本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「ミノタウロス」佐藤亜紀
ミノタウロス
ミノタウロス
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 1,785
  • 発売日: 2007/05/11
  • 売上ランキング: 156979
  • おすすめ度 3.5


本を読むということは私にとって、ストレス解消だし現実逃避だし、
その物語世界に没頭して違う人生を送れた気になったり、いろいろと得ることもあったりして、
楽しいことだと思っている。だから本を読んでいる。いきなりなんやねんって感じやけど。

ただ、こういう本に出会ってしまうと、その基本が揺らぐ。

違うねん、おもしろくなかったとかとは全然違うねん。むしろあまりにも没頭しすぎて
それが突如終わってしまった時のとてつもない喪失感にどっと打ちのめされたくらいで。
読み終わってすぐ寝たもん、精神的にあまりに疲れたから。

次に本を読むのが怖かった、正直。またこんな体験しちゃったらと思うと、ほんま怖くて。
本を読むのが怖くなったなんて、初めてかもしれない。
でも、こういう本を読むと、楽しいだけの読書って何だろうな、って気もする。
本が持つ威力を私はちょっと忘れていたんじゃないか、本にはこういう怖い部分、
引きずり込まれる部分はあってしかるべきであろうと、そんなことも思った。
主人公はウクライナの地主の次男坊「ぼく」。父はとあるきっかけで番頭から地主に成り上がり、
堅実に土地を耕し、都会から迎えた母は都会暮らしを忘れられず、兄はその母の人形と化し、
そして夜な夜な女を漁る。そんな家庭に育つぼくも都会に出ては頭の良さを隠して
農民ぶっては、できの悪い奴らを見下している・・・

そんなぼくが徹底的に堕ちていく様が容赦なく描かれている。
そりゃもう食うものもなく寝るところもなく、というどん底まで堕ちるのだが、
それだけじゃなくて、人間としても最低のところの更に下に下にとずぶずぶ堕ちていく。
人を殺し、殺さなければ殺されるから殺す、のを通り越してただ殺すようになり、
友達への友情とか愛情とかいったものもほんの少しは残っていたのに、それすらも失っていく。
戦争が起こっている。多分第一次世界大戦。それで世間は荒廃してはいるんだけど、
この物語でぼくが堕ちていくのは環境のせいではない。それすらも言い訳にならない。

それでも最後まで「ぼく」の一人称をやめない主人公のプライドというか、
それも哀れでやりきれない。

ミノタウロスというタイトル。私は最初、主人公の兄の姿を隠喩しているのかと思った。
牛の頭で人間の身体を持つ化け物。兄はぼくの目からは、ただ本能によって生きる
魔物みたいに見えていたから。でも違ったんだと思う。
化け物になってしまったのは、ぼくだったのか?そう思って戦慄した。

ぼくは次から次へと命の危機に瀕しながら、いろんな仲間を見つけては、徹底的に生き延びる。
ただ生き延びる、そのたくましさは本能そのものだ。
人間の全ての人間らしいところをそぎ落としていったら、
ただ生きる、そういう姿になるのかも知れない。
それでもね、ぼくはウルリヒが語る飛行機の夢を楽しく聞いていたのだし、実際に
飛行機が手に入った時(それが卑劣な手段によったとしても)には高揚もしたはずだ。
彼らはどうして空を飛べなかったのだろう、もっと高く。人を殺すだけのためにじゃなくて。
やりきれない。ほんまやりきれない。

あーあ、書き始めたら感情がたかぶってしまって、思いつくままに書き散らしてしまった。
ちょっと冷静になってみる。
本当に休憩の隙間もない怒濤のようなストーリー展開は、相変わらず時代背景をほとんど
説明されなくても何の支障もなくはまりこんでいける。読者を吸引するその引力はすさまじい。
ものすごく中身の詰まった濃い物語。とにかく夢中で読む。必死で読む。
今まで読んだ佐藤亜紀の、サイキックバトルといったものはなりをひそめ、
ここで描かれている人々はあくまで普通の人々。ただ、だからこそ私は怖かった。
ぼくの一人称で語られるにも関わらず、突き放したような客観的記述が続くのだが、
時折ほんの少し交じるぼくの本音というか人間らしさの部分にすごく胸をつかれる。

