本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「隣の家の少女」ジャック・ケッチャム/金子浩訳
隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)
隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)
  • 発売元: 扶桑社
  • 価格: ¥ 720
  • 発売日: 1998/07
  • 売上ランキング: 1736
  • おすすめ度 4.5


12歳の私ディヴィッドは、ある時年上の美しい少女と出会う。
彼女はメグ、両親を交通事故で亡くし、妹のスーザンと共に、ディヴィッドの隣の家、
ルースの家に引き取られることになったのだ。心弾むディヴィッドだが、
メグとルースの仲がだんだんおかしくなり、やがてメグはルース達家族から
酷い仕打ちを受けるようになっていく。それはどんどんエスカレートし・・・

本を読む人々。SNSで読書会の課題になってはじめて知った作家、J・ケッチャム。
S・キング絶賛のホラーであるこの作品は、9月読書会の課題だったが、
読むのが遅くなってるうちに「怖い」だの「もう本を手放したい」だのの
感想が並び、読む前から挫折しそう、頁を繰る頃にはもう先入観で頭がいっぱいだった。
私が怖かったのはむしろ、これを読んでも自分が怖いと思わないんじゃないかってこと。
最近、現実に酷い事件が多すぎる。いじめもそうだし、事件も全部。
凄惨だけど、動機がないよね。「誰でも良かった」とか殺人犯が平気で言う。
まだ「怨んでいた」とか「金がらみ」とか、火曜サスペンス的動機があったりすると、
ほっとしたりしてしまうくらい。
あまりに日常に事件が多くて、悲惨な事件でもすぐに記憶から消えていく。
人間の不条理さ残酷さ理不尽さ、そんなものを日々見せ付けられ、更に私自身も
そういう人の闇を覗き見るような、そんな作品を選んで手にしている。
露悪趣味的な要素が自分にあることも自覚してる。
そんな私がね、かなり昔に書かれたこの作品を、怖がれるのかな、と、
それが怖かった。これを平然と読めてしまったりして、
もうそういう感覚が麻痺してるんじゃないと。それが怖かった。

読み始めても、最初はそんなに怖くなかった、正直。半分くらいまではそう思ってて、
やっぱり麻痺してるのかなあ、人としてどうよ自分、と怖くなりながら読んでいた。
でも、最後まで読んで打ちのめされた。怖かったというのと少し違うんだけど、
あまりの衝撃というかダメージに、しばらくぼんやりしてしまった。

ホラーというのは、「こんな目に遭ったらどうしよう」、例えばいきなりナイフで
切りつけられたりとか、そんなことがあったらどうしよう、といった風に、
自分が被害者になった時を想定して怖がることになると思うんだけど、
この作品の場合は、なんか違う視点で読んでしまった。
自分が加害者になるかもしれない、そんな要素があるんじゃないか、そんな恐怖があった。
だから余計恐ろしかった。

隣の家のルースは夫と別れ、女手一つで子どもを育てている。ディヴィッドからみても、
豪快でうるさいことを言わない、子どもに人気のある女性。
過去は美しかったであろう外見をしている。
そんな普通の、いやむしろ好感が持てる女性だったルースが、メグの登場で変わる。
メグは15歳、美しく、意志が強い。若く美しいが故の確固とした強さを持っていた。
今まで女手で子どもを育て無意識的に鬱屈が溜まっていたルースはメグの
美しさと、将来のある若さに、自ら失ったものをみたのだろうと思う。
ルースはいつまでたっても女だった。過剰なほどに。
その鬱屈がメグに投げつけられるが、メグは屈しない。メグは正しく強いからだ。
メグがあまりに強いのでその強さが痛々しくて、更にそれが悲劇を生む。
私は最初メグへの同情よりも、早く折れてしまえば、最初にそんなに頑固にならなければ、
悲劇は避けられたんじゃないのか、とそればかりが気がかりだった。
正しいからうまくいくとは限らないのだ。
読み進むにつれて、メグの不屈の精神に救われることも増えたが、
私は一時期、加害者の気持ちで読んでいたのだった。

同じ女として、女を捨てきれないルースを全く理解できないような気持ちと、
逆に本能的にはわかってしまうような気持ちが拮抗して、ものすごく暗い気持ちになった。

こないだ女子大生とイベントに参加したんだけど、彼女が少しいい加減な人で、
私すっごい腹がたったのよ。何か言ったりいじめたりはしないんだけど(気弱だから)、
でもこの腹立ちが彼女の若さとホットパンツから伸びた綺麗な脚に起因するのか、
私は放ったらかされてるのに彼女は男性陣にちやほやされることに起因するのか、
単に本当に彼女が悪いのか、私には結局わからなかった。
あんな苛立ちをこれからずっと感じていくことになるんだなあ、とか思っていたけれど、
それがどろどろと煮詰まり、究極の形を取ったのがルースの姿なんじゃないのか?
なんて思うと、自分が怖い。本当に怖い。

なんて、直接加害者に対する恐怖も感じながら、より恐ろしく思ったのは、
傍観者という名の加害者になり得るかもしれないという恐怖だった。
ディヴィッドは、メグがどんな目に遭ってもただ見ている。
何とかしなければと漠然と思っているが、自分が手を下していないことで、
安心のようなものを感じているのもわかる。自分は部外者だと。違うのだと。
12歳の子供にそれ以上何が出来たのか、それを思うと、彼の後半の動きは
感嘆に値するが、傍観者という視点について。
見てるだけで何もしなければ加害者ではないのか。それは絶対違うだろう。

電車内で女性が強姦される事件が起きた時、車内でいる人は誰も助けようとしなかった。
ナイフで脅されたようだけど、誰も何もしなかった、とニュースで聴いて、私は憤った。
自分がそこにいたらきっと何とかしよう、私は何度もそう思った。
でも、本当に何とかできるのかどうか、恐怖に打ち勝って携帯電話を取り出せるかどうか、
これを読んで私にはわからなくなった。傍観者ディヴィッドを仕方がないと
思ってしまう自分がいたからだ。私だって、何もしていないことに安心して、
そのまま目を閉じてしまいはしないか?
そんな場面に立ってみないとわからないけれど、私はその時車内にいた人たちを、
責める気持ちはなくなったのだ。自分がそうならないとなぜ言い切れる?

傍観者も加害者で、そして被害者の痛み悲しみに鈍感すぎる、この物語。
ルースの息子達が、メグを地下室に監禁したまま、何事もないかのように
普通に生活を続けている、そのことが一番怖かった。
どうして何も感じないのだろう。何もかもに無関心になってしまう、
自分だけがよければそれでいい、どうしてそんな人間がいるんだろう。
でも人間なんて所詮そんなものかもしれないじゃないか、
究極の場所に立ってみなければ、わからない。私だって、そうだ。

怖かった。そんな自分を見つけるのが怖い。そんな物語だった。

ホラーというとただのエンタメなイメージだけど、
そんなことを深く深く掘り下げさせられる、深い作品だった。
読んでよかったが、二度と読みたくないし、ページをめくりたくもない。誰にも薦めたくない。
ケッチャムももうごめんだ。今のところは。
でも凄い作家というのはわかる。これだけ私に衝撃を与えるこの作品、傑作なんだろう。
| comments(0) | trackbacks(0) | 01:26 | category: 海外・作家別カ行(その他の作家) |
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