本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「マジック・フォー・ビギナーズ」ケリー・リンク/柴田元幸訳
マジック・フォー・ビギナーズ (プラチナ・ファンタジイ)
マジック・フォー・ビギナーズ (プラチナ・ファンタジイ)
  • 発売元: 早川書房
  • 価格: ¥ 2,100
  • 発売日: 2007/07
  • 売上ランキング: 298409
  • おすすめ度 3.5
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ケリー・リンク、初めて読みます。
最近気に入ってぼつぼつ読んでいる「奇想コレクション」のような味わいだというので、
手に取ってみました。

すっごく不思議な短編集、確かに奇想です。コンビニとか、テレビドラマとか電話ボックスとか、
普通の場所や普通の題材や普通の人達が出てくるんだけど、だんだんと不思議な世界が
顔を出してくる。そんな世界たち。
妖精のハンドバッグと、メールやらブログやらデジカメやらの現代のものとが
同時に出てくるようななんでもありの世界はすごく不思議で、わくわくと読みました。
綺麗にはじまって綺麗に収まる話はほとんどなくて、不思議な謎めいた世界が繰り広げられて
不思議なまま、なぞめいたまま幕が下りる。そんな話ばかり、なんだけれど、
それでも、完成された閉じた世界よりも、謎ばかりが残りつつ広がったままのそんな世界が
いつまでも広がっているような、この先もまだまだすごいことが起こりそうな、
そんな読後感がステキでした。

不思議な設定で煙にまかれながらも、家族の温かさとか、夫婦間のトラブルとか人間関係とか、
そんな日常的なことが結局は描かれている。
なんの不思議もない生活をしてる私たちでも自分のことのように楽しめるし、
自分達の生活にも不思議なハンドバッグがあったり不思議なウサギたちがいたり、
それこそ死者がそこらへんうろうろしてたりするんじゃないかと思えたり。
死の世界と生きてる世界があまりに曖昧なのも特徴かな。

物語の中に物語があったり、それが現実と交錯したり。とにかく参りましたな感じで、
あまりにも想像が広がりすぎて、正直、私の矮小な想像力では到底追いつけず、
よくわからなかった話もあるんだけれど・・・。一応、全作品の感想を。

「妖精のハンドバッグ」
祖母が持っているハンドバッグは犬の皮で出来ていて、そこに村がまるごと入っている。
その村と私たちの世界では進む時間が全然違ったりする。そのハンドバッグを巡る物語。
本当に普通の学生生活を送ってるおませな女の子の生活にいきなり現れるその超不思議な
ハンドバッグ。ようこんな発想思いつくなあ。
日常にぽっかりと空いたその不思議世界と、いきなり出てくる意外な人物なんかに驚きながら読む。
ハンドバッグ内に消えた図書館の本が、1週間の返却期限を全然守れないのが面白かったな。

「ザ・ホルトラク」
そこのコンビニは二人で運営していて、夜になったら犬を車に乗せた女性が通る。
その犬はもうじき殺されるので最後のドライブをしていて、
コンビニ店員はその女性に恋をしていて、そしてコンビニの前には深淵があって、
ゾンビが買い物にやってくる。

犬好きとしては涙なしには読めないような物語でありつつ、いきなり現れるゾンビに
度肝を抜かれたり、パジャマを集めている店員に驚いたり、
不思議のオンパレードに泣く暇もなかった。
結局犬たちと彼はどうなったんだろうか。二人の恋愛の行方が気になった。

「大砲」
Q&A方式で描かれる大砲と男が夫婦になった話。えーっと。ちょっと理解不能。
夫婦関係への暗喩的な話?なんだか妙に官能的だった。
先ほどの「ザ・ホルトラク」でゾンビが言っていた台詞がそのまま使われたりして、
その遊び心も楽しい。

