本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「鳥類学者のファンタジア」奥泉光
鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)
鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)
  • 発売元: 集英社
  • 価格: ¥ 1,300
  • 発売日: 2004/04
  • 売上ランキング: 141856
  • おすすめ度 4.5


ジャズピアニスト、36歳独身の希梨子。キリコ=霧子、ということであだ名はフォギー。
初めてのオリジナル曲は「フォギーズ・ムード」。人が少ないライブの時には
「柱の陰の聴き手」を想像してはその人に聴かせてやるという気概でライブをやっている。
ある夜、ライブ中に本当に柱の陰に聴き手がいることを察したフォギー。
その柱の陰の聴き手と霧の中で話すフォギーだが、彼女はフォギーの祖母で
同じくピアニストだった曾根崎霧子を思わせた。
「フォギーズ・ムード」について、「ピュタゴラスの天体」やら「オルフェウスの音階」やら、
よくわからない言葉で彼女に感想を言われるフォギー。その夢の中のような出来事が過ぎ、
祖母について弟子の佐知子ちゃんと一緒につらつらと考えていたら、
いつしかフォギーは1944年ドイツにタイムスリップし、霧子に再会し、
そのわけのわからない言葉の意味を知る頃には、想像を絶する冒険の渦中にいた。

うぎゃー。面白かった面白かった。本を読んで異世界にトリップする充実感が
身体の中に満ち満ちと満ち足りた久しぶりに幸せな経験でした。
こんな本ならいくら長くてもOK、京極堂かよっていう分厚さでも、
文庫のくせに1300円しても全然OK。
何度も書いたことですが、私は軽音楽部でジャズをやっていて、
今でも時々聴いてますしライブに行ったり参加したりもしています。
アドリブはへぼくて聴いちゃいられない、けど譜面もらえばまあなんとか、
そんな程度の素人ジャズメン(女だが)です。
ジャズを少しでもかじってるからおもしろかったのはそりゃそうなんだけど、
でも私もいつもジャズばっかり聴いてるわけでもないし、
普段はスガシカオとか聴いてるし、ちょっとかじっただけで普通な感覚なのですよ。
それでも面白かったから、きっと読む人を選ばず面白いと思います。
ただ、30代独身女が読むとより面白い(共感?)のは確かでしょうね。

ジャズをやってた、やってる、聴いてる、好きって人は、もう全部すっ飛ばして
最後の章だけでもいいから(!)読んで欲しいな。きっとすっごい楽しくなると思う。
最後の章はフォギーが言うようにオプショナルツアーであって、
本筋とは関係ないんだけど、著者はきっとこのシーンを
一番書きたかったのかも知れない、そんなことまで思った。
1945年、NYのミントンズでの伝説のライブ。チャーリー・パーカー、
マイルス・デイヴィス、その他伝説のジャズミュージシャンがそこには登場する。
何度読んでもそのライブ感にぞくぞくする名シーンだ。
好きやねえ、奥泉さんも、と思わず呟いてしまうのだった。

独身36歳でダメダメな女、主人公フォギーの語りが全編通してそれはもう面白くって、
彼女の喋りは自分の言ったことにいちいち(かっこ書き)で
一人でツッコミを入れまくっていて、そのツッコミの冴えが素晴らしく、
笑いを堪えるのに必死だった。
で、ジャズのアドリブ精神というか、えーいとりあえずやってみてなるようになってしまえ、
みたいな心意気というか度胸というかがしっかり備わっていて、
いきなり言葉もよくわからないドイツ(しかもナチスドイツの時代だ)に
飛ばされてもなんだかんだで適応して、なんだかすごくカッコイイのだ。
身近だけどカッコイイ、とてもステキな女性なんだよなあ。

ドイツに飛ばされてからも最初はわりと呑気に過ごしてるんだけど、胡散臭い会の
胡散臭い音楽祭に参加することになって、相棒の歌い手の脇岡氏(小太りの男)が
またうざいけど憎めないいいキャラで、彼の案内でだんだんこの世界を知ることになるフォギー。
しっかりタイムスリップした人のアクシデントみたいなのはあって、「武富士事件」には
もう腹よじれるくらい笑ってしまったのだけど、そういう爆笑も何度も交えつつ、
フォギーはずっと祖母の霧子を心配しているのだった。
霧子は胡散臭い団体で狂信的になり、頑なに心を閉ざしてて、音楽もなんだかカタイ感じで、
でもフォギーになかなか心を開いてくれなくて、気をもんでいるうちに降霊会に放り込まれ、
そこでもうとんでもない世界へ行ってしまうのだった。

