本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「アラビアの夜の種族」古川日出男
アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)アラビアの夜の種族〈2〉 (角川文庫)アラビアの夜の種族〈3〉 (角川文庫)


聖遷暦1213年。フランスからナポレオンの軍隊がカイロに攻め寄せてくる頃。
カイロでは近代軍隊の怖さを知らず、イスマーイール・ベイだけが危機感を持っていた。
彼は奴隷のアイユーブからフランス撃退の秘策を聞かされる。
それは、「災厄の書」の伝説・・・。
読んだ者は必ず、その物語に夢中になり、取り憑かれてしまうというその書を、
アイユーブは探し出すと言い置き、姿を消した。そして彼はある部屋に留まる。
そこには美しい女性ズームルッドがいて、そして彼女は物語を語りはじめる。

王の息子でありながら魔王となってしまった醜男アーダムの伝説。
そして、お互いが親の無い子として産まれ数奇な運命を担うことになる、
欠色の魔術師ファラー、高貴な出自を持つ悪党の剣士サフィアーン。
彼らの物語がその女性によって、毎夜毎夜語られていく。
その間にナポレオン軍はどんどん迫り、カイロは混乱を極めていく・・・・。
アイユーブは、そして災厄の書は、カイロを救うことが出来るのか?
っていうか、これは私にとって災厄の書でした。とほほ。夢中で読んでいたら
電車に忘れ物をして、駅員さんを煩わせ、寒空の中待つ羽目になってしまったり、
1週間読んでる間、やった仕事を覚えてない、とか、寝不足も極まれり、体調も崩して、とか、
そりゃもういろいろと弊害が。なんか全部この本のせいにしたくなってしまいますが、
まあそれくらい日常生活に支障を来す恐ろしい本ですよこれは。
あれだね、今ちょうどDSのファイナルファンタジーやってんだけど、
似てるよねあの感じと。洞窟とか出てくるしな。敵も倒すしな。剣士と魔術師と出てくるしな。
・・・そっくりやんか。なんかに似てると思ってたんだけど、RPGか。

でもこれは、書物で読まないと意味がないなあと思う。ゲームっぽいけどゲームじゃない、
本としての魅力が存分に詰まっている作品だ。
人を夢中にさせて滅ぼさせてしまう「災厄の書」なんて、本読みからしたら
気になって仕方がないものを作品に登場させ、さてこれから災厄の書の内容が
語られていく・・・という、なんともでかい風呂敷広げたもんねえ、
どうするのかねえ、大丈夫かねえ、と思わせる序盤だったが、
結局はこっちも寝食忘れて読んでるわけだから、十分説得力がある。
芸術とも言える文字を書く筆文家に任せて写させたその本は、装丁も芸術的に仕上げられ、
本そのものが既に芸術であり、そこに描かれているアラビアンナイト風冒険譚の
手に汗握ることと言ったら、このうえない。
本当に素晴らしい本が完成されようとしている、その歴史に立ち会っているような感覚がある。

そして、アラビアンナイト的物語の中にも、図書館が存在し、そして一冊の本が出てくる。
それを読んだ者が、本を自分のものとし、自らを「書物」であると言ってしまいたくなるような、
圧倒的な本が。

この物語は素晴らしい物語が産まれて、書物となって出てきて、そしてそれを誰かが読み、
その本人の中に入り込む、読者が本そのものとなるような読書をしている、
そんな過程を描いた物語なのかもしれない、と最後に思った。
本そのものになった、と言い切れるほど没頭できる読書なんて。
そんな邂逅が、この読書人生の中であるんだろうか。
本が、物語が紡ぎ出されることのすばらしさ、それを読んで味わえることのすばらしさ、
そんなものに溢れているような作品だった。そんなことを思った。

更にこの「アラビアの夜の種族」自体が、英語版で発見され古川氏が翻訳しているということに
なっていて、あとがきまでその調子で書かれている。そしてしつこいくらいに入る脚注が
また本物っぽくて、この本全体が一つの作品というか、
この作品そのものが謎に満ちている。そんな演出もたまらない。

その、私を夢中にさせたアラビアンナイトな冒険も本当に波乱に満ちていて、
3人の主人公がそれぞれたどる過酷でドラマチックな運命、そして彼らが邂逅する時、
世界がまた動き出すその有様は、本当にぞくぞくさせられる。
醜くて愛情をもらえず、魔王と化すアーダムも結局は憎みきれず、
憎しみだけで動いているファラーにも時折その哀しい運命に涙させられ、
純粋にただひたすら恋の病に憑かれたサフィアーンの行く末にもはらはら。
それが少しずつ小出しになり、現実のナポレオンの情勢に戻って、物語が中断してしまうのが
また続きが気になって仕方が無くなる。ナポレオンは迫ってきているし、
物語はまだ終わりそうにないし、どうなるんだ、という焦りも加わり、
だからこそますます頁を繰る手が止まらない。

ちょっと、悪者の蛇神がヒステリックな女みたいだったり、
現代的過ぎてかつ茶化してるように思える台詞回しが気にはなったけど。
古川氏の持ち味と言えばそうなので、そこは勢いで読んだ。
好みはあるかもしれない。俺についてこい的な空気は漂ってるかなあ。

で、現実と虚構が交じり合っていくにつれ、この本が推理作家協会賞とやらを
受賞した理由がわかったような気になってくる。あー、謎が解けていく!
SFとしてもミステリとしても評価され、ファンタジーでもあるようなこの作品、
なんか改めてジャンルわけとかって不毛よね、物語は物語としてただ面白くあればいいよね、
なんてことが身に染みるような展開。圧倒的に面白い。

3冊あるから長い間寝食を忘れて読む羽目になるけれど、どうぞはまりこんで
凄い本の威力に翻弄されてみたらいいです。忘れ物や睡眠不足に気を付けて。
| comments(3) | trackbacks(5) | 00:09 | category: 作家別・は行(古川日出男) |
コメント
この本は魔力を秘めていても不思議じゃないですよ。
私も変なところへ連れていかれそうになりました。
| たまねぎ | 2008/01/09 8:34 PM |

たまねぎさん
ほんま、日常生活に支障きたしまくりの本でしたよね。読んでいた1週間、やった仕事とかいまいち覚えていませんよ。文庫で3つに分かれて魔力が減ったのか更に増えたのか?
| ざれこ | 2008/01/13 9:34 PM |

これ、マジで良かったですよね〜。
終盤の魔術師同士のガチンコ対決に泣きそうになりました。
ベタなRPGっぽいのは、以前に「ウィザードリィ」の外伝として書いた「砂の王」が元になっているからだと思います。
実質的なデビュー作とは言えすでに絶版らしいので、その雰囲気だけでも感じられて、そういう意味でもファンには嬉しい内容でした。
| メグミ | 2008/02/02 10:16 AM |

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