本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「とりつくしま」東直子
とりつくしま
とりつくしま
  • 発売元: 筑摩書房
  • 価格: ¥ 1,470
  • 発売日: 2007/05/07
  • 売上ランキング: 234924
  • おすすめ度 3.5


死んでしまった人達が、ぼうとした場所で「とりつくしま」係に出会う。彼が言うには、
「あなたは心残りがあるようだから、この世の「モノ」にとりついていいですよ」
そして彼らは何かにとりついて、この世に残る。
そんな人々を描く連作短編集。
東直子さんは歌人。歌集は穂村さんとの競作「回転ドアは、順番に」だけ読んだ。
短歌は正直感覚でしかわからないしどう評していいかもわからないが、
しっとりとしてほのかに官能的な、ステキな恋の歌を詠む人という印象。
そして初めての小説「長崎くんの指」の時も思ったけれど、文章がすーっと身体になじむ感覚。
柔らかいほんわりとした言葉遣いが自然に入り込んでくる感覚で、だからこの、
夢みたいな哀しいお話達にはぴったりとくる感じで、一つ読んでは哀しくなったり
温かくなったりしてぼんやりし、またゆっくりと一つ読む、味わう、そんな短編集だった。

読みながら思ったのは、私はモノを大事にしてないなってこと。
仮に私に思いを残して死んだ人がいたとして、ありがたくも私の周りの何かに
とりついてやろうと思ってくれたとしても、私にはとりつかれるものがない気がする。
楽器?本棚?パソコン?お気に入りの本?ipod?犬の首輪?毎日着てるコート?
うーん。どれも大事にしているとは違うような。ばりばり日用品やし、きっと使い古してしまうし、
誰かを想いだしてぼうっとできるようなものではないよな。そんなことを思って哀しくなる。
きっと、「ささやき」に出てくるお母さんのように、「レンズ」に出てくる孫のように、
無碍に扱ってしまうんじゃないか。
変な言い方だけど、とりつく側がやりがいのある大事なモノを持っている人達が、
まず羨ましかった。

死んじゃった人が動物とか他の人間とかになってよみがえるのがわりと今まで読んだものの
パターンだったから、モノになるというのは斬新だ。でもモノは動けないから、
いつでも好きな時に持ち主に会うわけにもいかないし、引き出しにしまわれたりするし、
野外で寒くてもそこにいなきゃいけないし、だからこそ切なくもあり、
そこから生まれるドラマはまた様々で、いろんな読後感を味わえた。

ずっと慕っていた書道の先生の白檀の扇子にとりつく「白檀」がすごく良かった。
彼をしたっていた桃子さんの想いが、扇子の風から匂い立つような。
ずっと恋する人の傍にいられた桃子さんは結局幸せだったんだろう。

「日記」も良かったなあ。妻の日記にとりつく夫、妻はいなくなった夫にあてて
日記を書き綴る。でも、妻には日記を書いている以外の日々もあり、それは夫にはわからない。
彼が知らない妻の日々がわかるとき、彼は、日記は。最後ちょっと泣けてしまった。

「ささやき」は、母の補聴器になった娘の顛末。そこで終わるのか、というやりきれないところで
ぷつっと話は途絶える。短編としてのキレがいいなと冷静に読みつつも、
一番哀しくて、でも母子家庭の一人娘としては、身につまされる話でもあった。

「マッサージ」も良かったなあ。お父さんは多分過労死し、マッサージチェアになって
戻ってくる。そのマッサージチェアは何故か家族に疎まれていて、誰も寝てくれないんだけど・・
でも・・・。最後の娘の台詞が泣けた。お父さん、生きててよかったね。

結局、死んだ人は、もう去っていくしかないわけだ。いくらこの世に未練があっても。
とりつくしま係は、彼らをモノとして戻すことで、大事な人のその後を見届けて、
ゆっくりとこの世とさよならをしていくのを手伝っているんだろうと思う。
だからこそ、どれもこれも寂しくて、でも清々しい物語になっているのだろうと思う。
人が生きて死んで、そして周りに何を残せるだろう、生きてるって何だろう。
短い短編なのにそんなことまで思った。

ラストの番外篇とも言える「びわの樹の下の娘」は、テーマは共通しているが一転して怖い。
女の怨念がどろっと匂い立つような。清々しい作品集の最後にこれがやってきて
何とも言えない複雑な余韻を残してくれた。
| comments(2) | trackbacks(2) | 10:25 | category: 作家別・は行(東直子) |
コメント
何の脈略はないかもしれないけれど
今日の記事を読んでなぜか
安部公房の「幽霊はここにいる」を思い出しました。もしまだ読まれてなかったら
是非お勧めですよ
| io | 2008/01/11 12:57 AM |

ioさん
わー知らないですその本。安部公房はほとんど読んでいなくて・・・。タイトルそそりますねえ・・・。
いきなりアマゾンで中古しか売ってなくてあれなんですが、戯曲ですかね。また探してみます。
| ざれこ | 2008/01/13 9:40 PM |

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「とりつくしま」東直子
とりつくしま東 直子 (2007/05/07)筑摩書房 この商品の詳細を見る この世に未練がある、死んだことに納得がいかない、どうしても会いたい人がい...
| しんちゃんの買い物帳 | 2008/01/10 9:07 PM |
『とりつくしま』
201ページはっと気がつくと、そこに「とりつくしま係り」がいて、あなたは死んだと告げます。そして、心残りもあるだろうから、なにか物にとりついていいと言う。声も出せなし、気配もかもしだせないけど、物にとりついて、愛する人のそばにいられる。いろんな人が、い
| 本のむにゃむにゃ | 2008/07/09 4:56 PM |
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