本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「蘆屋家の崩壊」津原泰水
蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)
蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)
  • 発売元: 集英社
  • 価格: ¥ 560
  • 発売日: 2002/03/20
  • 売上ランキング: 85077
  • おすすめ度 4.5


「ミノタウロス」を読んで、ちょっと読書って怖いなと思ってたんだけど
図書館から借りた本は手元に積み上がってる。淡々とこなしていたら恐怖感も消えるだろうと
早速手に取ったのは家にあった文庫本。図書館で「ピカルディの薔薇」を借りてきたので、
その同シリーズの第一弾の文庫を先に読む必要があった。それがこの「蘆屋家の崩壊」。
探偵ものやし気軽に読めるかなと思った。探偵ものではなかったが、大正解。

津原泰水という作家さんはこれまで数冊しか読んでいないけど、どれもこれも外れがなくて、
かつバラエティに富んでいる。恋愛あり、青春あり、耽美あり。
相当幅広くて、どの1冊とか決められない感じがある。
あーでもこれは、このシリーズは特に好きだなあ。そんな中でも。
探偵ものと思ったのは短編集だし伯爵が出てくるから。
しかし「伯爵」はあだ名で、実際は怪奇小説家である。黒ずくめで伯爵っぽいから伯爵である。
その伯爵と、定職のない30代男、猿渡とがひょんなことで出会い、
お互い豆腐が何よりも好きというので妙に気が合う。暇な猿渡は伯爵の取材旅行につきあったり、
二人で全国の豆腐を食べに出かけたりする。彼らが出会う不思議な出来事を描く連作短編集。

豆腐が好きなんですよね二人とも。すごい拘って食べに行くの。グルメなの。
豆腐ってところが呑気でいいよなあ。美味しそうなんだよなーそれに。
でね、グルメだから、つい珍しい蟹につられて二人で行ったりしてしまうんだけど、
そこでちゃんと奇妙な出来事に出会ってしまうのだな。

だからか、だいたいどの作品も動物が絡んでいる。狐とか蟹とか水牛とか埋葬虫(実際いるらしい)とか、
ちょっと変な動物たち(ちょっとどころちゃうか・・)。食べることにも絡んでいる気もする。
語り口は何となく飄々としている。日常的。伯爵とかいうし、文体にレトロな匂いがあるので
最初は時代が違うのかと思ったけど現代だし、そう思って読むと普通だったりするんだけど、
日常的な普通の世界からふと不可思議な世界がぱっくりと口を開け、引きずり込まれる。
その瞬間が何ともぞくぞくとする。

だからまあ、ミステリじゃない。謎解き以上の何かが起こりうる。
日常的、飄々とした世界と幻想世界の絶妙なバランスにはまりこんでしまう。
ミステリとは違って、完璧な解決がないのもある。結局なんだったんだろう、っていう、
想像に委ねられる部分も多くて、それにラストですごくぞっとさせられたりとかする。
正体がわからないものって怖いよね。
そして、正体がわかっても怖いのだ、この作品の場合。

時々伯爵の出てこない、猿渡の回想的な物語もある。その時は飄々としたイメージが
少し減るので、「飄々」の犯人は伯爵だと思う。このコンビ、かなりステキだ。
作品の時系列がバラバラなので更に不思議感を醸し出していて、一筋縄ではいかない感じがまたいい。
一つ一つの短編が中身が濃いので、一つ読んではぼうっとしてました。贅沢贅沢。

猿渡、それにしても大変な人生。女運も車運も仕事運もないなー。特に車が可哀想・・
自慢の外車ばっかりなのにね。

各短編の感想。
「反曲隧道」
伯爵と猿渡の出会いのきっかけとなった、謎のトンネルの怪談。
トンネルの怪談はよくある話なんだけど、やっぱりちょっとひねってあって、
ラスト1行の恐怖は・・・。この短編集の幕開けにふさわしい。

