本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「マグヌス」 シルヴィー ジェルマン/辻由美訳
マグヌス
マグヌス
  • 発売元: みすず書房
  • 価格: ¥ 2,730
  • 発売日: 2006/11
  • 売上ランキング: 99794
  • おすすめ度 5.0


ぼくは5歳までの記憶がない。
ぼろぼろで耳が焦げてしまったクマのぬいぐるみ、マグヌスだけがぼくのそばにある。
ぼくは記憶を無くしてから、世の中の全てを覚えていようとあらゆるものに目を向ける。
母はぼくに過去を聞かせる。しかし、ドイツが敗戦し、敗戦側にいたぼくたち家族の運命は一変。
流転する運命の中、名を変え、国を変え、ぼくはいつもマグヌスと一緒に過ごしていく。
ぼくは誰なのか?そして、どこへ行くのか?

フランスのゴンクール賞とやらを受賞したらしいです。
よく知らなかったんですけどゴンクール賞って、フランス高校生が選ぶ作品らしく、驚きました。
(あとで知りましたが普通のゴンクール賞、高校生が選ぶゴンクール賞、2つあるそうです)
フランスの高校生・・・・レベル高い・・・。高すぎる・・・。読み終えてまずはそれに感服。
見た目は非常にかわいらしいんですが、大変重い本でした。
ぼく(フランツだったりアダムだったり・・・)の人生の断片、反響、注記、といった
文章の欠片のようなセンテンスで描かれていく物語、正直読みづらかったし、少し手こずりました。
訳文とかそこらへんにも。展開は非常に早く、ぼくの人生は何度も反転します。何度も何度も。
愛を得られなかった幼少時代、母が刷り込んだ嘘の過去、そしてイギリスに逃げ名前を変え、
初恋を経験し、そのころからぼくはぼくのルーツをたどりはじめます。
行方不明になった父の痕跡をたどりながら、ぼくは何者なのか、彼は考え続けます。メキシコで、
で、ぼくがやっと愛を得た、これで現在に生きられる、と思ったとたん、
それは瓦礫と化し、失われてしまいます。度重なるリセット。

そのたびにぼくが名前を変えていくのが象徴的でした。名前は記号に過ぎないけれど、
自分というものが一度なくなって新しくなるくらいのことに彼は幾度となく出会い、
そのたびに自分とは何かを思い続けます。小さい頃の記憶なんて私だってほとんど無いけれど、
単に忘れたのと無くしたのとでは雲泥の差で、そのため彼はずっとずっと、
それにこだわり、縛られ続けます。
そして罪人となった父への思い。愛情を注いではくれなかった、実の父ともわからない、
そしてナチにいて大量虐殺をした父への嫌悪感が彼の中でずっと根付いています。
名前をいくら変えても、輝かしい今だけが消えていき、過去は消えてくれません。

途中、何度か何もかも捨てる彼ですが、最後のあの事件は本当につらくて、
やっぱり過去からは逃れられないのか・・・、と切なくなりましたが、
絶望の中から彼が最後見つけ出した境地は、ほんのりと温かく、
私をも解放してくれた気がしました。

何者かわからない自分でも、今まで生きてきた自分があって、
中心にある自分の核は揺らがないというか、芯が一本通ってるというか、
そういう強さをすごく感じた本でした。
過去がどうだろうが、出自がどうだろうが、一人の人間はかけがえない一人として、
そこに立っていて、それでいいのだと。

私も就職活動中は流行っていた自分探しに奔走し、それは今でも続いていますが、
所詮自分は自分、と良くも悪くも思っています。過去の積み重ねが自分を作り、
そして今がある、日々の大事な人とのつきあいとかでそれを実感している日々です。
たまたま、本拠地が揺るがず同じ場所で同じ立ち位置でいますから、
派手に変貌したりがらっと人生変わったりしないけど、その穏やかさも悪くない、
そんな日々を過ごして、迷いは少しずつ消えているような気がします。
それでも「過去」をひきずるのが人生でもありますが、「今」をいかに生きるか、
その瞬間の繰り返しを大事に過ごしていきたいな、と、改めて思いました。
主人公が自分を探し続けるその物語が、迷える高校生達の琴線に触れたのかも知れませんね。

ちょうど夏、戦争について考える時期に読んだのでタイムリーだったと思います。
戦争には加害者も被害者もなく、ナチスとして加害者側に立った者でも、
その家族は普通に生きたかったのだ、でもその人生は簡単に犠牲になる。
勝者の正義が敗者を悪にする。そんな残酷さも思いました。ナチが正しいなんて思わないけど、
戦争とは勝った方が後世までずっと勝ち続けるもんだな、と、そんなことも脳裏をよぎりました。
でもこれは余談で。戦争が悲惨だーと大きく叫ぶような物語ではなく、
これはただの一人の男のシンプルな物語だと思いました。そこも含めてじんわり好きです。
| comments(0) | trackbacks(0) | 15:14 | category: 海外・作家別サ行(その他の作家) |
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