本を読む女。改訂版

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# 「ぬかるんでから」佐藤哲也
ぬかるんでから (文春文庫 さ 45-1)
ぬかるんでから (文春文庫 さ 45-1)
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 550
  • 発売日: 2007/08
  • 売上ランキング: 62475


佐藤亜紀の旦那様でもあり伊坂幸太郎が心酔しているという佐藤哲也、
やっと読めたんだけど、あー好きだなあ。これ。まず表紙がかわいいわー。

ショートショートといってもいい短いお話がたくさん詰まった短編集。
薄いけれど、読み終わるのに3日かけた。最近短編の読み方が変わってきてて、
昔は「短編集」というくくりの一冊の本っていう認識で、わりと一気に読んでた。
けど、最近はひとつひとつの短編が一つの「物語」であって、その余韻に
浸らないともったいないような気がして、一つ読むと一区切りつけるというか。
だから長編より読むのが遅かったりするんだけど、すごく贅沢な感じを味わえる。
この作品は特にそうで、伊坂氏も解説で言ってるけれど、一つ一つの短編が
まるで長編のように濃密で、一つの世界観を作っていて、読み終わってふうと一息つける。
都合で何編か一気に読んでしまったけれど、一日1編でもおなかいっぱいかも。
表題作「ぬかるんでから」のもの悲しさと不条理さにいきなり参ってしまった。
いきなり街は水に浸かり、男は妻と高地に逃れる。そこにいる人々が飢えと渇きで
次々に参っていく中、男の妻だけは何も食べていないのに弱っていかない。
ただ妻は黙って膝を抱える。そこに闖入者が・・
追いつめられた人間の汚さ、そして妻の気高さ、男の無心の愛、そんなものが少ない頁数に
ぎゅうぎゅうに詰まっていた。虚しくも崇高な一編にくらくらした。凄い。

突拍子もない出来事がいきなり起こり、でも人々はそれにそんなに驚くこともなくなじんでいく。
人間がとかげになったり、喋るカバが現れたりと、動物がたくさん出てくるのも、
不条理な世界観に滑稽味が加わって、哀しい話だったりしても温かさを感じさせるのだった。
ひとりぼっちの男の前に猿が出てくる話とか、すごく孤独なのに、猿がお茶を飲んでたりして
かわいらしくて、ほっとしてしまう。
カバが出てくる話が特に味わいがあった。ラストの数行がうまい。

男が主人公なことが多いが、妻が一緒である。男は妻の言うとおり、盲目的に行動することが多い。
妻が「春を探しに行く」と言ったので、自衛隊がこぞって警備している山の中に押し入る夫とか、
彼らの姿がまた興味深かった。妻をとにかく大事にしているその感じ、いいなあ。
佐藤哲也氏も愛妻家なんだろうか。妻と夫、当たり前のどこにでもいる
二人に起こる不条理な出来事、彼らに名前がないことで、
現実とファンタジーの境界を曖昧にするような作用がある(と、伊坂氏が書いていた気がする)
ようだが、私は妻が出てくる作品からは全て、どこか不思議な妻を無条件に愛し、
そして恐れ敬う夫の姿が色濃く浮かんできて、それも作品にえもいわれぬ温かさを
加えているのかな、と思った。だから好きなのかなー。

そんな温かくて不条理なあり得ないファンタジーが次から次へと。いろんな世界に誘われて、
楽しくて目が回りそうである。
シュールな「つぼ」もオチが好きだったし、巨人が何もしない「巨人」とか、
「墓地中の道」もインパクト強く、ほのぼのしたタイトルの「きりぎりす」は超怖い。
どれもこれも、映像が頭にくっきり残っているような、そんな物語たちだった。

そして最後に「夏の軍隊」で締める。空き地にいきなり現れた軍隊。
飢えた彼らにお菓子を持っていく子ども。なんだか泣けた・・・。
これがラストでよかったなあ。

| comments(0) | trackbacks(0) | 15:25 | category: 作家別・さ行(その他の作家) |
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