「蘆屋家の崩壊」
猿渡と大学時代につきあいのあった蘆屋家のお嬢様に、豆腐旅行のついでに会いに行く二人。
蘆屋道満の狐の伝説をひきずっているのか、蘆屋家の美しい人々には秘密がありそうで・・
孤立した村のおどろおどろしい雰囲気や狐の伝説の謎が雰囲気を醸し出していて、
猿渡の悲恋、伯爵の活躍なんかも短い中にぎゅっと詰まっている、表題作にふさわしい一編。

「猫背の女」
猿渡が昔出会った、極端に猫背の女。一度映画を観たきりだったが、
その後猿渡の家が小火に遭い、それからもトラブルが多発し・・・。
一番不気味だったなあ。なんだろうこの怖さ。かちかち山の挿話が入ってくるのが効いていて、
結局何だったの!とラストが一番怖かった作品。
私自身が軽く猫背気味なので、これ読んで背骨矯正のベルトを買いました・・・。

「カルキノス」
カルキノスとは神話に残る巨大な蟹。伯爵の講演についていくついでに、珍しい紅蟹を食べようと
車で出かけた二人は、そのグロテスクな蟹が顔に見えて度肝を抜かれるが、
泊めてもらった先の若い妻に異変が・・・

真相がわかった時は「うぎゃー」でした。あかんねん、脚がやたら長い動物は私。
ちなみに紅蟹は平家蟹と似ていると思われます。確かに、顔が怒ってます。

「超鼠記」
猿渡が友達の会社で寝泊まりしていた頃の話。鼠が気になった社長が業者を呼ぶが、
奇っ怪な業者がやってきてベタベタをネズミ取りを設置、それに少女がつかまった・・・

猿渡は本当に数奇な人生を送っていて彼の遍歴を知るだけで興味深い。会社に住んでたなんてね。
で、やってきた業者が鼠についての蘊蓄をさんざん語るところで思わず面白くて噴いてしまった。
会話のやりとりがほんま奇妙で。こういうやりとりが普通に書かれるのが飄々とした印象のゆえんか。
予想は出来るが奇妙な展開で、ラスト1ページはぞっとした。そこで終わるのか、うますぎる。

「ケルベロス」
蟹の講演の時に知り合った女優の自宅に呼ばれた猿渡と伯爵。女優には双子の姉がいるが、
その村では双子は忌み嫌われていて、神社には犬の像が4体あった。

今度は犬だ。尾が蛇だという神話上の犬ケルベロス。伯爵が謎を解いた頃、猿渡は
双子の姉、交通事故で歩けなくなった姉と二人で出かけており、仲が急激に接近するかに見えたが・・

作品として一番わかりやすい物語でもあり、だからこそ哀しくもなった。
犬ネタは駄目なんだよねー。涙腺やられてしまうわ。


「埋葬虫」
昆虫の標本の会社にいる猿渡の友人は、若い社員と一緒に密林へ、そして若い社員は
難病を抱えて帰ってきた。もう助かる見込みはないという。そんな彼からカメラを借りた猿渡だが。

ああああああもうなにこの展開ああああああ。虫は嫌いなんだよう・・・・

何かに憑かれた人たちの姿が哀れでした。虫とか・・・。
そして全体的に、登場人物達は食べることに異様な執着を持っているような気がしました。
豆腐くらいなら別にいいんだけど。

一番印象深かった物語です。視覚的にも。まぶたの裏にラストシーンが染みつきました。
おぞましさの中に美しさをも感じてしまった自分をちょっと怖いなと思いました。

「水牛群」
猿渡が定職に就き、伯爵と会わなくなって数年。神経症を病んだ猿渡は、蕎麦屋でうわごとで伯爵を呼ぶ。
久々に再会した二人はホテルに滞在することになったが、ホテルで一人でご飯を食べに行った猿渡、
不思議なメニューをきっかけに、幻想の世界に入り込む。