「石の動物」
石の動物が庭にいる家を買った家族達。夫はよくわからない謎の仕事に忙殺されてるし、
夫の上司は巨大な輪ゴムボールを作っているし、妻は家にペンキを塗り出すし、
そして庭にはいつのまにか数千匹のウサギ。そして家にあるものが何かに取り憑かれはじめ・・
当然のように不思議な世界が立ち現れる世界観にはいい加減慣れてきたので、
多少のことは平気になりつつも、それでも上司の輪ゴムボールは気になったわ。
かなり巨大らしい。輪ゴムでそんな巨大なボールできへんやろうに。
そういう不思議なキャラクター達が妙にいい味を出している。
相変わらずすっきりしない話だったけれど、結局は家族の崩壊の物語なのかな、と少し哀しくなった。

「猫の皮」
これはもういきなり魔法使いの話。魔法使いが死んで息子達に遺言を残すが、
彼女が死んだ途端に謎の猫が出てきて他の猫の皮を剥いで息子の一人に渡す。
息子は猫みたいになって、親の敵に近づくのだが・・
猫がもう猫だらけででもちょっと悲惨な猫たちなんだけどかわいくってやっぱり猫だらけ。
猫好きな人にはたまらないような哀しいような(皮剥がれちゃうんだもんね・・)だが、
結局はいいなあ!っていう家族小説だったりしたような。
ちょっと猫を見る目が変わってしまうわ・・・

「いくつかのゾンビ不測事態対応策」
外人はみんな「ゾンビに出会ったらどうしよう」って考えてるのか!っていう誤解を生みそうな、
ゾンビ対応策を考えている男の話。彼は刑務所から出てきてパーティに侵入して
若い女の子と喋っている。不思議な絵を手に入れたあたりから彼の人生は狂ったのだが・・
不思議な絵が物語に絶妙に不思議に絡んでいて、それを面白く感じた。

「大いなる離婚」
生者と死者が結婚できる世界。ある夫婦が離婚でもめているのだが、夫には妻の姿が見えず、
霊媒師を介して話をしている。っていうかどうやって結婚したんだろうとかどうやって
子ども生まれたんだろう(子どもも死者なので夫には見えなかったりするんだけど)とか
いろいろツッコミながら読んだ。夫婦間のコミュニケーションってお互い生きてても
難しいよね、そういう暗喩なのかなと思うとそれはそれでおかしい。

「マジック・フォー・ビギナーズ」
ジェレミー・マーズは「図書館」っていうテレビドラマに夢中。
エリザベスや無口なタリスとかと、いつはじまるかわからないテレビドラマを
録画しては、集まってみている。
しかしジェレミーの家族はゆれていて、父はホラー作家で、母は大叔母から
遠くの電話ボックスとラスベガスの結婚式場を遺産でもらい?

表題作、これが一番好きだったなあ。「図書館」ってテレビドラマが
結局どこからどこまでなのか、わからなくなっていくところがほんまにぞくぞくして、
面白かった。子どもたちの友情とか初恋とか、ジェレミーのおかしな家族とかも
皆魅力的で、人々の魅力と不思議すぎる物語の魅力、そういうのが交じり合って
頁を繰る手が止まらなかった。
今までずっと不思議短編ばかり読んできて、もうたいがいの不思議も
普通のことみたいに読めたから、それもよかったのかもしれないな。
この表題作が最後のほうでよかった。最初だったら面食らっていたと思う。
しかしこんなテレビドラマは是非見たいよ!

「しばしの沈黙」
普通に友達同士集まって賭け事をしているかと思いきや、
物語の中に物語が入って、更に物語が入って・・・、表題作もそうだけど
入れ子構造の複雑さと面白さといったらこの作家さんたまりませんね。
ああどこまで入っていくんだろうと夢中で読む。
ここでもチアリーダーと悪魔、とか、孔雀とか、たくさんの妻とか、
おかしなものたちが普通に出てくるんだけどもうなんでもこい状態で、
ああこれだけ不思議なものに免疫が出来たのに、もう終わっちゃうのかー、と
残念ですらあった。そういうラスト。

こういう小説をずーっと読んでいたら、普通の小説読めなくなるんじゃないかなあ。
この、読んだこともないようなすごい想像力にすっかり魅了されてしまった。
読めば読むほど楽しくなってくる作品集だ。
今なら第一作目もするする読めて楽しいんだろうなー。
| comments(0) | trackbacks(0) | 00:36 | category: 海外・作家別ラ・ワ行(その他の作家) |
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