なんの脈絡もなく出てくる光る猫が、彼らをとんでもない天上世界に連れてってくれたり、と、
想像を絶する世界が広がっていき、そこにあっという間に適応してしまうフォギーとともに、
ただのタイムスリップという域を遙かに超えたファンタスティックな展開に酔いしれました。
ナチスをテーマにした戦争ものかと思っていたけど、それ以上のものだった。
戦争とか平和以上の、音楽をテーマに語られる人類愛のような。大げさかな。
でも誰もが癒される音楽なんて夢みたいなものもあるんじゃないか、いやなかったとしても、
ジャズやらクラシックやらどんなジャンルの音楽でもいい、音楽というのは本当に万人に
開かれていて、きっとみんなを癒してくれる。宇宙規模で癒してくれるんだ、
そんな壮大な希望が湧いてくるような、フォギーの言う柱の陰の聴き手がそれこそ無数にいるような、
癒される音楽は万人に聴こえてるんだよ、っていうような、
そういうすっごい大きな気持ちをもらえた気がして、それに深く感動。
って何!何がなんだかわからない!そんな感想でほんますいませんだけども、
どう書いたらいいやら・・・。
とにかく、音楽を奏でる者の末端の一人として、感じ入るところがありました。

旅の終わり、フォギーと霧子の二人の姿、時空を超えて血縁も超えたある種の親愛の情に、
ついうるうると泣かされてしまいました。爆笑しつつ読んでいたのについ。
旅が終わるのは寂しかったけれど、これからもフォギーはどこかで、柱の陰の聴き手を
思いながら、音を奏でている、それだけで十分です。はい。

読んだらいろいろジャズのCDが欲しくなっちゃって、エヴァンス先生とパウエル先生
(この二人が出てくるくだりも爆笑だった。ジャズとクラシックの文化の違いが如実に出ていた)の
CDを買い込みました。CDデッキが壊れちゃってるんだけど、せっせと治して聴いて、
フォギーの世界にトリップしようと思います。
でもやっぱりここは、「鳥(バード)」であるチャーリー・パーカーも聴いてみなくっちゃな。

余談ですが(?)、「奥泉光っていう作家の「「吾輩は猫である」殺人事件」が
新潮文庫で出ていて、それを読むと光る猫のことがよくわかりますよ」と
作品中で加藤さんが言っておりました(!)ので、ご参考までに。
私も読みますよもちろん。既に奥泉さんの著作をどばっと買ってしまった私でした。

あーやっぱり、この本の感想書くと興奮しちゃうよなあと思っていたら案の定興奮。
面白すぎて良さなんて伝えられない、でも伝えたいし、という気持ちが交錯して、
なにがなんだかですね。とほほ。音楽についてちっとも説明できないのと一緒?違うか。

後日談。パウエル先生とエヴァンス先生を聴きました。

ジャズ・ジャイアント
アーチスト: バド・パウエル発売日: 2003/04/23売上ランキング: 71419おすすめ度 5.0
posted with Socialtunes at 2008/08/10


フォギーが師匠と仰ぐパウエル先生のピアノはとにかくアグレッシブ。
テンション上がって眠れませんよ。
ドラムもベースも無視して突っ走ってますよパウエル先生。すごいっすよ。
左手が奏でる、攻めまくりのフォービートのリズムを聴きながら、
これがフォギー風だなきっと、とにんまりします。

Waltz for Debby
アーチスト: Bill Evansメーカー: Original Jazz Classics価格: ¥ 1,505発売日: 1990/10/17売上ランキング: 233おすすめ度 5.0
posted with Socialtunes at 2008/08/10


エヴァンス先生はパウエル先生と比べると穏やかで丸みのある雰囲気です。
同じピアノトリオでもメンバー違うとここまで違うか、と当たり前のことを改めて思ったり。
フォギーのつかのまの恋のテーマソング、「My Foolish Heart」は
とても美しくて深みのある曲で、フォギーはちょっとムード出しすぎや、と
突っ込んでしまいました。もうすっかり友達気取りです。
| comments(3) | trackbacks(1) | 22:37 | category: 作家別・あ行(奥泉光) |
コメント
こんにちは。
奥泉光さんの「モーダルな事象」(文藝春秋 2005年)には
フォギーがちょっとだけ顔を出しますよ。
ほんとにちょっとだけですけど・・・。 
| 木曽のあばら屋 | 2008/02/09 2:40 PM |

木曽のあばら屋さん
おお、フォギーが!ほんのちょっとでも読みますよー。奥泉氏のはとりあえず読み漁る予定です!
| ざれこ | 2008/02/18 12:11 AM |

ざれこさん、こんばんは!
フォギーの語りが超面白かったです。
私は正直音楽が全然わからなくて、でもそれでも読み通せちゃうくらいフォギーが好きになりました。
「モーダルな事象」私も読みますよ〜。
| tomekiti | 2008/03/10 8:51 PM |

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奥泉光『鳥類学者のファンタジア』
奥泉光『鳥類学者のファンタジア』 集英社 2001年4月10日発行 フォギーことジャズ・ピアニスト池永霧子の前に不思議な黒服の女が現れた。 「あなた、オルフェウスの音階を知っているとは驚いたわ」 謎の女は自分も霧子だと名乗り、そう告げた。 フォギーは混乱
| 多趣味が趣味♪ | 2008/03/10 8:48 PM |
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