本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「ピカルディの薔薇」津原泰水
ピカルディの薔薇
ピカルディの薔薇
  • 発売元: 集英社
  • メーカー: 集英社
  • 価格: ¥ 1,785
  • 発売日: 2006/11/24
  • 売上ランキング: 255716
  • おすすめ度 5.0


「蘆屋家の崩壊」を読んで同シリーズのこれをすぐに読むかどうか、とちょっと葛藤がありました。
図書館本だから読まないといけないんだけどさ、待ちきれない、すぐ読みたいって気持ちと、
もったいない!まだ読みたくない!って気持ちとが交錯。
例えば、料理店ですごい美味しそうな料理がずらーっと並んでいて、
「おおお、贅沢やのお、もったいないのう」
「そうですねえおじいさん、おうちに持って帰ってゆっくり食べたいところですねえ」
「ほんにのう、もったいないのう、こんな贅沢させてもらって、生きててよかったのう」
って、老夫婦が脳内で語る風景が目に浮かぶくらいの気持ち(意味不明)でした。
結局待ちきれなくてもりもりがつがつと食べてしまいましたが。
あー美味かったです。満腹満腹。こういう贅沢っていいですねえ。
定職のない男猿渡と、怪奇小説家の伯爵がコンビを組んで不可思議な事件に立ち会う
「蘆屋家の崩壊」からは少し時も経ていて、猿渡は作家になったようです。
前回よりだいぶ風格が出てきていて、それも影響しているのかどうか、
だいぶ作品全体の雰囲気は変わったなという印象がありました。
豆腐旅行に出かけたりする剽げた感じがあまりなくなり、幻想色がかなり増した気がします。
どちらが好みかといわれたら私は1作目の方が妙に好きだったりしますが、
今回の濃密な作品群にも酔わされました。伯爵ももちろん健在です。

視覚的に想像してしまう、おぞましいけど美しい作品が多かった気がします。色とりどりで・・・
いや、相当おぞましいんだけどね。ホラー?って話もあるし、ぎゃーと思いつつ。
でも前回の虫だらけの話とか蟹の話とか、そういうおぞましさとはまた別の、美しいおぞましさ。
表紙も印象的ですね、そう思うと。よく見るとすごい表紙よこれ。
おぞましさとは関係ないですが、上に書いてある伯爵風の鳥のイラストがとても好きです。

さて、これもひとつずつ感想を。

「夕化粧」
猿渡への手紙という構成で、ある男に起こった不思議な出来事が綴られます。
おしろい花が咲き乱れる庭。男の昔の妻はおしろい花で化粧をして死に、新しい妻も・・
おしろい花に籠もった女の怨念がおぞましいのだけれど、なんだか妙に美しくもあり、
その美しさ可憐さにぞっとさせられました。
短いですが、短編集全体の雰囲気も想像させるような一編でした。

「ピカルディの薔薇」
作家になった猿渡、ある人形作家と知り合う。彼は五感に障害があり、青くない薔薇を青いという。
彼の施設に行き薔薇園を見たりと交流があるが、その後彼が作る人形が・・

昨年、「虚無への供物」を読んで、「凶鳥の黒影 中井英夫へ捧げるオマージュ」という
豪華作家が競作した作品を図書館でぱらぱらとめくっていたら、そこに収録されてたのが
この「ピカルディの薔薇」。ということで「虚無への供物」のオマージュである。
結局オマージュ自体は豪華な執筆陣で興味はありつつまだ全部読んでいないんだけれど。

「虚無への供物」的幻想的な、でも妙に飄々とした雰囲気は津原氏の作風にも影響してるんだろうな、と
思ってしまうような、見事なオマージュ作品だ。奈々村女史と呼ばれる編集者まで出てくる。
青い薔薇をモチーフにして芸術家の執念を描き、咲き誇る薔薇園を想像しては身が震えるようだ。
自分が見えている景色が人にも見えているとは限らない、そしてそれが芸術にもなりうる。
そんなことを思った。しかしラストは映像化してこびりつきました。夢に見そう。怖い。
赤と青の鮮烈な色合いが・・