読書の凄まじさと魔力を改めて思い知らされた作品。読んでよかった。
読書、なめてはいけないわ。

| comments(6) | trackbacks(2) | 16:50 | category: 作家別・さ行(佐藤亜紀) |
コメント
こんにちは、りょーちと申します。

なんだかめちゃくちゃ面白そうですね。
読みたくなってきましたよ。

今週買ってきます(^^;
今は本を読む時間があまりないのでちょいと時間が掛かりそうですが是非読んでみたいです。

ではでは。
| りょーち | 2008/01/16 4:30 PM |

おぉっ!( ̄○ ̄;)
今日買ったばかりの本がUPされてたのでコメントさせて頂きます-。
っても、記事の内容は読まずに飛ばさせて貰いました(スイマセン!)。
読み終わった後に改めて記事を見させて貰いますo(^-^)o

あと、この前「スワンソング」をエントリさせてもらった時に自分のBLOGのURLを貼り忘れていたので……

本とはあまり関係ない事を書いてますが、覗きに来てもらえたら嬉しいです(*^_^*)
| | 2008/01/16 9:45 PM |

あれ?名前が変わってる…なんでだろ?

ニノでした。
| ニノ | 2008/01/16 10:13 PM |

りょーちさん
まだ読まれてませんかね?
気力体力ともに充実したころに読んでくださいね。でもオススメですよ。物語世界に生きたという圧倒的感覚です。

ニノさん
おお、読まれましたか?携帯サイトのようなのであまり覗きにいけてませんが、すいません。また感想教えてくださいね。
| ざれこ | 2008/01/29 11:22 PM |

はじめまして。以前からちょくちょく訪問させてもらっている者です。
最近読んだ本の書評が載っていたので、ついついコメント。
凄まじかったですねぇ、ミノタウロス!少年達が泥だらけになっても何とか這いずり回って生きている様が、硬質な文体で淡々と綴られていて、ほんとにもうすぐ読み終わりました。

あんまりだらだら書くと、いらん事色々書きそうで怖いので、この辺で退散します=3 この本を読んだ感動を誰かと共有したかっただけなのです。
また覗かせてもらいにきますね〜。
| 山形県 | 2008/04/03 11:17 AM |

山形県さん
はじめまして。コメント遅くなってすいません、よろしくお願いします。

すごかったですよね。私もすごい勢いで読んだのですが、ほんま体力使って、最後は放心しました。突き放されたようでつらすぎましたが、読んでよかったとも思いました。なんか思い出しただけで鳥肌たつなあ・・・

またよかったらお越しくださいね。
| ざれこ | 2008/04/10 1:34 AM |

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ミノタウロス  佐藤亜紀
読み終えて真っ先に浮かんだのが蛮虐という言葉。それが言葉として正しい、つまりは存在するのか自信はないけど、その字面がパッと浮かんでしまいました。つまりは、あまりにも野蛮で残虐。 理性とか道徳とか社会通念とか、それ以外にも同情なり自己嫌悪なり他人の目を
| 今更なんですがの本の話 | 2008/01/17 11:48 PM |
『ミノタウロス』佐藤亜紀
何者でもないということは――。 革命。破壊。文学。 「圧倒的筆力、などというありきたりな賛辞は当たらない。  これを現代の日本人が著したという事実が、すでに事件だ」――福井晴敏氏 人にも獣にもなりきれないミノタウロスの子らが、凍える時代を疾走する。
| 本を読め、本を。 | 2008/03/22 4:22 PM |
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