでも売れてるんですね。こんな反道徳的な物語ですけど、小説の力というかそういうのを強く感じましたね。強烈でした。受賞して嬉しかったです!

名前のない方さん
そうですね、気力が充実してるときに読んでください。相当やられます。
ぞわわわどころか、全身鳥肌ものでした。私は。

ニノさん
特に女性の暗い部分を描かせたらすさまじいものがあるなあ、と思いますが、「青年のための読書クラブ」とかはその色合いがもうちょっと薄かったかな?面白かったです。
これは本当に重い本でしたね。しばらく忘れられなさそうです。

| ざれこ | 2008/02/18 12:00 AM |

こんばんは。TBさせていただきました。
普通なら嫌悪される二人の関係が何故かとても純粋に思えてしまい、深く私の心に突き刺ささってきました。
不思議と二人の関係を納得してしまうんですよね。本当圧巻で、こんなに引き込まれたのは久しぶりでした。私も鳥肌たってしまいました。
| masako | 2008/04/25 11:49 PM |

初コメです、そしていきなりで失礼なんですけれど、
桜庭さんの「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」という本をぜひ読んでみてください!
お願いします。
| 毛布 | 2010/12/25 11:49 PM |

私の感想です。

この本、読みました。

正直かなり気持ち悪かったです。

難しいことはいいです。


この作者が母親となった日に、この作品を後悔することがないことを願います。
| あき | 2012/07/13 1:26 PM |

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