ちょっと飄々とした雰囲気とは一線を画した幻想色の強い作品で、最後に酔いしれてしまいました。
恐怖が閉じこめられた瓶が、頭の中にある。その蓋が空いたままになってしまった・・・
猿渡の神経症の症状が最初にそんな風に描かれるけど、その描写がリアルでぞっとしました。
そして結局幻想というのは、今まで我々が生きてきた中で見てきた何かが正体だったり
するのですね。猿渡の持つ思い出と今回の物語がリンクした頃、ちょっとぐっとなったりしました。

電話一本できてくれた伯爵の優しさに心打たれました(結局伯爵のファンなのよ私は)。
今後の展開を示唆させるような伯爵の台詞もありつつ、余韻を持たせる締めの物語。
| comments(5) | trackbacks(2) | 09:32 | category: 作家別・た行(津原泰水) |
コメント
ざれこさん、こんばんは。
この間ざれこさんのNOW READINGのところで見かけて、なにやら心惹かれる題名と表紙だったので探して読んでみたんですが、当たりでした!
すごく好きなタイプのお話で。
ホラーも怪談も好きじゃないのに、何故かすごく好きな小説。
ゾッとするのにユーモアがあって、飄々とした伯爵がまたいい味だしていましたね〜。
全作制覇を狙います!
| tomekiti | 2008/01/25 11:06 PM |

tomekitiさん
おおお、はまってくれたのですね!嬉しいなあ嬉しいなあ。とっても面白かったですよね。怖さとユーモアのバランスがいいというか。本当にすごく好きな短編集でした。
お互い全作制覇を目指しましょう!津原さんは全部好きですけど、特に「赤い竪琴」が好きです。
| ざれこ | 2008/01/29 11:28 PM |

僕もされこさんの記事読んで読みました。
伯爵が出てくるってのが何故か気になって。

お話自体も面白いですが、豆腐好きなコミカルな二人もいいですね〜。
それとなんといっても結末のどんでん返しというか、あのわけのわからない終わり方がゾッとして好きです。

ぼくも早速「ピカルディ〜」を図書館でチェックしないと…。
| おんもらき | 2008/02/02 11:15 PM |

おんもらきさん
おお、読んでいただけて嬉しいです!伯爵気になりますよねー。伯爵って今時。豆腐好きもツボですよね。
各短編、どれも強烈な余韻を残してくれて好きでした。独特の妖しさがありますよね。
「ピカルディ・・」も、ちょっと豆腐度は減りますが、オススメですよ。
| ざれこ | 2008/02/18 12:21 AM |

はじめまして。ずいぶん前の記事ですが失礼します。
津原さんの作品は、とにかく文章が無駄がなくキレイで好きです。
現実だと思っていたら、いつの間にか不思議な世界に入っていて、おお、と感動することがあります。
その境界線を悟らせないくらい誘導や比喩が巧みなんですよね。
最近だと『バレエ・メカニック』が幻想的で、これでもかこれでもかと、技巧をこらしてくれるので非常に読み応えがありました。

| 8 | 2013/02/22 2:39 PM |

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津原泰水『蘆屋家の崩壊』
津原泰水(つはらやすみ)『蘆屋家(あしやけ)の崩壊』 集英社 1999年6月30日発行 定職にも就かずふらふらしている「おれ」と怪奇作家の「伯爵」。 共通点は無類の豆腐好きということ。 2人は旨い豆腐を求めて旅に出た・・・が、 二人が行くところでは何かが
| 多趣味が趣味♪ | 2008/01/25 10:59 PM |
蘆屋家の崩壊 / 津原泰水
蘆屋家の崩壊(1999/06)津原 泰水商品詳細を見る 無類の豆腐好きの「おれ」と怪奇作家の「伯爵」は旨い豆腐を求めて旅に出た。二人が行くところ...
| みすじゃん。 | 2008/02/02 11:10 PM |
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