「籠中花」
南の島を買い取ってリゾート地にしようと思う女社長、冗談みたいな名前の白鳥飛鳥が、
猿渡と伯爵を連れて島に渡る。そこにある巨大ながじゅまるの樹には美しい少女の伝説があった。
ヤドカリが大量に渡ってくる島で、その夜彼らが見たものとは・・・

巨大ヤドカリの大量発生、絞め殺しの樹と言われるがじゅまるの恐ろしい習性が相まって、
相当怖いし哀しくもあるんだけど。えげつなさもここまでいくと滑稽というか・・・
白鳥飛鳥の執念が何とも恐ろしいわ。別の意味で。

「フルーツ白玉」
「籠中花」の続きのような後日談のような。白鳥飛鳥が今までに食べた珍妙な食べ物の話。

こないだ「もやしもん」を読んだんだけど、そこでいきなりアザラシに鳥を詰めて
発酵させる料理が登場した。すごい臭いのする場所で行方不明の女の死体が埋まってるかと思ったら
発酵したアザラシを埋めていた、というシーン。キビャックという料理らしい。

この物語でもそんな料理を食べた話とかが出てくるので、「うわーくさいのにー」と
知ったようなことを思ってみた。
血を吸った蛭を食べた兄の話なんかもつらつらと語る白鳥。蛭かよ!とか思いつつ読んでいたが、
結局は白鳥の淡い想いがフルーツ白玉に込められる。やっぱり庶民の味が一番か・・・。

「夢三十夜」
猿渡が延々と聞かされる、恋人の弟の夢の話。かと思ったら猿渡も性病にかかっていて
もちろん私は経験したことがないが、小便の時にべらぼうに痛いらしい。
夢も陰茎が絡んできていて、どっちの夢なんだかなんなんだか。境界が曖昧になっていく。
とにかく痛そうでつらそうだと思ってしまった。

「甘い風」
猿渡がよく行く古道具屋で出会った、幻のウクレレ。その前の持ち主は、ウクレレと
自分の大切なものを交換してしまう・・・・
津原氏はブラスバンドでベースを弾いていたらしく、そういや「ブラバン」や「赤い竪琴」でも
特に弦楽器への造詣が深かったなあと想いつつ読む。
私は管楽器をやるのだけれど、そりゃいい楽器はいい音なのは知ってるが、
自分の実力的なこともあって、楽器変えたら変わるようなもんでもないし、ということで
楽器にそんなにこだわりはないのだが、弦楽器となるとやっぱり違うんだろうなと思う。
響きが全然違うんだろうと思うし。弦楽器って綺麗だしね。

で、そんな風に楽器に取り憑かれた男のお話。いい音を奏でたい、有名になりたい、
そんな夢のために人生の大事なものを捨ててしまった男。一種の現代の寓話だが、
ほろ苦いがなんだか温かい後味が残る。
創作とは結局は過程なのだと語る猿渡の言葉に、作家として表現者としての成長がみえるような。
ウクレレなのがまた絶妙というか、バイオリンやギターだったらもうちょっといけすかない
話になったんじゃないかなと思う。ウクレレの優しい音色が響くようだった。

「新京異聞」
同じ猿渡とあるが、時代が違うので、今度は祖父だろう。瀬戸内の島に住んでいたという
猿渡の出自はよく話題になるが、祖父は一人で財産を食い潰した破天荒な人物らしい。
そんな彼が上海に渡って異世界に迷い込む。そんな物語。
昔の上海というだけで舞台装置的にいけてるというか、幻想味が溢れていて、酔いしれて読んだ。
そうそう、ここでも伯爵と呼ばれている人が出てくるのです。ここでは伯爵は指揮者で、
彼が猿渡を上海に呼ぶんです。なんか、現代との境目もそれで曖昧になって幻惑されるような
そんな気にもなりました。そんな遊び心も面白い一編。
| comments(0) | trackbacks(1) | 09:40 | category: 作家別・た行(津原泰水) |
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津原泰水『ピカルディの薔薇』
津原泰水『ピカルディの薔薇』 集英社 2006年11月30日発行 『蘆屋家の崩壊』続編。 売れないながらも小説家になった〈猿渡〉は、 ある日編集者の紹介で療養所暮らしの青年人形作家と知り合う。 以前自殺未遂を犯した彼は、脳障害が残っているという。 〈猿渡〉
| 多趣味が趣味♪ | 2008/01/25 10:56 PM |
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